
国土交通省が実施するマンションストック長寿命化等モデル事業の令和6年度第1回採択プロジェクトに、全国建物調査診断センターが提案者として応募した「マンション第二多摩川苑」が管理適正化モデルタイプ計画支援で採択されました。
このページでは、本モデル事業の概要説明、全建センターの提案が採択された経緯を解説。さらには今回の成果をもとに全建センターがこのほど立ち上げた補助金相談サービスを案内します。
1) マンションストック長寿命化等モデル事業が計画された背景
マンションストック数の推移を見ると、2023年末現在のマンションストック総数は約704.3万戸です。これに、令和2年国勢調査による1世帯あたり平均人員2.2人をかけると、約1500万人となり、国民の1割超が居住している推計となります。
また、築40年以上のマンションは2023年末で約136.9万戸存在します。今後10年後には約2.0倍、20年後には約3.4倍に増加する見込みです。
国土交通省では、高経年マンションの急増が見込まれる中、管理不全マンションへの対応には時間的、金銭的に多大なコストを要する恐れがあり、社会問題化しつつあります。管理適正化、再生円滑化を進めていくため、政策目的に適合した老朽化マンションの長寿命化に資するモデル的な取り組みへの支援策として、本モデル事業が計画されました。
2) 本モデル事業の概要
本モデル事業は、①先導的再生モデルタイプと②管理適正化モデルタイプの2つがあり、それぞれ立ち上げ準備段階の〈計画支援〉と、長寿命化等の工事実施段階の〈工事支援〉があります。
①先導的再生モデルタイプの計画支援は、先導性の高い長寿命化等に向けた事業を実現するための必要な調査、検討等に係る支援です。
②管理適正化モデルタイプの計画支援は、管理水準の低いマンション管理組合が地方公共団体と協力して管理適正化を図るために必要な調査検討する際の費用等への支援です。
補助事業者は、マンション再生コンサルタントや設計事務所、管理会社等になります。
全建センターが取り組んだのは②管理適正化モデルタイプの〈計画支援〉でしたので、今回はこちらだけ紹介させていただきます。
応募段階で補助事業者が確定していない場合に限り、管理組合からの提案を受け付けます。ただし、管理組合は、補助事業者になることはできませんので、採択後に補助事業者を確定させる必要があります。
補助対象は、管理水準の低いマンションが管理水準を向上させ、大規模修繕工事等を実施するために必要な調査検討等に要する費用で、選定一案件につき原則年500万円(最大3年)を上限とします。直接経費、賃金、旅費、備品購入費、委託料等が対象です。
ただし、次にあげる経費は補助対象となりません。
管理適正化モデルタイプの評価ポイントについて。
「政策目的に適合した取組であって、合意形成、将来の維持管理、適正管理に向けた工夫および地方公共団体との協力といった、管理適正化の観点で総合的に優れた取組」を『先導的な取組(先導性のある取組)』と定義し、取組全体として先導的であるかどうかを評価する、とあります。
全建センターが提案した「マンション第二多摩川苑」の取り組みは、地方公共団体(川崎市)との協力、課題に対するこれまでの取り組みが評価されました。また、長期修繕計画の策定においては、管理計画認定申請も見据え、今後の大規模修繕工事や耐震改修工事等に応じた修繕積立金の引き上げ時期、引き上げ額、積立方式の検討も併せて行うとしたことから、「将来の適正管理に向けた工夫においても評価した」といただきました。
3)本モデル事業に応募した経緯
では、マンション第二多摩川苑における取り組みを説明します。
管理組合は、令和3年度から川崎市のヒアリングを受け、令和5年度より「要改善マンション」として、川崎市が支援するアウトリーチ型アドバイザー派遣の活用と管理適正化に向けた取り組みを開始しました。
全建センターはアドバイザーとして、建物の状況調査、修繕工事の基本計画、長期修繕計画の策定、大規模修繕等の工事計画資金計画等の検討段階から加わっています。
令和6年1月、川崎市まちづくり局住宅政策部の職員がマンション第二多摩川苑管理組合の理事長に本モデル事業を説明し、募集要項等を渡しました。2月には、管理組合、川崎市、全建センターの3者で本モデル事業の4月申請を目指して、具体的な申請書類の作成等をスタートさせています。
川崎市のアウトリーチ型アドバイザー派遣により全建センターがイニシアチブをとり、長期修繕計画策定に向けた勉強会等を開始。本事業では、劣化状況調査、長期修繕計画の策定、大規模修繕等の工事計画、資金計画等の検討策定を行うこととしました。
本モデル事業申請における留意点
コンサルタントとして、気づいた点、留意するべき点をいくつか説明します。
⑴短期間の事業対応に苦心
2月の終わりに本モデル事業の申請を目指したものの、約1カ月という短期間で必要書類を作成する点に苦心しました。また、提案の受付期間も4月18日~ 24日の1週間という短い期間でした。
⑵間違いやすいミス
本モデル事業では、補助金交付前にコンサルタント契約をしてしまうと、申請はすべて無効になります。
このため、コンサルタントは着手前に管理組合とあらゆる事態を想定し、合意形成を取り付けておく必要がありました。
全建センターでは、理事会、修繕委員会に対し、補助金を申請すること、コンサルタントを入れることを事前に説明し、よく理解をしてもらった上で、合意して事業に取り組みました。
⑶スムーズな申請のためのポイント
国土交通省の出先機関である一般社団法人マンション再生協会と連絡に密を取り合うことがスムーズな申請のための必須ポイントです。
丁寧に書面で質問を投げれば、2、3日以内に回答が得られます。とはいえ、書類の作成は専門性を要するため、コンサルタントを通したやり取りが望ましいといえるでしょう。
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その他、本モデル事業において、質問等がありましたら、全建センターまでご連絡ください。担当者ができるだけ速やかにご返事いたします。
今回、各種補助金を受けるための相談やコンサルタントが必要ということで、全建センターではこのほど補助金相談サービスを開始しました。
詳しいことは、専用のホームページを開設しましたので、お気軽にご利用ください。
大規模修繕工事新聞 178号2024-11

全建センター筆頭理事:足立 亮
・建築基準法設備検査員
・建築仕上診断技術者
・建築設備診断技術者


