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『取り残された排水通気管の改修ポイント』解説 (その2) /第69回管理組合オンラインセミナー採録

● 講 師 ● 一般社団法人全国建物調査診断センター 理事 今田洋史 ・給水装置工事主任技術者 ・排水設備工事責任技術者

一般社団法人全国建物調査診断センターが主催する管理組合オンラインセミナー。今回は『取り残された排水通気管の改修ポイント』と題して、「屋上防水の保証が絡む」「入室工事が必要となるため排水管工事の時に」などを理由に先延ばしされることが多い排水立管・通気管の取り扱い、改修方法を取り上げます。
 詳しくはVimeoによる第69回管理組合オンラインセミナーの動画配信を視聴してください。全建センターのホームページから閲覧することができます。


排水管と通気管について
まずご自分のマンションに通気配管が設置されていることを皆さんご存知でしょうか。
大規模修繕工事では、通気配管を施工しないケースが多くあります。理由は、屋上防水の保証や入室工事が必要になるためで、「排水管改修のときに」などと言って、工事項目から外されてしまい、現実、通気配管改修が取り残されてしまっているのです。
今回のセミナーはこれに焦点を当てて、適切なタイミングで、しかも最も合理的に改修する方法についてご提案します。
排水というのは空気がないとうまく流れません。排水をしたときに、負圧になった空気の逃げ場所がどうしても必要になるので、屋上もしくは最上階のベランダ、廊下に通気口が必要になります。
マンションの設備断面図をみると、必ず排水立管のところに通気管・通気口がついています。排水立管の本数だけあるマンションと、合流させて一本で屋上に出しているマンションと、2通りあります。
多くの通気管というのは、最上階の専有部分、天井裏にあるので、屋上に抜けているかベランダに抜けているかの違いはありますけれども、最上階のお部屋で工事をしなければならない、部屋内に絡む部分が多い、というのが特徴です。
基本的に最上階のお部屋には入ってきちんと直した方が後々は手間がかからないので、最上階の専有部分への入室が必要になります。
専有部分に入らないで工事をやってくださいという場合が多いですけれど、やっぱりきちんとやるには入った方がいいと思います。
大規模修繕工事で外壁や屋上の防水をやる場合でも、お部屋の中にわざわざ踏み込んで何かやらなきゃいけないという事例はあまりありません。漏水しているとか、そういうことがない限りはお部屋の中にわざわざ入ろうという提案自体、どこの大規模修繕工事会社もやらないといえます。「築40年目ぐらいで排水管を更新するときに一緒にやればいいんじゃない?」という考え方が一番多いと思います。
天井のクロスが垂れてきて、カビも発生。当初、建築会社は「最上階なので雨漏りか結露か」と話していた天井と同時に床にも湿気が回り、ぐずぐずの状態になっていた。給水管からの漏水、便器の結露という話も出ていた。天井を開けてみたら、通気管があり、穴が開いている状態。硫化硫黄ガスが天井裏にたまり、カビが大量発生していた。全部壊したあげく、カビが出ている部分に関しては、すべて消毒カビの防止処理を施した。

排水通気管の不具合事例①
(神奈川県・築41年時)
トイレとキッチンの間に大きな排水用のPS(パイプスペース)があり、通気管に穴が空き、破断していたという事例です。最上階住戸のトイレ天井のクロスが垂れてきて、カビが出てきていました。
下水の匂いが部屋に充満していたものの、住民は匂いに慣れてしまっていて、建築会社の見立てのとおり、最上階なので雨漏りを疑っていました。通気管とは思わなかったので、すぐに天井壊して直しましょうという話にはならない。匂いに慣れてしまっていることが、発見が遅れる一番大きな理由です。
天井を壊して中を見ると、完全にクモの巣が張って、コンクリートにカビが出ている状態でした。壁も天井も落としてみないとどこまで悪いかがわからないので、全部壊したあげく、カビが出ている部分に関しては、すべて消毒カビの防止処理をしています。

排水通気管の不具合事例②
(千葉県・築34年時)

ョンの場合は屋上に上がるところで、一度、継手で曲げて管を通していましたが、その継手の個所が破断していたという事例です。
やはりカビが発生したというので、見に行きました。
トイレの天井にシミが出ています。天井の向こう側が外なので雨漏りじゃないかと、大きな雨が降ったときの様子をみるということで、2、3カ月何もしないで放置されていました。
設備の立場から、天井を壊してみたら、やはり通気管が破断し、脱落していたことがわかりました。何でも通気が原因というわけではないですけども、やっぱり構造上、通気管があると、ピンと来てくれないと困る事例です。
上から来ている配管と下から上がっている配管の継手の部分のネジ山が破断して完全に口が開いている状態でした。ここから硫化硫黄ガスも出ますけども、配管の中
は暖かいので、特に冬は屋上から入る冷たい空気と配管の中の暖かい空気で、天井裏が結露になってしまう原因になります。そして、カビだらけになってしまうのです。
屋上の通気管の出入り口は、下ではたいへんなことが起きているけれども、特にサビも見えないし、何もない平和な状態です。
ただ、壊してみたら、ハト小屋の中の鉄管自体も腐食して完全に脱落していました。下から見る分には全然問題なさそうに見えても、壊してみたら、中は完全に腐っていたというケースです。

排水通気管の不具合事例③
(塩害エリア・築29年時)
リビングで「なんか臭い」ということで、やはりカビが発生したというので、見に行った事例です。給湯器の裏側から屋上に伸びてる配管があり、その継手の部分に穴を見つけました。この事例も、塩害の影響があって紙のようにもうペラペラの状態になっています。
錆がどんどん浸透すると、紙のような指でこうちぎれるぐらい薄くなってしまいます。

排水通気管の不具合事例④
(東京都・築31年時)

東京都の海沿いのマンションの事例。屋上に、横向きのベントキャップ型の通気口が付いていました。配管を横に向けて出していたら、ねじ山の部分が腐り、配管の重さで下に落ちてしまった。
通気金物自体の重さは、7、8kgくらいあると思います。たまたま落ちたところがセットバックの屋上部分でよかったのですが、他のところに落ちると責任問題にもつながります。歩行者に落ちたら死亡事故にもなりかねない。
しかしながら、この通気金物が落ちるとはだれも考えていなかったという事例です。

不具合事例の留意点

通気管は「空気が通る管」と書くため、空気しか通らないと思っている人が多いといえます。
ただ、先ほども言った通り、冬になると、外気が冷たくて通気管から流れてくる空気が暖かいため、部屋の中、1mくらいのところで冷気と暖気がぶつかって、その部分で結露が起きる。外で結露が起きればよいのですが、管の中で結露が起きてしまう。
すると、適正な勾配がとれていない場合、そこでたわんで水たまりになります。
通気管が鉄の管だと、湿ったり乾いたりの繰り返しで、余計にねじ山などがサビて、ある日突然破断してしまうのです。
また、通気管を通る空気が硫化硫黄ガスを含んでいるため、鉄を腐食させる原因になります。
この2点が、通気管に穴が開きやすい原因となるのです。

〈次号では取り残された通気管の改修について掲載します〉

 

大規模修繕工事新聞 176号 2024-08

 

 

 

天井のクロスが垂れてきて、カビも発生。当初、建築会社は「最上階なので雨漏りか結露か」と話していた

天井と同時に床にも湿気が回り、ぐずぐずの状態になっていた。給水管からの漏水、便器の結露という話も出ていた

天井を開けてみたら、通気管があり、穴が開いている状態。硫化硫黄ガスが天井裏にたまり、カビが大量発生していた

全部壊したあげく、カビが出ている部分に関しては、すべて消毒カビの防止処理を施した

トイレの天井の隅にシミができている。当初は雨漏りを疑い、「様子見」で2、3 カ月放置された

上の配管と下の配管の継手の部分のネジ山が破断し、完全に口が開いている状態

通気管が破断すると、暖かい空気が天井裏に充満し、冷気が入ってきた時に結露が生じる

屋上の通気管の通気口の状態。特に劣化はみられない

壊してみたら、鉄管自体も腐食し、完全に腐っている状態だった

海に近く、塩害によるサビで剥離してしまい、紙のようなペラペラな状態になってしまった

マンションに設置された給湯器

厚さ4.5 ミリの配管が塩害の影響もあって、紙のようにペラペラになってしまう

ベントキャップ型の通気口を横向きに設置

落下したベントキャップ部分。落ちるところが悪ければ責任問題にもなる