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第53回管理組合オンラインセミナー/築30年で1回目の大規模修繕工事実施は可能

一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が8月29日、You Tubeで公開した第53回管理組合セミナーの模様を紙上採録します。今回は神奈川・相模原のオラリオンサイト管理組合の青木正和大規模修繕実行委員長にお話をうかがいました。オラリオンサイトでは築30年で大規模修繕工事を実施しようと計画しています。一体なぜそんなことが可能になるのか。全国建物調査診断センターの佐藤成幸筆頭理事が聞き手となり、オラリオンサイトの秘密を導き出しました。<構成:編集部>
講演内容はYou Tubeにより動画配信を行っています。また、全建情報図書館で、セミナーの内容等を収録した書籍を発行しています

青木委員長:これまでの修繕工事と維持管理について簡単に説明します。
 入居後(築1年目)、タイルの剥がれ、外壁コンクリートに0.3mm以上のひびが散見されたので、施工会社に補修してもらいました。その後、住民アンケートによりベランダの長尺シートの剥がれなどが見つかったので随時対応して直してきました。
 基本的には、1年ごとに生活に差し支える程度の不具合の補修、5年周期で鉄部のサビ塗装がありますので、そこを重点的に行っています。
 こういうことを繰り返していますので、築19年の今のところ、大きな補修工事は必要ないと考えています。
 その他では、テレビ受信装置を4K8K対応へ更新。全戸のインターホン、コミュニティホールなど共用部分の空調機をすべて交換しています。
佐藤理事:世間一般では、12年周期で大規模修繕工事を行う風潮がありますが、オラリオンサイトではそれを大きく超えて築30年程度で大規模修繕工事を実施しようという計画をお持ちと聞いています。そういったことを実現しようと思ったきっかけは一体何だったのでしょうか?
青木委員長:私はゼネコンにいまして、昔は吹き付けタイルやリシンで仕上げたマンションが多かったのですが、それに比べてこのマンションの外壁はタイルや石が貼ってあり、コンクリートの劣化が遅いのではないかと感じたのが一番はじめのきっかけです。
 また、昔の常識はスクラップアンドビルドです。私たちもゼネコンに入社したときに、「壊せ、作りかえろ」「50年持てばよい」と言われてきました。でもその時代は終わったのです。
 現在はSDGs(持続可能な開発目標)と言われているように、もう壊して作りかえる時代ではなく、いかに持続させるかという時代に世界中がなっているのです。
 そうすると、我々は20年、30年、100年というように建物をみて、コンクリートの劣化を阻んでくれる外装材に重点をおかなければならないと思います。その点、オラリオンサイトの建物は築19年経っても、何ら問題ないと設計コンサルタントの方に言われています。
佐藤理事:それでは次に、大規模修繕工事30年周期という修繕工事のサイクルの説明や内容について少し詳しく教えてください。
青木委員長:30年周期の計画の立て方についていくつかお話します。

○基本的な考え方1「4つの工事」
 オラリオンサイトでは①毎年行う修繕工事、②5年ごとに直す修繕工事、③屋上防水工事、④30年目の大規模修繕工事の4つの工事を基本的な考え方の1としています。
 危険な個所が見つかったら直す、危険でなければ直さない。見栄えが悪いだけでは直しません。すぐに直す必要がなければ5年ためておいて、まとめて直します。
 屋上防水は20年目に直す。オラリオンサイトでは時々の部分補修はしてきました。それを繰り返していけば、30年目の大規模修繕工事の時に一緒に行えるかなと考えています。
 以上の繰り返しで、我々ははじめか30年目の大規模修繕工事で計画しています。

○基本的な考え方2「項目だけは入れておく」
 国土交通省のマニュアルにもありますが、将来行うべき修繕項目や更新・交換の項目をすべて計画書に入れておくことです。
 例えば、玄関ドアやサッシの取り替えは45年から50年目に行うケースが多いですが、推定修繕工事費を計上していない長期修繕計画はたくさんあります。工事費用は入れなくても、項目だけは入れておく。入れておいて、将来金額を入れるように
しています。
 気づいたことはとにかく全部網羅しておくことが大事なのだと思います。

○基本的な考え方3「統一感が大事」
 オラリオンサイトは4棟が住居棟、1棟が共用棟です。したがって4棟は同じようにみえます。これが大事です。統一感が大事だということです。内部の廊下や階段など、色は違っても仕上げ材は同じです。
 実際、2番館と3番館の内部階段の部材は違いますが、外観は同じです。

○基本的な考え方4「設備項目」
 設備改修は非常に大きな金額を占めます。したがって、電気・給排水などの大きな項目の中に、それぞれうまく設備項目を入れておいて、忘れないようにしておく。この設備の項目は我々だけでは難しいことが多いので、管理会社の人たちと一緒に作
り上げていく。これは忘れてはならないことだと思います。

○基本的な考え方5「調査診断、コンサルタント費用」
 調査診断費用、コンサルタント費用を修繕計画の中に入れておく。国土交通省の資料にもそう書いてあります。建物の調査・診断は大事な項目なので、独立した項目を立てて、修繕計画に入れておくことが大事です。
 築30年目に大規模修繕工事を予定していれば、その数年前から調査診断費用を積み立てておく。コンサルタント会社、設計事務所などに相談して、だいたいの費用を組み入れておくことが大事ではないかなと思います。当然、オラリオンサイトではその調査診断費用は独立した項目で作っています。

○基本的な考え方6「毎年5カ年計画も作る」
 長期修繕計画に則って、毎年5カ年計画を作る。長期修繕計画は作りっぱなしではなく、毎年5カ年計画も作って、長期修繕計画の予算と比べ、どこがどう変わっているのか検討します。
 オラリオンサイトでは、長期修繕計画と、この5カ年計画の2本立てで維持管理を行っています。5カ年計画のときには、必ず収支決算をして、昨年の予定でいくら、長期修繕計画と比べていくら、そういうものも作って、いつも比較しています。
 長期修繕計画は1期から今、19期のものになりますが、前年の支出はいくらで、計画した予算がいくらで、今年の支出がいくらというのを全戸にお知らせしています。

○基本的な考え方7「小修繕という項目を設定」
 小修繕という項目を設定しています。これがかなり大事だと思います。
 いくら計画を立ててもその通りに建物が劣化したり、不具合が生じたりするわけではありません。先延ばし、場合によっては前倒しで修繕をするといったこともあります。
 オラリオンサイトで行っている①毎年行う修繕工事、②5年ごとに直す修繕工事で見直しするとき、そこに小修繕という項目を新たに作って、何でも入れてしまいます。そうすると使い勝手もよいし、実査に楽でもあるんですね。


○基本的な考え方8「長期修繕積立金検討委員会の設置」
 オラリオンサイトの大規模修繕実行委員会ではいくらかかるかの見直しをする毎年、5カ年計画で、中長期的にどれだけお金が必要であるのかということがわかります。
 その必要なお金集めを行っているのが、長期修繕積立金検討委員会です。大規模修繕実行委員会が作った、修繕・補修費のシミュレーションに対して、いくら集めていくかを検討する委員会です。大規模修繕実行委員会と長期修繕積立金検討委員会は、車の両輪として認識されています。
 長期修繕計画において、大規模修繕実行委員会がいくらかかるとデータ表を作り、毎月5,000円で済んでいた積立金が長期でみれば資金不足になるのがわかるので、「では1,000円値上げ」「2,000円値上げ」などと長期修繕積立金検討委員会が発案、理事会に答申し、総会承認を取るためのの資料作りをするというのが、大きな流れとなっているのです。
佐藤理事:非常に具体的かつ実践的なお話をいただき、ありがとうございました。
 大規模修繕工事を10数年に一回やればいいのだと、もうそれだけで修繕工事というものは終わりなのだと思っている管理組合の方も少なくないのではないかと思いますが、実際には5年ごと、あるいは毎年そうしたものの計画を緻密に行っていく。その契約に狂いが出てくれば修正して資金とのすり合わせをとっていく。こういう考え方が大事なのですね。
 また、工事をするにしてもすぐにはしないという基準作りも重要です。理事が変わるたびに対策も変える管理組合がよくあります。一貫性がないために修繕積立金が有効に使われず、肝心なときに修繕費用が足りないという相談もあります。
 オラリオンサイトでは、原則すぐには直さない、ためてから直す。見栄えだけでは直さない。生活に差し支える安全が基準になっている。こうした考え方がしっかりしていて、理事が変わったとしても、一貫して保たれているというところが大きな特徴ではないかなと思いました。
青木委員長:今、1から8まで基本的な考え方をお話しましたが、実は、工事に向き合うために、さらに大事な3つの原則がオラリオンサイトにはあるんです。

 

大規模修繕工事新聞 142号

オラリオンサイト管理組合大規模修繕実行委員会委員長 青木正和氏(左)/全国建物調査診断センター筆頭理事 佐藤成幸氏 マンション管理士・一級建築施工管理技士(右)


●オラリオンサイト管理組合
・神奈川県相模原市緑区
・ 2003(平成15)年竣工・RC造・地上18 ~ 32階建て・4棟・878戸
・ その他共用棟(スポーツプラザ、シアタールーム、集会室、託児所など)
・駐車場附置率100%超(886台)

◆つづきは全建情報図書館で!
 全建情報図書館では、セミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。

//z-book.jp

『中規模修繕・分散方式30年周期への挑戦』
1. 建物の紹介と、これまでの維持管理
2. 30年周期へのキッカケは?
3. 基本計画の立て方、8つの基本
4. 工事として大事な三つの原則
5. 調査診断が重要
6. 委員会の組織構成、活動頻度
7. 三つの変化と一つの継続
A5判・32ページ
発行日/ 2021年9月1日