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日本マンション学会 2025横浜大会報告/「マンションの未来を創る」

日本マンション学会横浜大会は4月19、20日、「マンションの未来を創る」をテーマに、横浜市開港記念会館で行われました。ここでは、メインシンポジウムに登壇した国土交通省住宅局・杉田雅嗣参事官の
基調報告を採録します。
 また、分科会からはマンション崩落事故の判例解説を行った花房博文氏(第1分科会)、被災時の役割をテーマにした阿部一尋氏(第4分科会)の報告について、抜粋して掲載します。内容は、当日の報告や『マンション学』掲載のレジュメ等を引用しながら編集部で再構成しました。


マンション法の改正を踏まえた未来─シン・社会的資産としてのマンション─
横浜市立大学・齊藤広子教授

マンション法の改正が3月4日閣議決定をしました。
 こうした法の改正を踏まえて、多様なマンションがある中で、これからマンションで改めまして安心安全に暮らし、そして資産価値の維持向上だけでなく、地域の資産としてマンションを適正に維持管理していくには何が必要でしょうか。
 第1に、区分所有者そして管理組合の主体的な態度、これは大事ではないでしょうか。
 第2に適正な専門家の支援体制です。管理組合が安心して専門家に依頼できる体制はあるのでしょうか。
 第3に、マンションの適正な管理・再生のための行政のリーダーシップがますます大事になってきますが、では、もっと安心して暮らすためにはどんな政策が必要でしょうか。
 マンションは個人の財産の集合体ではなく、社会的資産としての側面があるのではないでしょうか。
マンションは地域の防災力、地域のコミュニティや福祉の拠点となっています。あるいは市場を通じて何世代も引き継がれていく不動産です。あるいは管理組合が担う地域の自治能力、ガバナンス力は行政につながるものがあります。
 こうしたマンションが持つ性格のほかにも、マンションに求められる、真の社会的資産とは何かということで、「シン・社会的資産」とし、テーマ設定をしました。


基調講演

マンション政策小委員会のとりまとめについて
国土交通省住宅局・杉田雅嗣参事官

マンションの管理適正化を促すしくみの充実
 まず管理計画認定制度の拡充です。
 これまで管理組合のほうで認定を取っていただいて、件数は増えてきているのですけれども、認定取得までの段階で、例えば修繕積立金の引き上げ、長期修繕計画の見直しについての意思決定、合意が得られず、決議に至らないケースもあるという声もいただいています。
 マンションの適正管理を促すためには、新築の段階からちゃんと積立金を設定したり、修繕計画を作成したりと、分譲業者に対して適切な管理計画の作成を誘導し、それを管理組合が引き継いでいくというような制度改正を図っていきたいと思っています。

管理業者管理者方式については、やはり利益相反の疑いがあるようなことを防いでいかなければならないので、特に自社や自社の関連会社との取引を行おうとする場合の区分所有者への事前説明を義務付けるといったことも含めて規制を設けていくことを今回の法改正の中に盛り込んでおります。

多様なマンション再生のニーズに対応した事業手法の充実
 建替えが困難なマンションで、建替え以外の再生手法の選択肢がなかなか取りづらいというところ、今回、区分所有法の改正の中で、一棟リノベーション、建物・敷地の一括売却、解体・取壊しなど、多様な再生ニーズに対しても5分の4の同意でできるようになる見込みです。

課題としては、こういった決議がされた後、いかにその事業を円滑に進められるようにするかという、その事業手続きをしっかり作っていく必要があると思っています。
 建替えについては、保留床を生み出しやすくするためのいくつかの緩和措置ということで、例えば隣接地の所有権について、建替え後の区分所有権等への権利変換を可能にするなど、関係権利関係者との合意形成を促進するための特例を設けることもやっていきたいと思っています。
 また、マンション建替法では、要除却認定マンションの場合、容積率の緩和措置が認められているが、斜線制限等の高さ制限についての特例措置も講じていきたいと思っています。

地方公共団体によるマンション管理適正化・再生円滑化への関与の強化・充実
 2020年の改正マンション管理適正化法により、管理不全となっているマンションに対しては、地方公共団体からの助言・指導・勧告といった働きかけができる制度を作りましたが、2024年6月の時点で指導・助言の実績は9団体35件、勧告は0件で、制度だけでは不十分な部分もあるという指摘をいただいております。
 これを踏まえ、地方公共団体から能動的に関与できるように地方公共団体の権限を強化していくことを考えているところです。
 とはいえ、地方公共団体も限られた人員の中でマンション政策をやっていただいているので、民間団体の活動を促進するとともに、地方公共団体との連携を強化することで、取り組み体制を作っていくことがいかに大事かと思っております。
 今回まだ法律を国会に出しているところでございますけれども、我々としてもしっかりと国会審議を含めて対応し、この法律の成立、また施行に向けて万全な体制を取っていきたいと思っております。

 

4月19日 第1分科会
【 判 例 研 究 委 員 会 】

マンション擁壁崩落事故の責任がマンション管理会社にあるとされた事例
創価大学法科大学院・花房博文教授
 本マンションの傾斜地擁壁崩落事故は、「人命損害」の賠償を求めた第一事件と擁壁が崩れてしまったことに対する「物的損害」を管理組合が管理会社に求めた第二事件に分かれます。
 ここでは擁壁崩落事故の原因について、管理会社が管理組合との管理委託契約に基づく報告義務違反に基づくものであるとした判決(第二事件)を取り上げて、同判決の法的根拠を改めてここで検討してみます。

管理会社の責任根拠について
 本件管理委託契約書には別表第二の点検業務を対象として、建物、諸設備、諸施設が記載されているところ、管理対象物部分には附属施設として、建物に当たらない車道、歩道、植え込みがあげられています。

判決では、上記「建物に当たらない…」を考慮して、諸施設の中から、擁壁、落石防止柵、植生からなる本件斜面地を除外するという解釈は合理的なものとは認められないとし、斜面地は当然諸施設に含まれると解するのが相当であるとしています。
 さらに、判決では、管理委託契約書とは関係なく、「条理」上の助言義務や斜面地の安定保護を損なう行為を避ける義務の発生は免れないと解されるとして、管理会社の責任を認めています。
 「条理」を持ち出して、「条理」に基づく責任を認めたわけですが、「条理」を持ち出されてしまうと、管理委託契約書の中で合意している内容が、「条理」によっていくらでも拡大してしまうのではないかという問題が気になります。

第二事件の第一事件への影響

 この崩落によって「物的損害」が発生したことが管理会社の全面的責任にあるとなると、第一事件の管理会社の責任も強化されてしまうことになります。
 第一事件は被害者救済が最優先ですから、保険金で全額賠償されることには皆さん、異論はないと思います。
 ところが、保険会社としては当然求償をしてきますから、その求償の先が管理組合ではなくて管理会社になるということになります。

おそらくこの判例は、管理組合はほとんど知識がないんだから、何とか管理会社に責任を負わせられないかという思いが入ったものであるかと思います。
 管理委託契約書ではなく、「条理」が根拠になって管理会社の責任を「有」としてしまった。そうすると、管理委託契約書において管理対象物というものを明確に定めないで、対価をはるかに超える危険性の責任を、管理会社が今後も負っていくのか?ということになります。
 管理会社はまずは責任を負わないような条項を、責任逃れの条項をどんどん作るように努力することになります。

管理組合のためを思って出した判決が、決して管理組合のためにはなっていない。適切な維持管理は管理会社や専門家の支援や協力体制が必要である中、対立構造を生むような判決というのは、決して適切な判断ではなかったように思われます。

 


4月20日 第4分科会
【 行 政 課 題 研 究 委 員 会 】

地方行政及び管理組合の被災時の役割
一級建築士・阿部一尋氏
 大規模震災のマンション被災時に行政(都道府県・市・住宅供給公社等)に求められる役割および管理組合が取り組むべき役割について検討する。

【行政の役割】

まず、大規模地震の発生とともに復旧時期に対応する行政職員や専門家が不足します。
 行政として
①被災直後には、相談体制の確立、インフラ整備の復旧および復旧状況の伝達、
②復旧時期には、その相談体制、復旧支援体制の構築・調整が必要です。
 直接的な役割としては、応急危険度判定士、被害認定調査担当職員、応急修理制度担当職員の増員が必要となります。

①被災直後

応急危険度判定

「応急危険度判定士」は講習会の修了をしている建築士が条件です。全国的に10万人程度の判定士がいるようですが、被災直後は被災地以外(他都市)からの応援が求められるため、応援体制は国の指導が必要となると思います。

り災証明(被害認定調査)
 り災証明は、市町村長が被害認定調査をして、証明書を交付しなければなりません。被災地域の職員による調査は人員不足が予想されるため、被災した市町村以外のところからの応援ができるといいと思います。

②復旧時期

相談体制の構築

被災直後を経過して復旧に向かう時期は、復旧か建替え、敷地売却、建物除却からといった協力体制の構築が必要であり、国の指導が期待されます。

各種助成制度の管理組合への周知
 行政による各種助成制度は、管理組合への周知が必要です。これは各地の管理組合団体やネットワークの協力が効果的です。

【管理組合の役割】

 管理組合には被災マンションの復旧について建築・設備に関する専門的知見を有する者が少ないため、組合自身の学習努力と専門家の協力が必要です。

①日頃からの準備
地震保険の加入
 地震保険の加入により、組合員の合意が容易に形成され、早急に修繕が可能となる事例も見られました。

管理規約・長期修繕計画・修繕積立金の見直し
 被災時は理事会・総会が開催できない可能性が高いため、緊急時の支出について理事長の役割・権限の条文化の検討が必要です。災害対策費として応急修繕、修繕費の対応が可能な資金準備を含むことが望まれます。

②各種被害調査と修復実施
自主被害点検調査の実施
 平時に管理組合としてできる被害点検と応急修理を確認しておきます。被害認定調査制度の理解も進みます。

行政への助成制度活用、手続き
 公費解体の是非判断には制度利用の期限があり、専門家と相談の上、手続きを進めることになります。

復旧計画の検討、作成被災後の行政や管理組合の活動を念頭に復旧タイムラインを作成します。


大規模修繕工事新聞 2025-6月 186号

 

 

日本マンション学会の大会会場となった横浜市開港記念会館

◆横浜大会プログラム
4月19日
第1分科会「最近のマンションの紛争と裁判」
第2分科会「マンション管理情報公開の新時代」
第3分科会「マンションとまちづくりのあり方」
メインシンポジウム
「マンション法の改正を踏まえた未来
  ─シン・社会的資産としてのマンション─」
4月20日
第4分科会「 大規模震災時の被災マンション復旧に資する制度整備の提言」
第5分科会「 一人暮らし高齢者の公的・私的な支援と支援者の役割」
第6分科会「 マンションの未来を創る行政の取組み」
第7分科会「日韓マンション管理比較」
第8分科会「一般報告/実務・管理報告」
見学会 :エリアマネジメント導入事例(プラウドシティ日吉)