前回ウレタン樹脂系注入材の説明をしましたが、今回はウレタン樹脂以外の注入材の物性について説明します。
色々な種類の注入材が販売されていますが、原理的に問題があるものも少なくないので注意が必要です。
1.エポキシ樹脂系
接着力が高く強固な樹脂であるエポキシ樹脂はコンクリートのクラックに注入し圧縮強度を高める目的で使用されます。
濡れた躯体には接着しづらく、弾性がないため躯体の挙動には追随しないので防水目的には適していません。
2.アクリル樹脂系
水と混ざり合いゲル化する親水性の樹脂で裏込工法(構造物の外側の土中に分厚い防水層を形成する工法)で使用されます。ウレタン樹脂系にも同様の製品がありますが、アクリル樹脂系のほうが、環境負荷(毒性)が少ないので採用されることが増えてきました。
ウレタン樹脂系は2液性(2成分型)ですが、アクリル樹脂系は3液性の為、取り扱いが少々煩雑です。
ウレタン樹脂系には弾性があり地震等の挙動に追随しますが、アクリル樹脂系には弾性はありませんので施工する環境を考慮する必要があります。
3.無機系
セメントや水ガラス(シリケート)を成分とする注入材です。
セメントは流動性を高めるために水を多く加えると強度が発現しづらく、エポキシ系同様弾性がないため防水目的には適していません。
水ガラスはコンクリートのアルカリ+水と反応してゲル化することにより一時的に防水性を有しますが、乾燥により結晶化し弾性を失い、収縮もするため防水性は失われます。
さらには水ガラスの結晶は水溶性であるため雨で流されてしまうことも考慮する必要があります。
4.エマルジョン系
エマルジョンというのは水と油の混合物でマヨネーズ(油+酢+卵)が身近な例です。
普通は混ざり合わない水と油がなぜエマルジョンになるかといいますと、油をホモジナイザーというミキサーのような器具を使いナノレベルまで微細化すると重力の影響を受けなくなるため水と混ざり合います。
エマルジョンの技術は塗料や化粧水などにも応用されており、含まれる水が蒸発することにより薄い膜が形成されます。
このエマルジョンをコンクリートのクラックに注入しますと、うまくコンクリートに水分が吸収されない限り硬化不良を起こし、水分が吸収されると収縮が起こるということを考慮する必要があります。
終わりに
6週に渡り漏水補修の方法を説明して参りましたが、漏水はマンション所有者の生活に大きな影響を及ぼす割には専門的に対応している業者が少ないので注意が必要です。
室内からの漏水補修には通常以下のステップを踏みます。
(a)現象の把握
クラック?打継?設備配管? クラックが発生する箇所は躯体の挙動と関連があるため以外と少なく、どこにでも発生する訳ではありませんので、コンクリートの漏水は全てクラックと決めつけるのは危険です。
内装材で躯体が見えない場合は内装材を撤去して現象を確認する必要があります。石膏ボードで内装されている場合は点検口の設置も有効です。
(b)補修範囲の把握
クラックからの漏水で数センチだけ漏水することはほとんどありません。
クラックは建物の挙動の結果発生するため広範囲に及んでいる場合がほとんどなので内装材を大きめに撤去しクラックの範囲を誤らないように注意します。
打継の接着不良も局所的に起こることは少ないので漏水箇所が単に移動してしまわないように建築の知識を持つ人が補修範囲を見極める必要があります。
(c)補修材の選定
漏水の環境から最も効果的な補修材を選定します。
漏水によりマンションでの生活は台無しになってしまいま
す。これまで説明した内容を参考に漏水のない快適なマンションライフを送ってください。
大規模修繕工事新聞 171号 2024-03
裏込工法