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第63回管理組合オンラインセミナー/管理組合による最新の弁護士活用方法を 伝授します!【前編】

一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は4月24日にvimeoで公開した第63回セミナー「管理組合による最新の弁護士活用方法を伝授します!」【前編】を掲載します。
 なお、これまでのセミナー動画およびセミナーの内容等を収録した書籍は全建Libraryでご覧できます(サブスク提供)。

佐藤成幸・筆頭理事:本日は主要なテーマとして、「管理組合による最新の弁護士活用方法を伝授します!」という内容でお送りします。
 昨今の建物の老朽化、居住者の高齢化に伴う管理不全、併せて2020年来のコロナ禍という未曾有の災害などという現象について、多くの心配の種を抱える管理組合もあると思います。
 このような状況におきまして、管理組合を健全に運営し、マンションの資産価値を維持するためには積極的に弁護士を活用することが望ましいといえます。

滞納管理費等の回収
弁護士介入し短期間で解決

佐藤:まずは、弁護士活用法の典型的な事例として、滞納管理費等の回収について解説をいただきたいと思います。

東妻洋一 弁護士

東妻陽一・弁護士:標準管理規約別添3にある「滞納管理費等回収のための管理組合による措置に係るフローチャート」から説明します。
 <督促の手順の例>として、滞納発生の1カ月目から 5カ月まで、電話、書面、自宅訪問による督促、5カ月程度から内容証明郵便の発送ということが書かれています。
 最初の電話、書面、自宅訪問による督促といった点に関しては管理会社が対応してくれるということがほとんどだと思います。

 他方、内容証明郵便となると、管理会社の対応は難しくなります
ので、このタイミングで弁護士にご相談いただければよいのではないかと思いますし、あるいはもっと早く弁護士に相談いただくことには全く問題がございません。

佐藤:実際に弁護士が着手、介入すると、どのように回収が進められていくことになるのでしょうか。

東妻:弁護士介入のケースでもほとんどの場合、まず内容証明郵便を発送して督促をするという形から入っていきます。実際に弁護士から内容証明郵便が届いたということで慌てて連絡をしてくるという滞納者は少なくありません。
 連絡があれば、分割払いの協議など滞納の解消に向けて話し合いができ、支払いの分割の計画を作成して、合意書を締結する。そうした形で解決するケースは少なからずあります。
滞納者からの反応がない、交渉がうまくいかなかった場合は、いよいよ、法的手続き、裁判所を利用した手続きというステップに進みます。
 裁判所を利用した手続きの中では、まず債務名義を取得するために通常訴訟を提起するというケースが大半ではないかと思われます。

山村行弘・弁護士:私も14年間弁護士をやっていますけれども、少額訴訟や支払督促を利用したというのは滅多にないですね。
東妻:少額訴訟や支払督促の場合、滞納者から異議を出されますと結局は通常訴訟に移行するということになります。このため最初から通常訴訟を選択する弁護士が多いのだと感じます。
 通常訴訟の手続きの中でも、「和解協議」が行われることが少なくありません。
 訴訟前の交渉では協議に応じなかった滞納者が、やはり裁判所に呼ばれて裁判官、弁護士の前で話をするとなると、和解しなければならないとなるようです。
 私の経験では、管理費滞納の案件の7~8割はこうした和解や話し合いによる解決です。弁護士が介入することで比較的短期間で問題解決に至るということができる、と考えられます。
佐藤:和解が成立しない、あるいは裁判所にそもそも滞納者が出席しなかったという場合はどうでしょうか。

東妻:そうした場合には、判決文をもらうことになります。これを「債務名義」といいます。
 債務名義を取得した後は、債務名義に基づいた強制執行が考えられます。
 強制執行では、不動産あるいは債権(預金、給与等)を差し押さえるということになります。ただし、債権の特定は債権者(管理組合)が責任を持って行うため、滞納者の情報を十分に把握できているということが必要になります。
 また、不動産、特に滞納者の住戸を対象とする場合、滞納者の所有している住戸がローンの担保や抵当権が設定されていて、売却見込み額よりもローンの残債が多い場合には、「無剰余取消し」といって管理組合側の強制執行の手続きをそれ以上進められないということがあるのです。
 そうすると、続いては区分所有法59条の競売請求訴訟を提起するという方策が考えられます。ただし、この手続きは共同利益背反行為に対する是正措置という位置づけになるので、単に滞納があるというだけでは足りません。
 どのようなケースでこの手続きを用いることができるのかという点は、ぜひ弁護士にご相談ください。

迷惑行為者へのストレス弁護士相談でトラブルを解決

佐藤成幸 全建センター筆頭理事

佐藤:続きまして、例えば区分所者や居住者が管理規約違反、他人への迷惑行為などをする人がいるケースで、組合員同士の問題、あるいは理事会や個人への攻撃により、理事長等が萎縮あるいは注意喚起や是正を躊躇するというケースに陥っていることがあります。
 私どもにもこうした相談があり、法的な解決をすすめるのですが、弁護士に相談するイコール訴訟前提となり、かえって相手を怒らせてしまうのではないかという思考になることがあります。
 そうした間違った思い込みや誤解が結果的に解決の道を遠ざけているのですが、こうした状況の管理組合に対してアドバイスをお願いします。

山村:弁護士はもちろん訴訟を担当することも多いのですが、それ以前の問題、つまり話し合いや交渉の代理あるいは対立する当事者の間に入って争いの交通整理をするという仕事をすることの方が多いのが実情です。
 何より管理組合や理事長がトラブル処理を行うことはストレスも相当かかりますし、本来の業務とは別の仕事ですから、トラブル解決については気軽に弁護士に相談してほしいなと思います。
東妻:組合員同士のトラブルについては、そもそも管理組合が介入すべきでないケースが多いですが、実際には当事者同士で話し合ってもなかなか解決にはいたらず、山村行弘弁護士 泣きつかれて困っているという理事会もあると思います。
 こうした場合、弁護士会のADR、裁判所の民事調停等を利用して当時者同士で冷静になって話し合いをしてもらう、またはそういう方向へ誘導することもできます。
 弁護士が紛争の実情に適した紛争解決手段を案内するということで、お役に立てることもあろうかと思います。

 


契約書のリーガルチェック
管理組合の大きなメリットに

佐藤:昨今、管理会社への委託業務、工事会社への発注、あるいはメンテナンス保守などに伴って管理組合独自で契約する場合、そうした契約書の内容について管理組合に不利益が生じるような契約になっていないか、プロの目線、弁護士の目線でチェックをしてもらいたいというニーズが増えてきています。
 リーガルチェックとも呼ばれる手法ですけれど、こうした新しい動きについてご説明いただきたいと思います。

山村幸弘 弁護士

山村:管理組合が管理会社や外部の業者と契約を締結する場合、管理組合側で契約書の書式を備えていることはほぼないと思います。
 契約を結ぶ相手から「この契約書にサインしてください」という形が一般的です。そうすると、契約書の中身を見てもよくわからないことがあります。
 特にどういう場合に解除できるのかとか、どういう場合にどれくらいの損害賠償責任を負うのかとか、契約不適合責任がどうなっているのか。そういう問題について理事会で判断することも難しいと思います。
 そのような場合に弁護士に契約書チェックを依頼すれば、契約の相手方に不当に有利な内容になっていないか、そういった点を指摘できます。

佐藤:何年にもわたって自動継続で来ているので、契約書を見たことがなかったなんて例はよくあります。よくよく調べると契約書がなかったり、不備だったり。逆に小さなメンテナンス会社だと契約書の説明すらできる能力がなかったりだとか。
 やはり、契約という重要な書類に対しても第三者、プロの目が入った上で、きちっと契約が履行されていく、こうした環境を整えていくことが管理組合の大きなメリットにつながるのではないかと思います。
 当センターとしましても、管理組合に対し、ぜひこういうプラス面での弁護士活用を広めていきます。

 

 

自称コンサルタント
利益相反や法律違反のケースも

東妻:やや特殊な事例になりますけれども、管理組合の理事がマンション管理に詳しいという自称コンサルタントを連れてきて、滞納管理費等の回収に一枚噛ませるというようなケースがあります。
 例えば、滞納者が滞納管理費等を支払うために住戸を売却しようというとき、自称コンサルタントが自分の関与する会社に売却するよう仕向けます。管理組合に滞納金を一部免除するように口利きをしてやるから、自分に売却しろなどと持ちかけるのです。
 こうしたケースは、管理組合の利益を毀損してでもコンサルタントが自分の利益を上げようということですから、まさに利益相反です。
 弁護士は事前に費用の見積もりを示して委任契約を締結し、業務に着手しますし、利益相反行為に関しては職務規定上禁止されています。
 そもそも自称コンサルタントが債権回収を行うことは「非弁行為」(弁護士のみに認められている行為を弁護士以外の者が行うこと)で、違法となる可能性があります。

佐藤:マンション管理士といっても受験資格として必要な前段の実務とかという制約はありません。実務経験が豊富な人も試験勉強だけの人も肩書きは一緒で、外から見ると全然区別つきません。
 悪質な自称コンサルタントはジェネラリスト的に、建築、法務に関する話をしながら、実は適切ではないケース、例えば利益誘導等を行います。
 やはり、法務に関わることは利益相反や法律に触れることがありますので、ぜひこうした機会に専門の弁護士の活用をお考えいただければ、と思います。

< 次号で【後編】を紙上採録します。テーマは第三者管理、大規模修繕工事契約、空き家問題です>

大規模修繕工事新聞 161号