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2回目以降の大規模修繕で検討が必要な工事/第1回 不具合個所がモルタル層の裏側に隠れている

 鉄筋コンクリート(RC)造の法定耐用年数は47年と定められています。耐用年数は減価償却の計算に使われる年数であり、実際の建物の寿命とは異なります。維持管理の方法によっても、その寿命は大きく変わってくることは周知のとおりです。
 ただし、進行速度の差こそあれ、劣化のメカニズムは変わらないといえます。では2回目、3回目の大規模修繕で検討が必要な工事にはどのようなものがあるでしょうか?
 大規模修繕工事を手がける㈱ヨコソー東京支店一級建築士事務所の小野寺健所長に、特に留意すべきポイントを6回に分けて解説してもらいます。今回は第1回として、「不具合個所がモルタル層の裏側に隠れている」をテー
マにお届けします。

■コンクリートの中性化、塩害事例
 築年数が経過したマンションは、アルカリ性を保って鉄筋を保護しているコンクリートが、炭酸ガスとの反応によって中性化していきます。
 中性化自体はコンクリートの強度に影響しないと言われていますが、アルカリ被覆を失った鉄筋は、ひび割れ等から浸入した炭酸ガス、水により錆が発生しやすい状
況に晒されます。
 特に海に近い塩害地域では、塩の影響により錆の進行を助長し、鉄筋曝裂を多く発生させます。その進行は定期的に修繕工事を実施していたか、そうでないかで大きな違いがあります。コンクリートとの中性化の進行を防ぐためには、定期的な塗装や防水の塗り重ねが必要になります。
 古いマンションでは、不具合個所がモルタル層の裏側に隠れており、鉄筋曝裂を打検調査にて「浮き」と判断し、間違った補修方法を選択してしまうので注意が必要です。

■注意ポイントの解説
①鉄筋コンクリート表面はどうなってる?
 築30年以上の建物は、躯体コンクリートの表面に塗装等の仕上げの下地としてモルタル(セメント、砂、水を混ぜた下地調整材)が20 ~ 30㎜程度塗られていることがあります。新築時の竣工図面で確認することが可能です。
 最近の新築の施工では、施工費の低減と工期短縮のため、躯体コンクリート面を直に塗装等の下地とし、段差等の不具合箇所を部分的に薄塗り補修をする工法に代わり、モルタルの施工は行われていません。図面上では「コンクリート打放し」と記載されています。

②誤った判断の原因は?
 調査の経験不足と考えます。調査員が若年になるとモルタル下地であることを理解せず、打診の結果のみで「鉄筋曝裂」を「浮き」と判断してしまうことがあります。
 判断しているのは施工会社ですが、本来設計者が間違いを指摘しなければいけないと思います。新築時の図面と現場の浮きの状態・場所・数量等を総合的に判断し、疑わしい部位を試験施工で確認する必要があります。

③一連の「誤った判断」の正解は?
 特に改修工事の施工会社は、新築工事を知らない現場代理人が多くいます。当社では新築の経験がある自分が定期的に研修を行い、新築時の施工方法、問題点等を若年の現場代理人の知識の向上を計っています。
 なぜ鉄筋曝裂が発生しているのか、なぜ「浮き」が発生しているかといった根本を理解しなければ正しい判断は出来ないと思います。
 調査の方法については打診で判断するしかないので、総合的な判断(経験)によるところが大きくなってしまいます。
 結果、鉄筋曝裂を打検調査にて「浮き」と判断し、間違った補修方法を選択してしまう原因になるのです。

④ 「間違った補修方法」とは、鉄筋曝裂なのに「浮き」の補修で済ませてしまったという意味?
その通りです。本来表層のモルタルを撤去し、躯体コンクリート部分の鉄筋曝裂を補修する必要がありますが、鉄筋曝裂の影響で浮いたモルタルの処理しかしていないため、本来の補修が行われず、不具合が再発してしまうのです。

⑤その他、建物の長寿命化の重要な要素は?
 定期的なメンテナンスはもちろんですが、正しい判断と正しい工法、正しい材料で補修をすることが重要です。
実績のある施工会社、監理者を選択することが管理組合にとって重要だと思います。
 3回目の大規模修繕工事では、根本的な劣化が厚いモルタル層や塗装、防水の裏側に隠れ、本来実施しなければならない補修工法と違った選択をしてしまうことがあります。
 そのため、1回目、2回目の大規模修繕工事とは違った、より詳細な建物調査と、50年、60年後の先を見越した修繕計画が必要になります。しっかりしたメンテナンスを行えば、鉄筋コンクリートの建物は100年以上持ちます。

大規模修繕工事新聞 142号