公益財団法人マンション管理センターの相談業務において、令和4年度の相談件数は11,744件(前年度比19.7%増)でした。内容については、ここ数年のマンション管理適正化法や標準管理規約の改正などが多く、また、マンション管理計画認定制度の開始により、マン管センターが扱うことになった事前確認に関する相談が増えています。ここでは令和4年度の相談件数の中から、マン管センターに寄せられた相談事例として①理事会の代理出席等、②理事会の広報、③管理費等の滞納措置、④役員の業務引き継ぎについて、マンション標準管理規約の規定などを参考に基本的な考え方を紹介します。<川崎市主催令和5年度第2回マンション管理基礎セミナーより>
事例1.理事会の代理出席等 輪番制で当番になった組合員が理事に選任されたが、多忙を理由に理事会に出席しない。代わりに配偶者が出席している。管理規約では代理出席を認める規定なし。このような理事会運営で問題はないのだろうか?
標準管理規約では、理事会に代理出席を認める規定はありません。 結論から言うと、相談事例の「総会で選任された理事に代わって、その配偶者が理事会に出席する」ことは、標準管理規約に準じた内容であれば、規約違反となります。 組合員から「資格のない人が出席した理事会決議に無効ではないのか」「理事会は成立してないんじゃないか」という声が上がる可能性がありますので、注意が必要です。
総会で選任された理事というのは、組合員から委任されているという意味です。理事は、理事会に出席して、自身の意思で各議案について賛否を決めて議決権を行使するといったことが求められます。いくら自分の配偶者でも代理出席させて議決権を行使させるといったことはできないのです。「理事会に出席できない」状況を防ぐためにも、最初の理事会のときに年間の開催スケジュールを打ち合わせして決め、総会に選任された理事が計画的に理事会に出席することができるようにするといった工夫をしてはいかがでしょうか。
それでも出席できないようであれば、場合によっては、総会で理事を交代するなど、早急に是正する必要があります。
ただし、理事の資格要件は法律で規定されているものではないので、マンションの条件等に応じて役員の資格要件を広げ、それを管理規約に定めることもできます。
組合員の配偶者、息子、娘といった親族も役員になれるように管理規約の資格要件を変更し、総会で選任しているケースもあります。
管理規約の規定例
理事及び監事は、総会の決議によって、(マンションに居住する)組合員、(マンションに居住する)組合員又は一親等の親族のうちから選任し、又は解任する。
また、理事が事故等でやむを得ず理事会を欠席する場合には、例外的に代理人の出席を認めることができます。この方法を採用する場合、標準管理規約53条関係コメント③には「総会において、それぞれの理事ごとに、理事の職務を代理するにふさわしい資質・能力を有するか否かを審議の上、その職務を代理する者を定めておくことが望ましい」とあります。この点を踏まえ、代理人を定めておく旨、代理人の出席を認める旨について管理規約に明文化しておきましょう。標準管理規約53条関係コメント④では、「理事がやむを得ず欠席する場合には、代理出席によるものではなく、事前に議決権行使または意見を記載した書面を出させるようにすることが考えられる」とあります。この場合も、管理規約にきちんと書面による議決権行使を認める規定を設ける必要があります。
繰り返しますが、本来理事会というのは、理事本人が出席して、議論に参加し、議決権を行使することが求められています。このため、例外的な代理人の出席、書面等よる議決権行使が常態化しないよう注意が必要です。一部管理会社が「理事会は書面決議でよい」「出席しないから時間を取られることもない」「実際に理事会がなくなると楽」といって、理事会を開催しない方法を奨励しているケースがあります。しかし、標準管理規約に準じていれば、これは規約違反となります。
理事会での議論を省くことで、筋書き通りに事を進めようとしている管理会社の思惑が透けてみえるやり方といえるでしょう。
事例2.理事会の広報 以前住んでいたマンションでは、理事会が議事録写しを配布していたため、活動状況を確認できたが、今住んでいるマンションでは配布されることがなく、管理組合の活動状況がまったくわからない。理事会は組合員に対し、活動状況等を積極的に情報提供すべきではないのか?
「理事会で検討していることを全く知らされない」「突然重要な議案が総会で提案された」「理事会が勝手に工事を進めている」など、不適切な理事会運営を相談されるケースがあります。逆に、実は情報不足で組合員から誤解されているケースも見られます。標準管理規約32条では、広報は管理組合の業務であると位置づけられていますが、皆さんのマンションではいかがでしょうか。平成30年度のマンション総合調査では、「何らかの方法で理事会議事録の広報を行っている」と回答した管理組合は67.0%あり、このうち、「理事会議事録を各戸に配布している」と回答した管理組合が64.9%、「掲示板に掲載している」が34.0%、「回覧版で行っている」が9.2%ありました。
理事会の活動状況を理解してもらうためには、組合員に対して理事会の活動状況を知らせるということはとても大切なことです。 広報によって、いくつか効果が期待できます。
1.理事会運営の透明化に寄与することができ、民主的な管理組合運営が期待できる
2.理事会の活動内容の開示によって管理組合運営の参画意識が高まる
3.理事が組合員のために誠実に職務を遂行していることを理解してもらえる
広報活動は管理会社の業務ではなく、管理組合自身で考えなければならないことです。
マンション管理標準指針では、理事会の広報について、以下のように規定しています。
マンション管理標準指針
(二)理事会の運営2.理事会議事の広報【標準的な対応】 開催された理事会の日時、議題等の広報を戸別配布、掲示、広報紙への掲載等の方法により実施している。
一方、議事録を各戸に配布、掲示する場合の留意事項です。 個人情報やプライバシーに関する記載がないかどうかについては、十分注意していただく必要があります。記載がある場合には、記載部分を目隠しするなどの配慮を施しましょう。
広報紙を発行するといった方法もありますが、定期的に発行すると大変な労力がかかるので、事前に管理組合内で十分に協議し、例えば広報の専門委員会を立ち上げ、予算化するなどの対応が必要になると思います。
事例3.管理費等の滞納措置 築10年を超えるマンション。最近、管理費・修繕積立金を滞納する組合員が出はじめた。翌月に納める組合員もいるが、管理会社が督促しても支払いに応じない組合員もいる。今後、管理費等の滞納措置や滞納予防について、どのように取り組んでいったらよいのか?
管理費等の滞納督促は、管理組合の重要な業務だという認識をしていただきたいと思います。
時々、「管理費や修繕積立金の出納業務は管理会社に任せているから心配ないんだ」という話を聞くことがありますが、これは間違った考え方で、管理会社が行う督促業務は管理委託契約に定められている契約期間や督促方法によって行うもので、滞納管理費等が回収されなくても、管理会社の業務は終了してしまいます。
そこからは管理組合が対応するのであり、最終責任は管理組合にあるのです。
また、正規に納入している組合員の不公平感を払拭する(滞納は認めないことを示す)ためにも、滞納者に対する必要な措置は管理組合が対応しなければならないことになります。
管理費等の滞納状況を把握するためには、例えば定期的に開催する理事会で、滞納発生をいち早く発見、全理事で滞納状況(滞納理由や滞納期間、滞納者の言い分)を確認し、状況に応じた処理を速やかに実施することがポイントです。
滞納措置に関する一定のルールに従って迅速に対応できるよう、細則を制定する(明文化する)こともポイントのひとつです。
これによって、毎年理事会のメンバーが交代しても、管理組合で作ったルールに基づいて対応できるようになると考えられます。
管理組合としては滞納が発生したときには迅速に対応する必要がありますが、あわせて滞納が発生しないために、できるかぎり予防措置を講じることも必要です。
滞納の予防対策
①管理費等の負担義務を組合員に周知し、認識してもらう
②管理規約、細則の条項を整備する
③駐車場使用料を滞納した場合には駐車場使用契約を解約する旨を契約書に定める
④管理費等の改定を行う場合は、総会に提案する前に説明会等を行い、合意形成を図る
対策①は、管理費等は管理組合運営や修繕を行うための貴重な財源であり、快適な住環境を維持管理するために必要な資金なのだということ、そして組合員の一員として管理費等を収めるのは義務であるといったことを周知し認識してもらうということです。
対策②管理規約や細則を整備する方法としては、管理費等の収納方法を統一する(例えば口座振替など)、遅延損害金を請求できるようにする(その利率を定める)、弁護士費用や滞納督促に係った諸費用を滞納者に請求できるようにするなどを規約等に定めておくことになります。 このような規定は標準管理規約60条に定めているので参考にしてください。
対策③は、駐車場使用契約書に駐車場使用料の滞納が発生した場合には、駐車場契約を解約するという条項を入れておくということです。現在の駐車場契約書に規定されていない場合は、総会の承認を得て、駐車場使用契約書に規定を加えるなど、改訂を行うことになります。
対策④において、管理費・修繕積立金に対する値上げを行う場合には、いきなり総会に議案を上程するのではなく、事前に説明会などを開催し、値上げ事由などの説明を十分に行い、組合員の意見を聞くなど丁寧な合意形成を取り組むことが必要です。
滞納管理費等は管理組合の債権です。滞納問題への対応はたいへんな業務ですが、管理会社任せにせずに管理組合が主体となって取り組んでほしいと思います。
事例4.役員の業務引き継ぎ 新理事に選任されたが、業務の引き継ぎが何もなかったので、何をどうしたらよいかわからない。管理組合は、新旧理事による業務の引き継ぎを行うべきではないのか?
実は、標準管理規約では、業務の引き継ぎに関する規定が定められておりません。
ただ、マンション管理標準指針では、管理組合としての標準的な対応を定めています。 理事会運営で重要なことは継続性です。
理事会業務の引き継ぎを行うことで、課題などを確認していただくことができますし、次期理事会が継続的にそれらの課題等に取り組むことが期待できます。
また、会計担当理事、防災担当理事など、役職ごとに業務の引き継ぎを行うことも大切です。
役職ごとに引き継ぐことで、新しく就任した理事が自身の役割を具体的に認識でき、より早く担当職務につくことができます。
「そんな時間がない」「管理会社に任せてある」といった声も散見されますが、新任の方が、理事会の業務や担当してもらえる役割(どのような役割なのか)をきちんと理解していただくためにも、業務引き継ぎは大変重要だと思います。
新旧役員が一同に会するには日程調整が必要になるので、例えば、全員が出席した定期総会後などに業務の引き継ぎを行うことをあらかじめ取り決めておくなど、管理組合のルールを習慣化するとよいのではないかと思います。
今、管理組合ではどんな事業が進行中なのか、懸案事項は何か。理事会は、事業計画と収支予算に基づいて業務に取り組んでいます。事業計画や収支予算がどういうような考え方で、どのような計画に基づいて作成されたものなのかどうか。また総会で決議された事案などで実施をされていない事項があれば、実施できなかった理由など、しっかり聞き取っていただいて、その対応を新理事会で検討していただくことが必要となります。
さらに、相談事例の中で、「重要な書類が見当たらない」という話もよくあります。
管理組合に関係する重要書類については、業務引き継ぎ時に実際の書類をみて確認することが必要です。 特に組合員の方からの要望や苦情、事件事故等の懸案事項について、しっかり引き継がれないで放置されることがあると、新理事会が批判されることにもなります。確認しながら説明を受ける必要があるという認識を持って、業務引き継ぎをしていただきたいと思います。
マンション管理標準指針
(二)理事会の運営2.理事会の引き継ぎ【標準的な対応】 理事会の業務、帳票類、懸案事項等の引き継ぎを実施している。
主な引き継ぎ内容
①理事の職務内容
②事業計画・収支予算の内容等
③保管書類および保管場所等(実物検査を行う)
④組合員等からの要望や苦情の内容
⑤継続中の事件・事故の内容
⑥管理会社との調整事項
⑦総会決議事項の未実施事項
大規模修繕工事新聞 173号2024-05