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集会決議の円滑化、財産管理制度など 法制審議会で本格議論へ/区分所有法制研究会

建替え決議の多数決要件の引下げ、所在不明者等を分母から除外する多数決議、所在不明の専有部分の財産管理の制度化などについて討議していた区分所有法制研究会(座長・佐久間毅同志社大学教授)は9月30日、研究報告書をまとめ、一般社団法人金融財政事情研究会のホームページに公表しました。
報告書で上がった検討事項は今後、法務大臣の諮問機関である法制審議会に「区分所有法制部会」を立ち上げ、議論が本格化されていきます。第1回部会は10月28日に開催される予定です。

「区分所有建物の円滑・適正な管理」における検討の視点

1 集会の決議を円滑化するための仕組み
公的機関の関与の下で所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外する仕組みや、出席者の多数決による決議を可能とする仕組みを創設する。

2 区分所有建物の管理に特化した財産管理制度
所有者不明の専有部分の管理に特化した新たな財産管理制度、管理不全の専有部分・共用部分の管理に特化した新たな財産管理制度を創設する。

3 共用部分の変更決議の多数決の緩和
多数決割合を単純に引き下げる、外壁崩落のおそれなど客観的要件を満たした場合に多数決割合を引き下げる、区分所有者の定数だけでなく議決権の要件も緩和する。

4 共用部分に係る損害賠償請求権等の行使の円滑化
損害賠償請求権等の発生後に区分所有権が譲渡された場合、管理者が代理して行使することができるものとする。

5 区分所有者の責務
共同利益背反行為を禁ずるほか、区分所有者は集会の決議への参加を含め、建物を適切に管理する責務を負う旨の規律を設ける。

6 区分所有建物の管理に関する事務の合理化
ウェブ会議システムを活用した区分所有者の集会の開催に関する規律を明確化する。


区分所有法制研究会がまとめた研究報告書では、マンションの高経年化、区分所有者の高齢化による区分所有者の不明化、非居住化の進行から、さまざまな問題点が指摘されました。
 そして、考えられる区分所有法制の見直しの方向性とその課題の論点整理を進め、提示しています。
 大規模修繕工事新聞では、報告書「第2区分所有建物の管理の円滑化を図る方策」で示された内容を複数回に分けて掲載します。

 

 現在の区分所有法で決議を成立させるためには、(A)の多数決割合の必要があるところ、集会に出席せず議決権を行使しない者(D)と所在等不明区分所有者(E)は、決議において反対した者(B)と同様に扱われることになっている。

⑴所在等不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組み


 老朽化マンションが増加していくにつれ、所在等不明の区分所有者の割合が増えて意思決定が困難になっていくおそれがあるため、集会の決議の母数から除外する仕組みを検討する必要がある。
 もっとも、区分所有者保護の観点からすれば、安易に所在等不明であると認定して区分所有者を決議の母数から除外することは適当ではない。また、鋭い対立のある議案について決議を行う際には、深刻な紛争が生じかねない。
 そこで公的機関の関与の下で、所在等不明の区分所有者を集会の決議の母数から除外する仕組みの創設を提案している。

⑵出席者の多数決による決議を可能とする仕組み
 区分所有者の高齢化や非居住化(賃貸・空き住戸化)が進行すると、集会の運営や決議が困難になる、集会への出席率が下がるなど、合意形成の困難さが増大する傾向にある。
 そこで集会に出席もせず議決権も行使しない区分所有者について、一般に決議の意思決定を他の区分所有者に委ねていると評価することができるため、決議から除外しても許容されると考えられる。
 さまざまな事情をかかえる区分所有者が出席を強制させられかねないなどの慎重論も踏まえ、出席者の多数決による決議を可能とする仕組みの創設を提案している。

⑶専有部分の共有者による議決権行使の在り方

 現行法では、専有部分が数人の共有に属するときは、共有者は議決権を行使すべき者1人を定めなければならないとされている。区分所有者の数を算定する際には専有部分の共有者全員で1人と取り扱われることを前提に、議決権行使者を定めるものとしたものである。
 ただし、区分所有権の処分を伴う建替え決議等において議決権行使者を定める場合には事案によって全員同意を必要と解釈する余地があるため、持分の価格の過半数の決定をもって議決
権行使者を指定することができる旨の規律を設けることが考えられる。

⑷建替え決議等における事前の議決権行使の撤回の制限の仕組み

 区分所有者が事前に書面等により議決権を行使したが、その後、集会に参加して、事前に行使したものと異なる内容の議決権を行使したときには、事前に書面等によって行使された議決権は撤回されたものとして扱われる。建替え決議においても同様である。
 事前に書面等により賛成の議決権を行使した者であっても、集会における議論の状況を踏まえて反対に転ずることは許されるべきと考えられ、議決権の撤回を制限することについては、慎重に検討を行う必要がある。

大規模修繕工事新聞 22-11-155号