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第52回管理組合オンラインセミナー/機械式駐車場を撤去し、増収効果が見込む 駐車場平置化工事の手順と問題点および工事実例

 一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が6月27日、オンラインで開催した第52回管理組合セミナーの模様を紙上採録します。今回は駐車場平置化工事の手順と問題点および工事実例について、全国建物調査診断センターの徳井芳栄氏の講演を掲載します。講演の内容はYou Tubeにより動画配信を行っています。

■機械式駐車場の平面化工法
 機械式駐車場の解体工事は共通ですが、平面化にはいくつかの工法があります。その中で代表的な工法は、①地下ピットを砕石等で埋め戻し、アスファルト舗装やコンクリート床を設置する埋め戻し工法、②軽量な鉄骨で柱と梁を組み立て、その上に強度および耐久性のある鋼製の床材を設置する鋼製平面化工法です。

 工事費用については、一般的に埋め戻し工法のほうが安くできます。ただし、地下2段式などで地下ピットが深くなる場合は、同額か逆転する場合もありえます。
 工期については、鋼製平面化工法のほうが短くできます。施工可能な場所は、埋め戻し工法の場合、かなりの重量がかかるため、場所が限られており、屋内、軟弱地盤のところは不可となります。
 これに対し、鋼製平面化工法は全体に軽いため、屋内や軟弱地盤でも可能となります。
 工事についての信頼性ですが、埋め戻し工法は単純な作業なので施工可能な業者も多く、ピンキリです。鋼製平面化工法はある程度のノウハウが必要なため、施工業者は限られたものになります。
 将来的に再び機械式駐車場を復活させたい場合、埋め戻し工法は困難で多額の費用を要しますが、鋼製平面化工法は比較的簡単に、かつ安く短期で施工可能です。
 改修後のメンテナンス費用ですが、埋め戻し工法はラインや表層の劣化補修が10 ~ 15年に1回、鋼製平面化工法はこれに加えて排水ポンプユニットの交換費用などが発生します。
 埋め戻し工法は陥没などの不具合があり得るので、工事保証を契約内容に加えることも検討すべきでしょう。

■施工図作成および現地測量
 工法が決まれば契約前に現地で測量、および施工図作成を行っていきます。
 現地測量をせずに新築時の竣工図を基に図面を書いて、いざ施工となると、現場と寸法が合わず、計画した駐車場が増設できないということがあります。
 改修後の台数を増やすため、緑地部分など、従来駐車スペースでなかった場所に増設する場合などは正確な測量が契約前に必要です。
 現地測量を行う際に植栽や立ち木、土地の高低差などで、正確な測量が難しい場合があります。さらに建物や構造物などに角度がついている場合など、目の錯覚で正しい寸法をつかみづらいこともあります。スペースとしての寸法が微妙なときは、測量士への依頼も検討すべきでしょう。

 緑地部分に増設駐車場を計画する際、付近の居住者にとっては、排ガスや緑地が減ることで、資産価値が下がると考えることがあるため、調整が必要な場合が出てきます。
 駐車スペースの回りの土が高く、ブロックなどで土留めの擁壁を設置する場合、駐車場は平均的な平面に幅2,500×奥行き5,000を確保していても、擁壁によって扉の開閉時など、ブロックによって使い勝手が非常に悪くなることがあります。平面的に十分な余裕をとることが必要です。
 大型の普通自動車には車体自体5,000以上のものがあるため、使用する車の種類など、事前聴取が必要です。

■その他の準備
 工事が決まれば住民に対して工事説明会を開きます。説明会を開かない場合でも、資料の全戸配布などはしたほうがよいでしょう。内容としては工事概要、各工程の説明、工事管理体制、緊急連絡先、居住者への広報・連絡手段、工事中の注意事項やお願い事項、安全対策の説明、全体工程表、車移動計画、仮設計画図等といったものになります。
 工事の前に機械式駐車場を利用している車の移動先が必要になります。理事会で駐車場を手配する場合もありますが、代替駐車場、車移動計画を施工者が行う場合もあるので、その検討が必要になります。

 敷地内に仮の駐車場を設定したり、工事対象外の敷地内の空き駐車場を利用したり、外部の月ぎめ駐車場を借りたりと、工程と照らし合わせた車の移動計画が必要になります。
 日ごろから無断駐車で頭を悩ませている管理組合も多いため、敷地内に仮駐車場を設定する場合は、事前協議が必要になります。
 機械式駐車場とは別に敷地内に駐車場を増設する場合は、車の仮移動先として使用できるため、先行して行うことがあります。
 近隣対策では、挨拶により、工事内容や騒音・振動・粉塵等の発生について期間や時間帯などの説明を書いたお知らせを事前に配布します。
 特に至近距離にあるお宅には口頭での説明を行ったりします。重機等を使用する場合で、影響が大きく、振動の発生が予想される場合は、近隣建物にすでにある壁や床のひびなどを写真に撮っておきます。
 また、機械式駐車場の立地状況を確認する必要があります。
 施工場所に行くまでの高さ制限(例えば天井付き車路など)や重量の制限(床の仕上げ材がぜい弱な場合等)など、現地の確認が必要です。クレーンや搬出入トラック利用が可能か不可能か、鋼製床板の場合は長尺物の搬出入が可能か不可能かなどの確認を行います。

大規模修繕工事新聞(140号)

 駐車場に隣接して植栽スペースが219.18㎡ありました。既存の駐車場跡と植栽スペースを合わせて平面駐車場を41台設置しました。
 機械式駐車場を設置してすでに25年が過ぎており、30年に1回更新する場合と比較して、5年後に工事代金が回収でき、20年後には9,900万円の貯金ができる計算になりました。

 機械式駐車場が3基ありましたが、住民の高齢化により、空きが埋まらない状況が続いていました。また慢性的に自転車置場が不足しており、敷地に余裕がなく困っていました。
 機械式駐車場を4台解体・撤去後、駐輪場24台増設。隣接共有地にも11台増設し、計35台を増設しました。
 駐車場使用料は減収になりましたが、長期的には維持管理・修繕費の大幅な削減となり、駐輪場収入が安定して入るようになりました。
 20年後の試算では、1,004万円の増収効果が見込めることになりました。