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ネット投稿による名誉棄損は明らか 「発信者情報を開示せよ」

【概要】
原告:Aマンション居住者(区分所有者、会計担当理事)
被告:電気通信事業者
 本件は、氏名不詳者が、マンションコミュニティという掲示板サイトの「【契約者限定】Aマンション」というタイトルのスレッドに「部落差別犯罪者は、被告席に座り判決を待つことになる。そんな人間が会計担当だとはね。危ないね」等という投稿を行ったことから、Aマンションの管理組合の会計担当理事を務めていた原告が、電気通信事業を営む被告に対し、投稿の発信者に対して損害賠償請求権等を行使するために、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、被告の保有する上記投稿に係る発信者情報の開示を求めたという事案です。
 裁判所は、「発信者情報目録記載の各情報を開示せよ」と被告に命じました。

◆プロバイダ責任制限法= 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
【裁判所の判断】
 本件における争点は、氏名不詳者による上記投稿によって原告の名誉が毀損されたことが明白か否かという点です。
 これについて裁判所は、本件においては、「【契約者限定】Aマンション」といったスレッドのタイトルや、一連の投稿には断片的ながらも、「管理組合の役員」「会計担当」との文言のほか、「もうすぐXさんも退任」などとの原告を想起させる記述がある一方で、もう一人の会計担当理事の氏名に係る情報の記載はないこと、本件スレッドはテーマや閲覧者がある程度限定されているものと考えられることなどからすると、原告の属性の幾つかを知る閲覧者であれば、本件投稿が原告に関するものであることは十分に理解できると判断しました。
 その上で、本件投稿は、少なくとも、原告が部落問題について差別的な言動をとる人物であるとの事実を摘示するものということができ、当該事実は、それ自体、人の社会的評価を低下させるものであるというべきであるとして、本件投稿により原告の名誉が毀損されたことが明らかと判断しました。
 そして、被告に対し、投稿者の氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの開示を命じました。


【コメント】
 ネット上の書き込み等によって名誉毀損や誹謗中傷を受けた場合、被害を受けた者は、書き込みを行った者(発信者)に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。
 もっとも、通常、ネット上の書き込みは匿名で行われ、発信者を特定できないことが多いのが現実です。発信者の氏名や住所が分からなければ、損害賠償請求等の法的手段をとることができません。
 このような要請から、プロバイダ責任制限法では、被害者が一定の要件を満たせば、プロバイダ(電気通信事業者)に対して、権利侵害情報の発信者を特定できる情報(発信者情報)を開示するよう請求することができることを定めています。
 開示請求が認められるための要件は、主に「権利が侵害されたことの明白性」および「開示を受ける正当な理由(損害賠償請求等のために必要であることなど)」からなります。
 開示請求の具体的な手順としては、まず①掲示板の管理者(コンテンツプロバイダ)からIPアドレスやタイムスタンプ等の発信者情報の開示を受け、その情報を基にインターネットサービスプロバイダを特定し、さらに②インターネットサービスプロバイダに対し氏名・住所等の発信者情報の開示を求めるという二段階の手続きが必要になります。
 本件は、電子通信事業を営む被告に対し、氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの開示を求めたという事案ですので、上記の②の段階の事案ということになります。
 この裁判では、発信者情報開示の主な要件である、権利が侵害されたことの明白性が問題となりましたが、裁判所はスレッドのタイトルや他の投稿の内容も含めて投稿の対象者と原告の同定可能性があるとし、投稿内容から原告に対する名誉毀損が明らかであると判断しました。
 本訴訟により、発信者の氏名や住所等が明らかになりますので、原告はこれらの情報をもとに発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等を行うこととなるでしょう。
 ネット上の書き込みは、匿名で行われるので、発信者を特定することは困難と思われがちですが、上記のとおり、法的な手続きを踏めば、発信者を特定することは可能です。
 また、最近はSNS上での誹謗中傷等の深刻化等に対応するため、発信者情報の開示手続きをより簡便に行うための手続きの創設が議論されており、今後の動向が注目されます。

 

(大規模修繕工事新聞  139号)


 


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