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マンション関連判決例紹介/浴室、トイレ等も大規模修繕で一斉交換 規約改正、修繕積立金の取り崩しは有効!?

【事案の概要】
 神奈川・藤沢市のマンション(昭和42年竣工・RC造・5棟・175戸)の区分所有者である原告2人が、被告である管理組合に対し、管理規約の改正(共用部分等の管理、修繕積立金の取り崩し)、給排水管等設備改修工事の請負契約の締結、借り入れおよび修繕積立金の使用に関する総会決議の無効を求めた事案。
 工事対象には共用、専有部分に属する給排水管・ガス管だけでなく、浴室、トイレ、給湯器、洗濯パン、洗面化粧台などが含まれていたことから、専有部分の先行工事をした者との不均衡、浴室やトイレなどの所有権は管理組合にない点などが争われた。
 工事は原告の住戸がある棟の4戸を除く171戸で完了し、管理組合は工事代金を支払っている。
●原告の主な主張
・ 専有部分は区分所有者の所有に属するもので、使用や管理は区分所有者が行うべきものである。
・ 管理組合は共用部分の管理を行うための団体であり、修繕積立金も共用部分の修繕のために徴収されている。
・ 管理組合が管理する修繕積立金は区分所有者全員のもの(総有)であり、全員の同意なく、個別の区分所有者に対して分けることになるような専有部分の工事に使うことができない。
●被告(管理組合)の主な主張
・ 専有部分に属する給排水管、浴室、トイレ等の設備は一体的かつ効率的な管理のために必要なものであり、区分所有者の共同の利益に資するものである。
・ 配管類の交換で、浴室の床をはつり、既存の浴室を再設置するには、①多額な費用のかかる防水工事が必要となる、②配管類のみ交換すると旧設備から漏水する危険がある、③撤去したバランス釜・浴槽を再接続する部品の調達ができないおそれがある。このため共用部分の工事とともにユニットバス化に更新する必要があった。
・ トイレ設備は共用部分の給排水管と物理的に接続されていて、共用部分と物理的一体性を有する部分であり、配管類のみ更新しても旧設備から漏水する可能性がある。
・ 既存設備を続けて使うことを希望した区分所有者に対しては、標準品の価格相当額をオプション工事代金から値引きすることによって実質的な補償をしている。

【裁判所の判断】
 修繕積立金に関し、使途を共用部分に限定する法令の定めがなく、本件マンションにおいて共用部分のみならず、共用部分の管理上影響を及ぼす部分についても使用できるとすることができると述べている。
 その上で、本件マンションのこれまでの経緯や構造等を踏まえ、ユニットバス化や洗濯パンの新設等をすることが、共用部分の管理上影響を及ぼす部分の修繕に当たるとして、被告側の主張を認めた。


【コメント】
 本件において、一審の横浜地裁の主な判断は下記のとおりです。
 ①専有部分を共用部分とともに一体として管理することは、建物等の価値の維持管理のために必要かつ有益と認められ、そのことが区分所有権の侵害とは認められない。
 ②規約の改正は、本件マンションの区分所有者全員に影響を及ぼすものであるから、区分所有者間の利害の衡平を害するとはいえない。
 本件工事の必要性および合理性と、これにより先行工事を行っていた者が被る不利益の程度を比較考量し、加えて、不利益を受ける可能性のある組合員のうち、現在、本件各決議や本件工事に反対をしているのは原告ら2名にすぎないこと、先行工事をした者に対して一定の補償措置がとられていることを考慮すると、先行工事を実施した者と実施していない者との間で、本件各決議の無効をもたらす程の不公平が生じているということはできない。
 ③本件各決議は、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しない。
 ④共用部分の修繕のために必要な限度で、専有部分に属する設備の改修費用についても修繕積立金を充てるというものであって、修繕積立金を各区分所有者に払い戻すものではないから、修繕積立金の分割には当たらない。
 ⑤浴室設備やトイレ設備及びこれに付随する給湯器や洗面台の設置をする工事は、共用部分の給排水管・ガス管を改修するために必要であり、かつ、合理的な工事方法であって、共用部分の管理と一体として行う必要がある。
 ⑥工事代⾦を修繕積立金から拠出したからといって、直ちに工事した専有部分の所有権が管理組合に帰属するものではない。
 以上のことから、原告の請求を全て棄却と判断しました。控訴審も概ね一審の判断を支持し、最高裁もこの判断を維持しました。
 ただ、本件判例は、あくまで本件マンションのこれまでの経緯や構造等を踏まえてなされた個別の判断であり、修繕積立金で専有部分を工事することができるということを一般的に認めたものではないという点に注意が必要です。
 令和6年6月に改訂された国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」にも、「修繕積立金は、共用部分について管理組合が行う修繕工事の費用に充当するための積立金であり、専有部分について各区分所有者が行うリフォームの費用は原則として含まれません」と記載されています。
 修繕積立金は、あくまで共用部分についてのものであり、ごく例外的に専有部分の修繕についても認められる場合があると考えるべきでしょう。

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大規模修繕工事新聞 177号 2024-09