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第55回管理組合オンラインセミナ・ 長期修繕計画作成ガイドライン改訂を冷静に読み解く

一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が12月19日、You Tubeで公開した第55回管理組合セミナーの模様を紙上採録します。今回は全建センター筆頭理事・佐藤成幸氏が昨年9月28日に公表になった「長期修繕計画作成ガイドランおよびマンション修繕積立金ガイドラインの改訂を冷静に読み解く」と題して講演しました。なお、これまでのセミナーは、You Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。

一般社団法人 全国建物調査診断センター 筆頭理事 佐藤 成幸 ・マンション管理士 ・一級建築施工管理技士

ガイドライン改訂の背景
 平成17年、マンション管理標準指針ができて、マンションの維持管理のための具体的な指針「何を」「どのような点」に留意すべきかが定められました。
 これを受けまして平成20年6月、国土交通省において、長期修繕計画作成ガイドラン、長期修繕計画標準様式が発表されました。それまでは長期修繕計画というものがおざなり、あるいは「ない」、あっても管理会社ごとにフォーマットが異なっていて、結果、大規模修繕工事の時期になっても修繕積立金が足らない、先々の計画的な修繕が立ち行かないというようなことが、マンション管理の現場で頻発いたしました。
 この時点で、マンションの維持管理のためには優良な長期修繕計画が必要であることに視点が当たりまして、国土交通省ではじめて統一のフォーマット、作成のためのガイドラインが発表されたわけです。
 こうした長期修繕計画作成のガイドラインに合わせて、積み立てる額と支出のアンバランスを整合する修繕積立金についても何らかの目安が必要ということで、平成23年4月に国土交通省ではマンションの修繕積立金に関するガイドラインを発表しています。
 そして令和3年9月28日、改正マンション管理適正化法を受け、「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」も改訂・発表されました。改正マンション管理適正化法においては、令和4年4月にスタートする「マンション管理計画認定制度の認定基準」にも長期修繕計画・修繕積立金に関する規定が盛り込まれています。
ガイドライン改訂の趣旨
1.高経年のマンションストックが増大する社会情勢
2. 管理組合が主体的に維持管理と修繕に努力する義務があるが、現実との乖離が随所にみられる
 大規模修繕工事、長期修繕計画上の計画修繕が修繕積立金の不足で計画通りなかなか実施ができないといった現実もあるということです。そのため全建センターにも、そうした内容の相談が継続してあるということは、非常に多くのマンションが、こうした悩みを抱えているという現実です。
 従って、管理組合はマンションを適正に管理するよう努力しなければならないが、現実的には難しいという乖離がみられるというところが、2つめの改訂の趣旨であろうかと思います。
3. 放置することでスラム化、外壁崩落など事故や社会問題化しかねない
 マンション管理組合の視点以外から少し考え方を変えて、マンションのある地方公共団体や国の目線からすると、「修繕をしなくてもいいんだ」という住民側からの事情だけで放置し、スラム化したとします。
 マンションは、住居としての社会的なインフラというもの…通りに面している場合もあり、外壁の崩落などがあると、第三者を巻き込んだ事故の発生につながりかねないということがあります。
 あるいはそうした危険性があることから社会問題化しかねない要素があるということで、決して住民の事情だけでマンションの維持修繕を放置しておいていいわけにはいかな事情があるということです。
4. 特に都市部ではマンションの集中がみられ住居がある地域の安寧な生活をおびやかす懸念にもなる
 特に都市部ではマンションの集中化、マンション住まいという割合が非常に高く、地域の安寧な生活をおびやかす懸念にもなりかねないといわれています。
5. こうした対策としてマンション管理適正化法や長期修繕計画作成ガイドライン、マンション修繕積立金ガイドラインを制定・発信し、一定の改善は見られたが、現実的ではない点もあり、いまだ道半ばであった
 マンション管理における一定の改善効果がみられたのは事実ではありますけれども、現実的ではないものも一部ありまして、目指すところの道は半ばであったのかなというふうにも見てとれます。
 上記の状況を改善すべく、マンション管理適正化法の改正、ならびに各ガイドラインの改訂がなされたわけであります。
 これが令和4年4月スタート予定とされている地方公共団体における「マンション管理計画認定制度」の導入につながります。すなわち、良い管理をしていくためにどうしていくのか、そして良い管理をしているマンションに対してはきちんと評価をしていこうという流れです。そのためにも認定制度の評価基
準に合わせてガイドラインが改訂されているわけです。
 長期修繕計画作成ガイドラインや修繕積立金ガイドラインが単独であるのではなく、法の改正があり、なぜ法の改正があったのか理解の上で、ガイドラインの改訂があるものであり、さらに先々の認定制度の評価基準と表裏一体のものであるとご理解をいただきたいと思います。
ガイドライン改訂の要点
長期修繕計画作成ガイドラインの改訂部分要点
① 望ましい長期修繕の計画期間として、現行のガイドラインでは25年以上としていた既存マンションの長期修繕計画期間を、新築マンションと同様、大規模修繕工事2回を含む30年以上とする。
② 大規模修繕工事の修繕周期の目安について、工事事例等を踏まえ、一定の幅を持たせた記載とする。
 ※ 現行のガイドラインの参考例:【外壁の塗装・塗り替え】
12年→12 ~ 15年、【空調・換気設備の取り換え】15年→13 ~ 17年など
③ 社会的な要請を踏まえて、修繕工事を行うにあたっての有効性などを追記。
 ⒜ マンションの省エネ性能を向上させる改修工事(壁や屋上の外断熱改修工事や窓の断熱改修工事等)の有効性
 ⒝ エレベーターの点検にあたり、国土交通省が平成28年2月に策定した「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿って定期的に点検を行うことの重要性
※ 令和3年9月28日国土交通省住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)発表資料
 「 長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについてより一部抜粋引用 大規模修繕工事の計画スパンは、必要性の薄い「12年周期」から、現実的にロングスパン化されてきていることを踏まえると、計画期間が25年ですと、大規模修繕工事の実施が、この
期間に1回しか出てこない可能性があることになります。
 そうすると必要な修繕積立金の全体像が見えにくいということもあり、大規模修繕工事を2回行って収支がどうなるのか、赤字なのか黒字なのかわかるようにする必要性があるため、計画期間を30年に延ばしたということです。
 修繕周期の目安については、ピンポイントではなくて現実的には一定の幅帯として存在するわけですから、幅を持たせた記載の仕方をします。同時に取り換えや更新時期についての現実的な見直しということも部分的に出ています。特に大規模修繕工事の「12年周期」がひとり歩きしてしまっていることについて、「12 ~ 15年」という表現が使われました。
 修繕工事の有効性については、なぜそのような工事をするのか、工事をやる意義を理解した上で、「じゃ、やろうじゃないか」という機運を盛り上げるような考え方にシフトしていく記載の仕方になりました。
 たとえば、省エネ性能の向上です。環境負荷を考えずに暮らすことはできない昨今ですので、外壁や屋上の外断熱、あるいは窓の断熱改修などの有効性が高くなっています。
 エレベーターは別途法定点検が必要になりますけれども、事故等が起こらないように未然に防止するという観点から、定期的な点検の実施を行うことの意義、重要性が謳われるようになっています。
 総じて言えるのは、現実のマンションの維持管理と大規模修繕工事の状況に合わせてガイドラインの改訂がされているということです。まさに現実で起こっていることを踏まえて、ガイドラインのほうが変わってきたというのが、今回の改訂の特徴ではないかと思います。
全建センター 18年周期実現化のための具体策
①外壁
 マンション外壁の変遷をみると、主要な部分は塗装からタイルへ、パネルの外壁へと、より高耐久性の仕様となっています。
タイルやパネルは割れる、剥がれるといった劣化はあるものの、建物を紫外線から守ることで躯体自体の劣化や変色を軽減させています。
②手摺
 手摺の変遷は、スチール製(鉄製)からアルミ、パネルへと、サビない、設置根元のコンクリートが割れにくい仕様になっています。
 手摺は根元から直にコンクリートにはめ込んで設置されています。鉄製は外気の気温差などで膨張・収縮を繰り返すため、コンクリートを破壊するデメリットがありました。
③シーリング
 シーリングはノンブリードタイプが使用されるようになり、可塑剤による汚れが付着しにくくなっています。
④床材
 バルコニー床、開放廊下床がコンクリート・モルタル仕上げ、よくても塗装仕上げだったものから塩ビシート貼りへなど、防水機能が向上しています。
⑤超高層タワーマンションの普及
 近年、高層マンションには免震構造、高強度コンクリートが採用され、タイルも現場での貼り作業から工場で製造して現場で組み立てる型枠打ち込みにより、精度が向上しています。免震構造は地震対策だけでなく、外壁面のひび割れが起きにくいという効果もあります。
⑥長期修繕計画
 長期修繕計画の普及と定期的なメンテナンス、手入れをすることへの関心と習慣化により、より大がかりな修繕工事を必要とするダメージを防いでいます。

 新築時からすでに高耐久の材料が随所に使われているという現実。こうしたことを踏まえて、全建センターでは大規模修繕工事の12年周期というものはいかにも早いということを、セミナー等で何度も何度もお話させてまいりました。
 今回、こうした現場の声が国の施策であるガイドラインに反映されたものと思います。

大規模修繕工事新聞 146号