一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は、“管理業者管理者方式”をテーマに、4月28日からVimeoで公開している第68回セミナーの【後編】として、内容を抜粋して掲載します。
詳しくはVimeoによる動画配信を視聴してください。全建センターのホームページから閲覧することができます。
佐藤成幸・筆頭理事:国土交通省が設置した外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループでは、パブリックコメントを実施し、最終的に約600件の意見が寄せられました。
ここで、パブリックコメントで寄せられた生の意見、生の声について、山村先生からお願いしたいと思います。
山村行弘弁護士:パブリックコメントには、「そもそも論」から具体的に突っ込んだものまで、さまざまなコメントが寄せられました。その中でも代表的な例をいくつかご紹介したいと思います。
第三者管理者方式に関する意見
第三者管理者方式はマンションの管理の主体があくまでもマンションの区分所有者という原則から逸脱しているのではないかというご意見がありました。
これに対しては、外部管理者方式においても、マンションの管理の主体は区分所有者から構成される管理組合であり、新ガイドライン案に定める管理者の業務執行に対する適切な監督体制の確保、区分所有者の意思を反映するための環境整備などを行うことにより、区分所有者から構成される、管理組合による管理を行うことは可能であり、このような原則から一律に逸脱するものではないと説明されています。
管理組合運営のあり方に関する意見
管理業者による第三者管理者方式においては、マンション管理士などの専門知識を有する資格者といった、第三者からのアドバイス承認を必要とすべきではないか、というコメントがありました。
これについて、新ガイドライン(案)では、外部管理者方式を導入するかどうかの検討にあたり、中立的な第三者からの意見を得るため、外部専門家の支援を受けることも考えられるという説明がされています。
会計状況などの把握に関する意見
第三者管理者方式では、組合員が会計状況などを把握できないのではないかというコメントもありました。
これについて新ガイドライン案では、会計に係る管理者による情報開示の管理規約例が記載されていますので、参考にしていただければと思います。
その他
管理者が不法行為などを行った場合、管理組合において、簡単に管理者を変更できる制度を作るべきではないかというコメントもありました。
これについてガイドライン(案)では、管理者を介入可能としておくための措置として、管理規約における管理者名などの固有名詞の排除、会員に向けた総会の招集要件の緩和、区分所有者名簿などへのアクセスの確保などについて説明されています。
佐藤:まさに現状の第三者管理方式の懸念点にターゲットを絞った検討が重ねられたようですが、これ以外に、ワーキンググループの協議の中で出てきた内容にはどのようなものがあったのでしょうか?
東妻陽一弁護士:今回、その新ガイドラインというものが制定されたとして、それらが管理業者の方で実際に守られていくのかと、果たして実効性を確保することができるのか、という懸念を示される委員もいました。
新たに管理業者管理者となる管理業者がガイドラインに違反した場合、新ガイドライン(案)ではペナルティーというものは想定されていないようなのですけれども、少なくとも国土交通省の方でも、こういった管理業者に対する監視は続けていくということが議論されておりました。
佐藤:なるほど。専門家の先生方からも、今お話があった懸念が上がっていたということです。
さて、こうした分譲マンションの管理は、理事会が中心となって、住民で作り上げるものと規定されており、また理想ともされています。
私も管理組合の自主、自立、主体性を説き、これまで一貫して情報発信をしてきました。
しかしながら実際の現場では一時期の理事の頑張りがあってもりあがっても、引継ぎが上手くいかずに一過性に終わるといった事例も数多く見てきました。
この引継ぎは管理組合の永遠のテーマといっても過言ではないかもしれません。
管理組合活動は継続性が重要ともあらためて説きたいところですが、実はこの正確な引継ぎについて第三者管理方式が寄与できる面があるのではないかとも思っています。
この点についてどのようにお考えでしょうか。
山村:多くのマンションでは、理事を管理組合員の中で順番に回す輪番制が採用されていると思います。
この場合、管理組合運営の経過やマンションが抱えている問題点の詳細が細かく引き継がれることが難しいため、管理組合の運営がぶつ切りとなってしまって、年数を重ねれば重ねるほど管理業者任せの運営になっていきがちです。
管理組合として主体性を持って組合運営を行っていくためには、組合の運営に継続性を持たせることが必要であり、その方法としては、理事を2年任期として半分ずつ入れ替えるなどの方式が考えられます。
また、輪番制を採用しながらも、理事長は翌年度の監事に、副理事長は理事長に就任するなどといったルールを併せて盛り込む方法もあります。
2年以上の審議期間を要するような問題に対応するため、過去の理事経験者を専門委員会で残すといったことも考えられます。
このような方法で、組合運営に継続性を持たせることは可能ですが、そうはいっても、継続性を維持させるためには、個々の理事の負担が相当大きくなってしまうことが避けられません。
現在議論されている第三者管理方式は、専門家が組合運営に携わることで、個々の理事の負担を軽減し、また継続性も維持できるというメリットがあると思います。
佐藤:国土交通省のマンション総合調査では、管理事務そのものを管理業者に委託をするということについて、管理組合の意向も聞いています。
その中で、管理事務を「管理業者に任せてもよい」がその方針はできる限り管理組合で決めるべきであるという回答が74.2%でした。他方、「管理業者にすべて任せてもよい」は19.5%しかなかった。
この結果から、第三者管理者方式にせざるを得ないマンションだったとしても、何らかの意思表示を行う機関、機会を維持しつつ、なおかつ管理の方針はできる限り管理組合で決めるべきと思っているマンションが実は多いと読み取ることができるのではないかと思います。
こうした点については、どのようにお考えになりますか?
山村:第三者管理方式を採用しながら、なんらかの意思表示を行う機関を維持し、管理方針をできる限り、管理組合で決めるやり方としては、管理業者を管理者として、それを理事会が監督するパターンが想定されます。
このパターンでは、管理業者に任せきりにせず、管理業者の業務執行状況をしっかり監督していくことが必要です。
このような監督のために、まずは、管理業者と締結する管理者業務委託契約書の内容をチェックし、不当に管理業者の権限が強くされていないかどうかを確認する必要があります。このようなチェックに弁護士が役立つ場面は多々あると思います。
また、契約締結後においても、管理業者が利益相反行為を行っていないか、法令違反や規約違反がないかという点に目を光らせる必要があります。
その役割は主に監事が担うことになりますが、監事のうち、少なくとも一人は弁護士等の専門家になってもらうことが望ましいと思います。
東妻:管理業者管理方式のメリットは、管理のプロにお任せできる、言葉を選ばずに言えば、お金で管理の問題を解決できることにあります。
他方で、新ガイドライン案では、住民による協議会、それから修繕委員会を検討する必要があるという指摘がありまして、もちろん組合員による監視も重要ですが、組合員の負担があまりに大きくなってしまうと、せっかく管理業者管理者方式を採用したというメリットも失われてしまうところで、非常に両立のバランスが難しいと思います。
外部専門家導入費用に反対する、そういった組合員の意見が多数あるようですが、せっかく費用をかけて管理業者を管理者とするのであれば、管理業者管理者方式のメリットを最大限に享受するために、少し割り切って考えて、もう多少の費用を上乗せしても監事は外部専門家に任せる、管理業者に対抗し得る知識・経験を備えて人材を監事に据える、ということも十分に検討の余地はあると考えます。
そして、監事に就任する外部専門家として弁護士が最適であろうと私は考えます。
佐藤:なるほど、管理業者が管理者となる第三者管理方式の場合こそ、専門性や経験値などを基にした弁護士という存在が頼もしく見えてきます。
真に依頼人である管理組合の立場に立って行動するという点については、正に弁護士の本筋というべきものだと思いますし、相性が良いとも判断できます。
この点を踏まえてさらに補足があればお願いします。
山村:先ほど、弁護士を常任の監事におくことが望ましいと述べましたが、その場合、弁護士に監事業務を委託する経費がかかることがネックになることもあると思います。
そのような場合、監事にはならないものの、当該管理組合のことについて理解していて、いつでも気軽に相談できる「顧問」として弁護士を活用する方法もあると思います。
佐藤:本日は管理業者が管理組合の管理者となる「管理業者管理者方式」に関する新ガイドライン案について、弁護士という目線を通しての見解などを説明してきました。
マンション管理を取り巻く2つの老い問題、それに加えて当センターが提言している管理業者の老いの問題を併せた3つの老いを鑑みた場合、第三者管理者方式についてはどこの管理組合であってもいずれは正面から対峙せざるを得ない問題だと思っています。
その時に備え当センターでは管理組合の立場に立てる専門家の弁護士としっかりとつながっておくことがリスクの少ない管理をする一つの方策であるとも提案したいと思います。
こうしたことを踏まえてあらためて最後に一言お願いします。
山村:今、ご説明のあったマンション管理を取り巻く3つの老いの問題からすると、第三者管理者方式は、このような問題を打破できる方策になる可能性を秘めています。
ただ、やはり、そこで管理組合の方々が気を使わなければならないのは、管理業者等の外部専門家に任せきりにするのではなく、それらが行う業務をしっかりと監視監督することです。
この監視監督はなかなか難しいところもあると思います。
ですので、我々弁護士や会計士、マンション管理士などの専門家を上手く活用していただきたいと思います。
具体的にどのように活用するか、という点については、マンション事に事情も異なると思いますので、是非ご相談をいただければと思います。
東妻:第三者管理者方式、管理業者管理者方式に関しては、マンションのご事情によっては一定のニーズが認められることは間違いがないのであろうと考えます。
ただし、どんなに管理業者を信用できると思っていたとしても、他人に任せっきりにすることにはリスクがあまりに大きいということは、直近のニュースを例に挙げてご説明したとおりです。
そういった意味で、監事の役割というのは非常に大きくなるであろうと考えます。監事を組合員の中から選任するということももちろん必要だと考えます。
ただ、特定の組合員に監事の役割を押し付けるというような状況になるとすれば、それは、現在、特定の組合員に理事長や役員を押し付けて理事会、管理組合を運営している現状と変わりないことになってしまうようにも思います。特定の組合員の負担が軽減するという管理業者管理者方式の実益に欠けるように思います。
そのような意味で、管理業者管理者方式の最適解は、監事を組合員と弁護士などの外部専門家と2名で選出する、ただし、監事の業務の負担は専門家である監事にできる限り負担してもらって、組合員である監事の負担はなるべく軽くすること、このような形が、管理業者管理者方式のメリットを享受するという要請と、管理者の暴走に歯止めをかける、目を光らせるという要請とのバランスを図りやすいのではないか、と考えます。
仮に管理業者管理者方式を採用しようとする場合において
も、どのような形にすべきかということについては慎重に検討いただきたいと思いますし、専門家にも積極的に相談いただくといいのかな、というふうに思います。
佐藤:大変長い時間ではありましたが、新ガイドライン案のポイントを中心に、両弁護士の先生方からご説明をしていただきました。
繰り返しになりますが、どこの管理組合でも、3つの老いの問題に関して正面から向き合わざるを得なくなります。
その時に備えて、当センターでは管理組合目線に立ってサ
ポートする体制、あるいは専門家というものを用意しております。
マンション管理の実情における懸念点、問題点があれば、当センターにお問い合わせ、ご相談ください。皆様方への解決の一助になることを申し上げて、本日のセミナーを終了します。
大規模修繕工事新聞 174号2024-06