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居住者管理の重要性と第三者管理の可能性 フランス首都圏の管理員「ガルディアン」を参考に

 近年、日本のマンション事情では住民の高齢化、ライフスタイルの多様化などによって、管理組合運営に関わることが難しいと いう居住者が増えています。高度経済成長期に構築した集合住宅 による社会システムとかい離していることといえるでしょう。
 そこで『大規模修繕工事新聞』新年号の特別企画として、ここでは関川華氏の著書『パリのガルディアンものがたり』を参考に、 日本よりも以前から経験のあるフランス・パリの都市住宅マネジ メントから知見を得て、居住者管理の重要性と第三者管理の可能性を探ります。


■なぜ、いま、フランスなのか?
 本書の柱となるテーマは「居住者管理の重要性を理解 し、さらにその限界に目を向けて第三者管理の可能性を 探る」とある。
 現在の住宅管理は、居住者参加型管理が第一であると しても、居住者の高齢化や共働き世帯・不在区分所有者の増加等、共同住宅の運営管理の混乱を招き、管理に参 加する居住者と参加できない居住者との間に不公平感を引き起こしている。
 こうしたことから本書では、居住者参加型管理の限界、 その上での第三者管理の可能性に着目している。
 では、なぜフランスなのか?
1. フランス首都圏の区分所有共同住宅では19世紀から ガルディアン(共同住宅の管理員)制度の導入が大 衆化しており、第三者管理が共同住宅管理体制に組 み込まれている。
2. 住宅を都市計画と一体的に着手されており、住宅地、 都市という空間的広がりを考慮した持続性を実現しようとしている。
 以上のことから、共同住宅管理と都市マネジメントを 視野に入れた第三者管理の可能性を探りたい。
■ガルディアンの業務
 ガルディアンは、日本の管理員のイメージと異なり、 共同住宅に住み込みながら相談窓口、建物の見守り役を 担っている。
【労働協約に記載されているガルディアンの業務】
① 一般業務:エレベーターやボイラー室の監視、住棟の雇用職員の調整や統制、外部業者の業務調整など。
② 経営業務:区分所有者、居住者への通知事項の掲示・ 記録・伝言の日常業務、家賃や共益費の徴収など。
③ 共用部分の衛生と維持:共同ゴミ箱の整理、郵便物の 各戸への配布、共用部分の掃除など。
④ 屋外共用部分の衛生と維持:建物が面している歩道の 掃除、共用緑地スペースの維持など。
 さらに選択的に契約業務があり、子どもの預かり、買い物代行などの生活支援業務等によって給与が換算され る仕組みとなっている。
 高齢者の安否確認、居住者の話し相手などの精神的支 援業務は、契約いかんにかかわらず、「当然すべき業務」(金 銭的見返りを求めない)であるとされている。
■管理体制の中のガルディアンの位置づけ
1804年: 共同住宅建設のための法律制定
1938年: 同法律に規約、総会、管理者の設置義務等の管 理ルール整備
1965年: 管理組織を定義(日本の区分所有法にあたる法 律となる)  
1965年法で定められた管理組織は、区分所有者が形成 した組合サンディカ、その組合の構成員の中の数名で構 成される理事会コンセイユサンディカル、第三者として 管理組織に関与する管理者サンディグで構成される。
 法定資格と専門知識を持ち、報酬を得る、プロのサン ディカが選出する場合、共同住宅の規模が小さい等の理 由で経済力のない組合では、サンディカの中からノンプ ロ(無償)のサンディガを選出する場合もある。

<引用図書>
『パリのガルディアンものがたり ~フランス首都圏の共同住宅マネジメント~』
著者/関川 華 発行/西山記念すまい・まちづくり文庫
A4判48ページ・定価1,080円(税・送料込み)
2017年11月7日発売 ISBN-13:978-4909395009
購入希望は西山文庫あてに必要事項を記入し、 メールで申し込む。npo@n-bunko.org

 ただし、この管理組織は建物の資産価値を適切に保持する目的で構築されているため、清掃やゴミの処理の処 理といった日々の労務については法律では定められてい ない。
 そこで有効になるのがガルディアンや管理会社による管理である。特にガルディアンによる管理は、ガルディ アンもまた居住者であり、居住しながら管理業務を行うので、居住者との関わり、近隣のガルディアンとの関わりがあり、地域社会の人的ネットワークの要になっている。
■ガルディアンの資格取得・スキルアップ
・職業適正証書(CAP)
1.資格試験
専門知識:自然科学、経済学、社会学等
一般教養:言語、社会科、理科、体育等
2.実習
掃除等の技能の他に、近隣住民の苦情処理やトラブルの仲裁、新規居住者への対応、入退去時の瑕疵点検の実施訓練等
・ガルディアン向け職業教育
 すでにガルディアンとして働くものを対象に、数日~ 3カ月程度の講習期間を行うスキルアッププログラムを 行う機関がある。ガルディアンの専門性の向上のため、 住宅事業者からの職業教育プログラムの需要は高い。
・ガルディアンの教育事例
 民間区分所有共同住宅のガルディアン向けの教育プロ グラムを提供している機関Eは非営利組織であるが、その 設立には住宅管理会社A、不動産関係の保険や改修の相談を行う会社Bが関わっている。
 不動産に関わる2社がガルディアンの職業を活性化し、プロモートするための戦略として職業教育に重点を置いた。「ガルディアンを置くことが経済的に負担になるので あれば、きちんとした教育を受けたガルディアンを置け ばいい」。
 人件費を単純に無駄な経費と捉えるのではなく、「ガルディアンがいることで、『不動産が管理されている、安全である』という理解につながり不動産価値があがる(資 産価値に反映できる)」という価値観に転換しているのである。
■終わりに
 日本の住宅事情と比べ、地域社会のつながりを補強すること、地域の安全性や居住性、快適性を向上すること にこれまで以上に注力が求められているという点で、フ ランスと日本の地域問題への取り組みの方向性は異なるものではない。
フランスでは、人を常駐させる管理方法を、共用空間の維持管理の窓口と考えるだけではなく、地域のマネジ メント主体を配置することにもなると捉えている。
経済性や効率性に偏重した物理的な維持管理だけでは、 住宅や都市は持続しない。住宅とそれを包含するコミュニティが、持続的な都市居住を実現することを目指しつつ、フランス首都圏の共同住宅マネジメント(ガルディアンを通して住宅を長期間にわたり管理する手法)のように、共同住宅とコミュニティとを持続的・広域的にマネジメントするための管理体制を考え出さなければならない。

大規模修繕工事新聞(109号)