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大規模修繕工事【工事費節約】セミナー/7/24 於:東京・住宅あんしん保証本社会議

 会場には 50人を超える参加者があった

 講師を務めた㈱リノシスコーポレーション・佐藤成幸専務

全国建物調査診断センターは7月24日、東京・京橋の㈱住宅あんしん保証本社会議室で「工事費節約」をテーマに大規模修繕工事セミナーを行いました。
大規模修繕工事を勉強された管理組合役員は、一般の組合員の理解と賛同のもと、総会の承認という大仕事が待っています。工事費の予算合意を得なければ役員は孤立してしまい、せっかく検討した工事も実施できません。
そこで、多くの大規模修繕工事において工事費の節約を経験してきた2人の設計コンサルタントがその極めた成功方法などについて講演しました。
今号では㈱リノシスコーポレーション(1級建築士事務所)佐藤成幸専務の講演から、取り扱った事例の一部を掲載します。

 

ケーススタディーその①

工事実施の優先順位と

「実施しない優先順位」を検討

物件概要
神奈川県・平成15年竣工・RC造・地上5階建て・1棟・67戸
経過
築11年目に大規模修繕工事の計画検討をスタートし、翌12年目で工事を実施する予定であった。ところが、調査・診断後にコンサルタントが示した工事費用予算に対して、修繕積立金が不足する見通しが出てきた。
対応策
設計検討段階では、実施する工事の優先順位だけでなく、直近の大規模修繕工事では実施しないものの優先順位も合わせて議論した。
屋外に雨よけのための屋根がほしい、エントランス部分の段差をなくしたい、駐車場出入り口にカーブミラーがほしいなど、いい機会だから取り入れたいという工事項目もあったが、大規模修繕工事に組み入れなくてもよい。実施しないも工事項目の優先順位には劣化診断の状況も当然踏まえるが、机上ではなく実際の耐久年数情報のフィードバックや仮設工事費用とのバランスなど、総合的な経済的合理性を加味した。
結果と考察
①競争見積依頼は予算規模オーバーでも実施した工事項目を組み入れた。ただし設計図書には後に工事範囲の見直しがあることを記載した。
②競争効果により、ある程度の費用圧縮を図れたが、施工業者の見積段階ではやはり予算オーバーだった。
③しかし、想定内なのであらかじめ検討していた工事を実施しない優先順位にて工事項目を除外する。
④その結果、現実に工事契約ができる、まとまったパッケージができた。
◇余談として…下地補修の清算費用(タイル焼き増し)が大きく減額になり、契約時に除外した工事も最後に復活できた。

ケーススタディーその②
工事計画を2年半休止
積立金値上げと貯蓄、合意形成図る

 

物件概要

東京23区・ 平成13年竣工・ RC造・地上6 階建て・1棟・ 19戸

経過

築11年目に大規模修繕工事の計画をスタートした。平成24年の建物調査・診断後、コンサルタントが提示した検討段階の工事費用予算に対して、長期修繕計画の予算金額が大きくオーバーしてしまった。そもそも目安としていた 長期修繕計画に工事項目が詳しく明示されていないなど、非常にずさんで、このことから工事資金の徴収方法をめぐって、理事や区分所有者の意見が二分しかねない事態に陥ってしまった。

対応策

長期修繕計画の内容を分析したところ、国土交通省が策定したガイドラインの様式にならうものではなく、特に仮設工事や下地補修の工事内容に計上 の不備があった。

そこであらかじめ決定していた大規模修繕工事計画スケジュールの進行を一旦休止(結果的に2 年半かかる)し、長期修繕計画の修正、資金計画の練り直しから着手した。

改めて30年の長期修繕計画を作成し、説明した上で、中長期的な視点から修繕積立金が不足する認識をもってもらった。そこで積立金の値上げと貯蓄する期間を設けた。

結果と考察

① 積立金の値上げと貯蓄する期間を設けたことにより、工事実施の合意 形成が図れた。工事の実施は 2年半後の平成 26年9 月となった。

②休止期間を設けることで、そもそもの現実的ではない金額を予算として、それに無理やり合わせるという本末転倒な状態を逆転させることができた。

③また休止期間があったことで、賛成・反対の衝突をさけて真に必要なものは何かを議論し、深く考えることができた。

(大規模修繕工事新聞 第81号)