ある区分所有者(組合員)のAさんが後期高齢者となり、外出もままならなくなりました。日々の生活はときどき、市外に住む孫娘が面倒を見に来てくれています。
このため総会の出席についても、孫娘に委任状を持たせて、出てもらいました。ところが、①総会開催後の委任状の提出、②代理人の資格なしという理由で議決権の数に入れず、賛成も反対もできなかったそうです。
それでも孫娘はマンションの総会に出たのがはじめてで、とても興味を持ったらしく帰ってきました。
Aさんは今後も孫娘に任せたいと思っています。
実は、総会の代理人の資格制限について、区分所有法には記載はありません。
法律で制限がなければ第三者でも自由に代理人になれるのです。つまり、法律上は孫娘にも代理人としての権利があることになります。
しかし、だれもかれもが総会に参加して意見を言うことができることになると、住んでいる組合員の人々の意に沿わない管理組合運営になる可能性が出てきます。このため、マンション標準管理規約では代理人となれる者を限定しています。
マンション標準管理規約で代理人資格を認められている者。代理人は区分所有者と利害関係が一致する者に限定されることが望まれます。
① 配偶者(事実婚関係にある者含む)=同居していなくても可
② 一親等の親族(親または子)=同居していなくても可
③同居する親族
④他の組合員(同じマンションの区分所有者)
※ 親族は、規約に限定がなければ未成年者を選任することも可能
組合員は代理人によって議決権を行使でき、代理人にも総会に出席する権利があります。代理人が総会に出席するためには、代理権を証する書面(委任状)を提出しなければなりません。
もっとも顔見知りの家族が代理人として出席する場合など、委任状の提出がなくても、議長(理事長)の権限で認めることもアリです。ですが、万が一のトラブルの未然防止のためにも、管理規約に則り、委任状の提出は必要でしょう。
なお、総会がはじまってから委任状が提出されて、議決権の数が混乱することも考えられるため、提出期限を「総会開催前」と規約に規定することも考えられます。
総会当日に所要があったため、欠席通知とともに、事前に委任状または議決権行使書を提出していた場合、予定が変更になり、当日になって急きょ参加したとき、総会の場における区分所有者の意見が優先されます。 総会の内容によって意見が変わる可能性があり、提出した議決権行使書と賛否が異なることが考えられます。
その際、当日の本人の意思表示が採用されます。
夫婦が2分の1ずつ共有している場合、夫婦で1組合員となるため、どちらか一方を議決権行使者として決め、あらかじめ氏名を理事長に届け出なければなりません。届出のない共有者に議決権を行使させることはできません。
また、複数の住戸を1人で所有している場合、ある議案にA住戸で賛成、B住戸で反対とする議決権行使は禁止です。管理組合の運営上、議決権の「不統一行使」は認める必要がないとされています。
理事会の代理出席は禁止が原則
一方、理事会は総会で選らばれた理事が職務を遂行するため、選ばれた理事本人が理事会に出席にして議決権を行使することが認められます。
このため、理事が病気だから、仕事で出張だからなどといった理由で、例えば配偶者が代理出席することは認められていません。
ただし、事故など、やむを得ない場合に限り、代理出席を認める規定を規約に定めることができます。実際に代理出席を運用する場合は、各マンションの管理規約を改正して、規定を明文化しておく必要があります。標準管理規約にはこの規定はありません。
理事が欠席する場合に、あらかじめ書面によって議決権行使する規定もありません。このため、書面をもって意思表示をする場合は、同じように管理規約を改正して、明文化しておく必要があります。
管理規約に明文化せずに議決権を行使したものは、規約違反で無効となります。
理事が任期途中で転出や死亡した場合は、もはや「代理」の本人の存在がないため、代理出席という概念はなくなります。
理事の欠員は、管理規約に規定がなければ、再度総会で選任しなければなりません。とはいえ、理事会運営の停滞を避けるため、補欠を決めておき、理事会の決議で選任できる旨を管理規約に規定しておくこともできます。
理事会が選任できる規定をしておけば、死亡した理事の相続人を理事に選任することもできます。
大規模修繕工事新聞 168号 23-12