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管理組合 建て替え奮闘記/横浜市・中区/アトラス野毛山管理組合

◇流れた計画、スラム化の手前◇

120戸中、反対者5人―。
1998年建て替え決議総会。計画は、流れた。当時の管理組合は「全員合意を大条件」に建て替えを進めていた。それがついに叶わなかったのだ。
「工事差し止めが怖かった」と、当時を振り返るのは1回目の建て替え委員を務めた江波戸威津雄さん。
万一、反対者の意向を振り切って建て替え工事を強行しても、建て替え決議の瑕疵(かし)などを理由に、裁判所に工事差し止めの仮処分を申請されるかもしれない。そうなれば、工事はストップ。事業の行方がわからなくなったまま、仮住まいの費用がかさみ、住民関係が泥沼状態に陥る可能性もある。
「とにかく全員合意を目指してやっていた。それがダメだったのだから、建て替えなんてもう当分できないだろう、と。当時は、そんながっくりきた雰囲気がみんなにあった」
反対の大きな理由は、最低でも戸当たり1000万円以上の費用負担。住民の高齢化も要因だった。
ただし、これまで計画的な修繕を行ってきたわけでは、ない。外壁の崩落、爆裂、汚れがひどく、水漏れや赤水など、住環境の劣悪さはどんどん進行していた。
道路公団やNTTなどが所有する社宅が30戸を数えるが、住み手がなくなり、空き室が目立つようになった。スラム化の一歩手前…誰の目にもそう見えた。
そんなころ、時代はマンション建替え円滑化法施行、区分所有法改正という流れの中に移行していった。

旧野毛山住宅。昭和31年の分譲以来、計画的な修繕は行われず、空き室もどんどん増えていった

◇2度目の建替え委員会発足◇

1997年の阪神・淡路大震災を境に、マンションの法律が動き出した。
2002年、マンション建替え円滑化法施行。管理組合では6月の総会で再度、建て替え準備会発足が決まった。
翌年4月、建て替えについて区分所有者へのアンケートを実施。120戸中、結果は賛成110、反対1、無回答9。
2004年の総会で、「野毛山住宅建替え委員会」を組織した。このときの感想を江波戸さんはいう。「今は空き家状態が多いけど、きれいになったら、みんなここに住みたい気持ちが強いんだよ」。
2006年8月、横浜市で初めて、建替え円滑化法を適用した建替組合が認可され、9月に設立総会を開催した。
「リーダーがいてくれたからできた」。これも江波戸さんの言葉だ。法律の改正であれ、業者の協力であれ、基本的に住民側のリーダーシップは欠かせない。そして続けた。「やっと出てきてくれたリーダーのもと、今度は本当に建て替えができると思った」。
売り渡し請求は2戸。実際には、単に「高齢で理屈が通らない人」との話し合いだった。
2007年3月、着工記念パーティー、安全祈願祭。事業協力者として、施工を担当した旭化成ホームズ(株)が住居を取得し、所有者として建替組合に参加している。
旭化成ホームズは建て替えに向けての合意形成に専任の担当者を置いた。住民同士だけでは軋轢(あつれき)が残りそうな関係の取り持ちを行ったのだ。

解体される旧野毛山住宅。それまでの管理費等は修繕積立金を含めて、わずか3,000円だった

◇事業パートナーの役割◇

建て替え決議が成立したのは2005年12月。
その1年前の11月、旭化成ホームズが建替え事業のパートナーに選ばれた。
同社は事業パートナーとして、新たなマンション設計の概要、既存建物の取り壊しや再建の概算費用などを提案。また、建て替えに賛同しない人への説得などにも当たった。
「女性の担当者だったんだけど、建替えへの参加が難しい人や迷っている人などにも親身になって対応してくれた。そういうところがうれしかった」と江波戸さん。
2006年8月、建替組合認可。しかし、建物の取り壊しは翌年3月まで待たねばならなかった。理由は、権利変換計画の許可を得るのに時間がかかったからだ。
決議に賛成したからといって、資金調達が難しい人はいる。抵当権のある住戸は、その抹消手続きをしなければならない。高齢者には住宅金融支援機構の制度の利用を薦めた。所有者の資金調達へのアドバイスは、旭化成ホームズの担当者が仕切ってくれた。
「経済的に弱い人をどうするかが、合意形成の重要なポイント。そうした点で、旭化成の担当者がよくやってくれた」と江波戸さん。
旭化成ホームズは、参加組合員として建替組合に参加し、事業費を負担するとともに理事も務めた。そして、事務局として事業の事務手続きの一切を引き受けた。
「建替え円滑化法に基づいた成功例のある会社をパートナーに選んでよかった。まだまだ建て替え事例は少ないからね」。実績による信頼が旭化成ホームズを選んだ理由だったようだ。
建替組合認可から2年。この年の9月に完工を迎えた。

建設中の様子。旧野毛山住宅の地権者は65戸を取得し、77戸を一般販売とした

◇とりあえずの船出◇

昨年11月29日、建て替え完了後初の管理組合設立総会を開いた。
ところが、管理規約の内容でつまずいた。建て替え後は142戸。前所有者65戸に対して、77戸が新規所有者となる。理事会はこれまでの理事経験者の中から選んだほうが収まりつくだろうと考えたが、建替組合の中から1人だけ居住しない前所有者を理事候補にしたい思惑があったのだ。しかし、規約で「役員は居住するものに限る」と明記してある。
このため、第1期理事会は1人欠員という形をとり、その理事候補はオブザーバーとして参加してもらうことで落着した。
建替組合の副理事長だった江波戸さんは、ここでアトラス野毛山管理組合理事長に就任することになる。「やっぱり、マンションをわかっている人じゃないと」という前所有者の思いがあるのだ。
江波戸さんはいう。「産みっぱなしじゃダメということ。新しい人たちにマンション管理をどう伝えて育てていくかが問題だ」。
組合運営の予算計画の承認、役員選定の承認、最低でもこのくらいはスムーズに執り行わないと…。
「とりあえずは船出しました-現状はそのレベルでしかない」と、江波戸さんはいう。
12月17日に初の理事会を開いた。印鑑は理事長、通帳は管理会社(東急コミュニティー)保管、会計担当や自治会などへの渉外担当を決めた。これからの理事会では、基本的なルールをいろいろ決めて行きたいという。
新規所有者の中から、副理事長を選んだ。新旧の壁を作らぬよう、どんどん管理組合情報を流して、「私たちのマンション」を構築していく予定だ。決算月は4月30日。そのときに理事会メンバーを再度固めていく。

(大規模修繕工事新聞 第88号)

平成14年、120戸のうち居住区分所有者は20数戸。建て替えアンケートを北は北海道、南はオーストラリアまで郵送した。17年12月建替え決議が行われ、野毛山住宅は20年12月「アトラス野毛山」として生まれ変わった