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2回目以降の大規模修繕で検討が必要な工事/第2回 塗膜剥離の考え方、工法の比較・検討

 塗膜は基本的に「有機塗料」です。このため、紫外線による表面劣化や変褐色、風雨での汚れやコケ等の付着、下地の動きや雨水の浸入による付着力の低下など、さまざまな原因で塗膜の劣化が起こります。
 一部塗料には「無機塗料」や「無機有機複合塗料」などの商品もありますが、100%無機なものはないので劣化は避けられません。
 定期的な修繕を繰り返すことによって塗膜が健全な場合、表面を高圧水線上で洗い流し、劣化が進行していない塗膜の上に新しい塗膜の塗り重ねを行うことができます。
 しかし、塗膜の付着力低下が確認された場合には、旧塗膜を剥離して修繕を行うことになります。原則、新築工事で施工した塗膜まで剥がすので、その劣化状況によっていくつかの塗膜剥離工法を選択することになるのです。
 劣化状況により想定される以下①~⑤の内容によって、塗膜剥離工法を選択する際の考え方とします。

塗膜剥離工法の比較

■コンクリートの中性化、塩害事例
 築年数が経過したマンションは、アルカリ性を保って鉄筋を保護しているコンクリートが、炭酸ガスとの反応によって中性化していきます。
 中性化自体はコンクリートの強度に影響しないと言われていますが、アルカリ被覆を失った鉄筋は、ひび割れ等から浸入した炭酸ガス、水により錆が発生しやすい状
況に晒されます。
 特に海に近い塩害地域では、塩の影響により錆の進行を助長し、鉄筋曝裂を多く発生させます。その進行は定期的に修繕工事を実施していたか、そうでないかで大きな違いがあります。コンクリートとの中性化の進行を防ぐためには、定期的な塗装や防水の塗り重ねが必要になります。
 古いマンションでは、不具合個所がモルタル層の裏側に隠れており、鉄筋曝裂を打検調査にて「浮き」と判断し、間違った補修方法を選択してしまうので注意が必要です。

■超高圧水洗浄
 メーカーや施工会社によって異なりますが、超高圧水洗浄は200MPa前後の圧力をかけた水で削るように塗膜を剥がします。高圧水洗浄車を配置し、窓からの浸入対策、室外機、照明、
インターホン等の電気機器にビニールで養生を行って剥離します。
 当然のことですが、大量の水を使用することと通常使用と料金体系が異なるため、事前に水道局や下水道局に連絡をする必要があります。
 また超高圧水に手が触れると簡単に指が切断される強さなので、居住者が生活している中での工事はリスクを伴います。水圧により、さまざまな器具の破損や故障も発生することがある
ので注意が必要です。

 


 

■軟化剤+高圧温水洗浄併用
 既存の塗膜を軟化剤で柔らかくし、40MPa前後の高圧温水で塗膜を剥がします。養生等は超高圧水洗浄のときと同じですが、軟化剤を吹き付けた後、全面をビニールで覆い、既存塗膜
に軟化剤を浸透させる工程があります。
 超高圧水洗浄と同様、剥がした塗膜の処理が重要な工程となります。剥がれた塗膜は洗浄水とともに雨樋に排水され、雨水管を通り河川へ流れてしまうため、排水処理や周辺に飛び散っ
た塗膜の清掃が非常に大変な作業となります。最近の工事では環境保全を考慮し、飛散や河川への流出対策を行っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


■超音波ケレン
 専用の機械の先の「たがね」を躯体コンクリートと塗膜の間に差し、1秒間に21,000回振動させて皮を剥ぐように塗膜を剥がします。超音波のように「キィーン」という高音がすることが特徴で、大きな騒音や振動が発生しないメリットがあります。
 削った塗膜を拾い集めることができ、清掃が比較的簡単ですが、幅の狭い「たがね」で削り取ることにより、コンクリートに筋ができてしまうデメリットがあります。
 そのまま塗装を仕上げてしまうと、光の当たり方によって筋が浮き出てくることがあるので、必ず左官工による補修が必要になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


■サンダーケレン
 ベビーサンダーと呼ばれる機械に、円盤状のダイヤモンドの付いた刃を付けて塗膜を削り取ります。写真のように粉状になった塗膜が飛散するとともに、コンクリートを削る激しい騒
音が発生します。削った後のコンクリート表面は、削り方一つで凸凹になります。
 サンダーケレンは大量の粉塵が発生し、居住者のみならず作業員に対しても、非常に厳しい作業環境となります。飛び散った粉塵は、サッシの隙間や換気口から、容易に部屋の中に入り込んで来ます。
 このため、現在の剥離作業では、建物の外壁で実施することはほぼ無く、鉄骨階段等の鉄部の一部のサビ落とし作業で採用されることが多い工法です。

 


■集塵機付きサンダーケレン

サンダーケレン工法を改良し、より平滑にさらに粉塵の出ない工法として近年採用が増えています。丸い刃の周辺に全体を覆うカバーを取り付け、壁との接着面積を大きくして削り過ぎ
を防止するとともに、カバーの中の粉塵を吸い込む集塵機に接続して作業を行います。
 実際の剥離工事では、既存塗膜の硬さや厚み、下地のコンクリートの状況等を試験施工によって確認し、最適な工法を選択して実施します。
 集塵機付きサンダーケレン工法は、現状の工法の中では、騒音、振動、粉塵が最も少ない最適な方法と考えられます。

 

 

大規模修繕工事新聞 143号