「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を上の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。

第50回管理組合オンラインセミナー/『トータルマネジメント方式で大規模修繕工事を実施 管理組合目線で、元理事長が経験談を講演

 一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)は2月21日、第50回記念管理組合オンラインセミナーを開催しました。今回のセミナーは「管理組合 独立宣言」をテーマに、全建センター理事、3回目の大規模修繕工事を実施
した当時の管理組合法人理事長がそれぞれの立場で講演を行いました。ここでは全建センターのトータルマネジメント方式(TM方式)を利用し、大規模修繕工事を完了したグリーンコーポ町屋管理組合法人・柿沼昇元理事長の経験談の講演を掲載します。

TM方式の実例紹介~給排水設備編~

 東京・荒川区にあるグリーンコーポ町屋管理組合法人で理事長を昨年まで務め、2年の任期を無事に完了しました。また当マンションで実施した大規模修繕工事の修繕委員長も務めました。本日は、「管理組合独立宣言」というテーマのもと、管理組合目線から見たトータルマネジメント方式についてお話をいたします。

 トータルマネジメント方式では、プロジェクトマネジャーが大変重要な役割を担います。プロジェクトマネジャーは、その管理組合・理事会と同じテーブルに着くパートナーとなります。
そして、管理組合・理事会、プロジェクトマネジャー、大規模修繕工事を行うパートナー施工会社がともに、パートナーとなります。
 私たちのマンションの大規模修繕工事においては、全建センターの佐藤成幸筆頭理事にプロジェクトマネジャーになっていただき、工事を無事に完了することができました。
 このプロジェクトマネジャーの存在がトータルマネジメント方式では大きな特徴になります。責任施工方式や設計・監理方式とは大きく異なる特徴です。


■グリーンコーポ町屋管理組合法人について
 所  在:東京都荒川区
 建  物:1979年8月竣工・SRC造・10階建て・134戸
 管理形態:自主管理、理事9人(任期2年・輪番制)
 修繕履歴:
  1991年 第1回大規模修繕工事(責任施工方式)
  ・ 当時、マンションに住んでいた大手建設会社の方が中心になって実施。金融機関から修繕費を借り入れるため法人化を行った。

2006年 第2回大規模修繕工事(設計・監理方式)
  ・ 前回工事から15年目に実施。建築総合コンサルタント会社に設計・監理を依頼し、改修専門会社が施工を請け負った。
2020年 第3回大規模修繕工事(トータルマネジメント方式)
  ・ 先延ばしにしていた大規模修繕工事を築41年目、前回工事から15年目に実施した。プロジェクトマネジャーのアドバイスから工事内容・仕様に十分な時間をかけたため、準備期間を2年6カ月とした。2年任期の理事会のサポートとして修繕委員会を立ち上げた。


■大規模修繕工事を進めるにあたり、留意したこと
 私たち理事が留意したことはまず、「透明性、公平性、公正性」を保つことです。
 区分所有者、居住者への報告が必要な内容については、毎月1回開催している定例理事会の議事録に記載をしました。そして説明会、臨時総会を随時開催。進捗状況を報告し、理解を得るよう努めました。決議事項がある場合には臨時総会で区分所有者の承認を得ました。
 そして、大規模修繕工事に対して4つのコンセプト(1.安全・安心2.防水3.断熱4.美観)を策定しました。
 マンションの安全を確保して、毎日の生活を安心して送れるようにする、これが大規模修繕工事の最大の目標です。次に防水。前回の工事から15年が経てば防水の性能が劣ってきているため、防水性の向上もコンセプトのひとつにしました。断熱は、古いマンションなので結露によってカビが発生しているという苦情がありました。美観は、毎日のマンションの生活を快適に送るために重要なコンセプトであります。これら4つのコンセプトを策定して、大規模修繕工事に反映させました。コンセプトを策定したことが本当に役に立ちました。工事内容の選択等で悩んだ時に4つのコンセプトを拠り所にして工事計画を進めたのです。


■トータルマネジメント方式による管理組合へのサポート
1.管理組合理事への基本的な教育
 毎月1回行っている修繕委員会でプロジェクトマネジャーによる勉強会を行い、マンションの代表的な部位や工事用語の解説、見積書の見方を教えてもらいました。その結果、パートナー施工会社から提出される見積書内容を理解できるようになりました。
 といっても、見積書の詳細を理解できるということではありません。見積書に書かれている内容がどのようなことを言っているのか、何をしようとしているのかが理解できるようになったということです。
 また、防水メーカー、塗料メーカーにも勉強会に来ていただきました。メーカーには事前にマンションの調査をしてもらい、どのような材料が適しているのか、その特徴などを説明してもらい、理解できるようになりました。
 住民への説明会、総会を含めたマスタースケジュールを立案してもらい、具体的な工事の日程も共有化できるようになりました。

2.パートナー施工会社の選定 まずプロジェクトマネジャーにパートナー施工会社の公募では募集要項を策定してもらいました。募集にあたってのマンションの情報、施工会社の応募資格、提出書類、また公募の実施や応募会社への対応など、専門家としての知識と経験を生かして対応をしてもらいました。
 今回は7社の応募があり、その7社ともにプロジェクトマネジャーが設定した基準点を超えていたので、7社すべてに見積もりを依頼しました。そして理事会の承認を受けて、7社に対し現場説明会を開催、見積書の提出を依頼しました。
 パートナー施工会社の決定は総会決議です。その総会でプロジェクトマネジャーに候補会社の比較、各社ヒアリングを通しての総評を説明してもらいました。結果、理事会の推薦する会社がパートナー施工会社に選ばれました。

3.トータルマネジメント方式での相見積もりについて
 大規模修繕工事を進める上で重要なことは、工事の仕様をしっかりと立案することです。時間と費用をかけて、マンションの調査診断を行うことがたいへん重要となります。
 しかし、ここで問題点が発生します。パートナー施工会社の候補となる全社に調査診断を依頼すると費用と時間がかかってしまいます。これは相見積もりがとれないとパートナー施工会社が決められないという考えのもとで起こります。
 トータルマネジメント方式ではこれに対策があります。それは前回に実施した大規模修繕工事の仕様で見積もりをとるということです。
 このやり方によると、①費用と時間を節約できる②現時点での工事費値上がり感がつかめる③工法、使用材料および費用の比較ができるといったメリットがあります。効果的に候補各社の特徴や姿勢を比較することができるようになるのです。


4. 大規模修繕工事の仕様、マスタースケジュールおよび予算の決定
 パートナー施工会社の決定後、プロジェクトマネジャーにはそのパートナー施工会社とともに工事を進める上での対応をしてもらいました。内容は、①調査診断の結果をもとに工事仕様の提案および説明、②その仕様に基づいたマスタースケジュールの提案、③工法、材料の説明を行い、理事会の承認を得ながらの予算の立案などです。ひとつひとつ確認しながら行うことで理事の工事への知識や理解がさらに深まっていきました。

5.大規模修繕工事の完了
 工事完了時に、パートナー施工会社が作成し、プロジェクトマネジャーが詳細をチェックした竣工図書を提出してもらいました。
 その内容は、①仕様書・設計図、②工事費内訳および工事費積算書、③工事記録写真、④保証書、⑤工事材料リストおよび材料カタログ、⑥修繕委員会議事録および提出資料です。これらの資料は次回の大規模修繕工事の際に活用できる、たいへん重要な資料となります。


6.長期修繕計画の立案
 パートナー施工会社と協力して長期修繕計画を立案してもらいました。この長期修繕計画は、今回の大規模修繕工事が終わって、何年後にどういった修繕を行い、その費用がどのくらいになるのかの計画です。これによって修繕積立金を見直し、定期総会で議案化し、区分所有者に諮ることになります。そうすることで次回の大規模修繕工事で区分所有者の方からの拠出金の心配がなくなります。


■大規模修繕工事のフォローアップ
 大規模修繕工事が無事に完了した後で、次回の大規模修繕工事までの間にメンテナンスを適時行い、長期修繕計画を確実に行うことがたいへん重要です。ですがこれには問題点があります。特に私たちのマンションのような自主管理のマンションでは、管理組合による自発的な対応は難しいということです。
 そこで私たちは大規模修繕工事後のコンサルタント契約をプロジェクトマネジャーと締結しました。これによってサポートの継続が可能になります。
 管理組合の理事が交代しても、マンションの定期的メンテナンスや長期修繕計画に基づく適時適切な手入れの提案を受けられるということです。
 コンサルタント契約で得られるメリットは、大規模修繕工事後の保証体制を確立できるということです。工事には各項目に保証期間があります。その保証点検時に他の項目の点検も行い、もし必要な修繕工事があれば、その工事を計画して実施できるようになります。
 また保証期間が過ぎた後でもパートナー施工会社に対してメンテナンスの確実な実行を行うことができます。つまりパートナー施工会社任せにしないということです。
 次に長期修繕計画の確実な実施対応です。これが一番大きなメリットになると思います。理事が交代しても長期修繕計画に沿って適時適切なサポートを管理組合にしてもらえます。管理組合に自発的な対応を促すことができるのです。
 また大規模修繕工事以外の工事へも対応してもらえます。マンションが受けた自然災害や長期修繕計画以外に必要となった工事についても、技術的なアドバイスを随時いただけることになります。
 これによって住まいの安心・安全の向上を図ることができるのです。


■「管理組合の自主・自立・主体性」について
 大規模修繕工事は区分所有者および居住者のために行うものです。管理組合が主体的に責任をもって行うことが望ましい、これは間違いありません。
 ですが、言うは易く行うは難しです。トータルマネジメント方式により、管理組合に専門家のサポートをいただくことで、大規模修繕工事の実施に対して不安がなくなり、自信をもって計画を立案して工事を進めることができます。
 つまり、管理組合の自主性・自立性・主体性を高めることができて、マンション全体で大規模修繕工事を進めることができるのです。
 トータルマネジメント方式による全面的なサポートのおかげですばらしい大規模修繕工事を行うことができました。改めて感謝を申し上げます。

大規模修繕工事新聞(136号)