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第76回管理組合オンライン・セミナー採録『マンションAI』の 可能性を深掘りする ~『マンションAI』制作顧問に聞く~

一般社団法人全国建物調査診断センターが提供するサービス『マンションAI』。これをメインテーマに開催した第76回管理組合オンライン・セミナーの要約を採録します。
視聴動画は下記URLよりVimeoとYouTubeで公開しています。
//zenken-center.com/76sm

○テーマ: 『マンションAI』の 可能性を深掘りする
○講師:ニューヨーク大学客員教授・AI研究者・光藤祐基氏(『マンションAI』制作顧問)

1.シンギュラリティは来るのか?
皆さん、シンギュラリティって言葉どこかで聞いたことあるかと思います。
要は、「人工知能AIが人の知能を超える時がやってくる」ということです。
人の知能を超えるとなると、これをユートピアとディストピアという言葉に捉えて、どちらがやってくるのかという議論になります。
今日はディストピアの話はしません。人の知能を超えることによって、どんな恩恵があるのか、どんな嬉しいことがあるのか、ワクワクしながら聞いてもらいたいと思います。

こちらの表は、ハイプ・サイクルといいます。(表-1)
IT分野を中心とした調査・助言を行うアメリカの企業ガートナー社が毎年出しているチャートで、最初に山があって、その後一旦沈んで、そこから小さな山があります。

最初の上り坂というのは、AIだったら、AIという言葉に対して人々がとっても期待する時期、黎明期と呼んでます。
最初の段階は、新製品発表やその他のイベントが報道され、興味が湧いてワクワクしてる。それを過ぎてトップまで頂点まで来ると一番ピークですね。最高潮の時、みんなこの言葉の話ばかりしている(流行期)。
そこから急激に落ちる時期というのがあります(幻滅期)。あれ?意外にAI大したことないな、と。みんな言葉と現実のギャップにちょっと残念になる時期です。
その後またグーッと上がるわけですけど(回復期)、これは実際にその言葉で示される技術が実用化に向けて次第に入りはじめる。それが実際に世の中に使われていく、という段階になります(安定期)。
歴史をひも解くと、AIと呼ばれるもののブームっていうのは実は3回ありました。
最初は1950年です。AIという言葉を最初に世の中の人が意識しはじめた、第一次AIブームです。人工知能をマシンで実現することが目的でしたが、技術的に至らなかった。
なので一回がっかりしたんですけど、1980年代に第二次ブームが来たんです。ただ残念ながら、10年ほどで技術的にまたダメでした。
ところが2010年。第三次AIブームと言われますが、今も続いているAIブームです。二次ブームから研究し続けてきた、トロント大学のヒントン教授の研究成果が三次ブームで花開いたのです。
それでできあがったのが大規模言語モデル。英語でLLMといいますが、皆さんがよく使っているのはチャットです。AIの力によってチャットがあたかも人と話しているかのようにできるようになった。
この大規模言語モデルの到来によってAIは大きく変わりました。


2.ディープシーク・ショック
ディープシーク・ショックとは、中国のとある研究団体が出したモデルの名前がディープシークなのですが、本当に少ないコストでChat GPTを上回るような能力のあるAIを出したのです。それで何がショックかというと、AIを作るための半導体は、実際はそんなに必要なくできちゃうじゃないか、ということなんです。
これによって、アメリカの企業・NVIDIA社の株がガーンと落ちました。
中国は、大量の半導体を使わなくても同じレベルのAIを実現できるような科学力を着実に身につけてきているのです。
もうひとつ。企業間でモデルを公開するか、公開しないかという闘いがあります。
Google社、オープンAI社は基本的にモデルを出しません。
一方、メタ社はモデルをすべて公開しています。公開することによって他の企業や大学、公的研究機関の研究職がそれを使って技術を作り、さらにコミュニティとして活性化させる。そういったことを目的にしています。
ただ、その両者でどっちが上かというと、それはまだ結果が出ていません。
モデルを隠していても、3カ月くらいで追いつかれるんです。なので、オープンだろうが、クローズドだろうが、あまりその差はない。
このアメリカの企業の競争の中に、中国のディープシークがオープン戦略で存在しています。クオリティとしていい線いってます。
ここでわかるのは、モデルオープンにしてもOK。半導体が少なくてもOKということです。


3. メガプロンプトはAIモデルの高度な推論を解き放つカギとなる
「プロンプト」とは、AIに対して、指示や質問を与えるための入力データのことです。今だと、検索するときは短く書きますよね。
ただ、AIを活用して何かを実現するためには、AIにいろんな事前情報を教えたり、長い情報を与える必要があります。
例えば、AIに「ハリポッターになりきって」というときには、ハリポッターのいろんなキャラクターの設定とか全部教えてあげるわけです。そうするとAIがハリポッターになりきれる。
メガプロンプトとは、単一の複雑なタスクを、より小さな複数のステップに分解し、それを連続して処理するように設計された、高度なAIへの指示(プロンプト)の形式です。
最近は、技術の革新によって長い情報(メガプロンプト)をAIに教えることができるようになりました。これによってより優れた思考力、論理力というものがAI側に身についたということです。


4.RAGはリアルタイムで外部データを使用し、エラーを減らし、AIの精度と関連性を高める
(表-2)
さらに大事な最近の技術として、検索を利用したRAG(ラグ)という技術です。AIに直接考えさせて答えを出させるよりも、Googleなどの検索エンジンからリアルタイムで事実を集め、最後にAIがその事実を人の言葉のようにまとめるという仕組みです。
このRAGの技術は多くのAIに入っています。『マンションAI』も、このRAGという技術が非常に重要になってきています。
(表-3)

次がディープリサーチです。これは最近、いろんなAIを立ち上げると、小さく書いてあります。「より深い思考をしてくれるもの」ですが、何をやっているかというと、実はRAGです。
あることを調べてくださいとAIに指示すると、人のコンサルタントのように、これはこっち調べてみようと言って、RAGを使って調べに行く。
さらにコンサルタントが書くようなドキュメント、レポート形式にして出力することもできる技術です。
(表-4)
次がAIエージェント。「エージェント」なので代行して何かやってくれる。AIが「私に任せてください」というものです。
例えばUber Eats(ウーバーイーツ)。あなたは昨日Aを食べました。だからきっと次はBを食べたくなるでしょう。あなたここに住んでるから近い方がいい。最近できた店のBが人気だからそれを頼みます。
そういうことをAIエージェントがやってくれるのです。
エージェンティックAIという言葉もありますが、AIを使いこなして複雑なタスクを達成するもので、先を行ったAIエージェント、より複雑なことをできるAIエージェントということになります。


5.AIコンテンツの保護
日本はこれまで製造業で力をアピールしてきました。これからは日本オリジナルなAIコンテンツを世界に届けていこうというのが、政府の戦略にあります。
特にアニメとタイアップしている音楽ですね。
K-POPは世界に広まっていますが、J-POP、日本の音楽はかなり遅れをとっているので、これをアニメと一緒に世の中に届けようという流れがあります。
実は音楽業界がすごく伸びているのです。
ところが、衝撃のレポートがあります。2025年、実は世の中で聴かれている音楽の18%はAIが作った音楽だというのです。5曲に1曲AIが作った楽曲だなんてちょっと信じられない。
これが2030年になると、80%、90%になっちゃうのでしょうか?
曲が良ければ別にAIでもいいんじゃないかと思う方、いらっしゃるかもしれないですけど、そうはいかないわけですね。
なぜなら、まず人のクリエイターが減ってしまう可能性がある。言ってみれば他の人の資産を利用して新しいものを作っているので、使われてた側の人は何のメリットもないわけです。
つまり、きちんとしたお金のフローを作らないと、たとえ日本がJ-POPを外に輸出しても、それが利用されてしまって、日本には全くお金が入らないような状況になってしまいます。
音楽だけでなく、写真も絵も、たとえばジブリスタイルで画像を生成することができます。スタイルというのは、著作権、法律で守れないものです。
これはもう世の中の状況的にもうどうしようもない。きちんとスタイルも守れるように法改正していこうという動きはヨーロッパを中心に進んでいます。
(写真-1


6.科学発見のためのAI
AIが科学発見にどういった貢献するかということです。
最近のAIは非常に高度な知性を持っているので、最初にお話ししたシンギュラリティ、つまり人の知能を超える特異点を超えるわけですから、今まで人が発見できなかったような発見を一夜にして数千、数万見つける可能性はあるわけです。
シンギュラリティを超えたら、人を超える発見ができるわけですから、これによって何ができるようになるかというのは非常に楽しみです。
2024年、歴史上初めてAIに関する研究が、ノーベル賞を受賞しました。これはAIによる科学発見への期待と実績で受賞したと言われています。
チャットGPTを作っているオープンAI社は、長寿のための研究にAIを活用しはじめました。
この研究がAIを使って加速すれば、もしかしたら人はもう年取らないし、死すら人の進化の過程の中で作られた仕組みという説もありますから、これを取り除く方法というのをAIが発見する可能性があるのです。
シンギュラリティを提唱されたAI研究者のレイ・カーツワイル博士が書いた本に書いてあるのが、Longevity Escape Velocityという言葉です。
Longevityが長寿、Escapeは逃げる、Velocityは速度です。
人は毎年歳をとるわけですけど、その速度を上回って若返りを与えるコンセプトです。自分が年を取るスピードよりも若返るスピードが上回るのでゼロになる。要するに絶対年取らないことをLongevity Escape Velocityと言います。
すごいユートピア的な話です。少なくともAIによって滅ぼされるというシナリオよりもずっとワクワクするシナリオかな、と思います。
将来のAIの期待について、まとめさせていただきました。
(写真-2

用語=『マンションAI』の回答
【Singularity(シンギュラリティ)】
シンギュラリティは、AIやテクノロジーが急速に進化し、人間の知能を超える「特異点」に到達することを指します。この特異点に達すると、AIが自己改善を繰り返し、技術の進化が指数関数的に加速すると考えられています。その結果、社会や経済、日常生活に大きな変化がもたらされると予測されています。
シンギュラリティが到来すれば、病気の治療、貧困の解消、環境問題の解決など、人類にとって多くの恩恵をもたらす可能性があるとされています。
一方で、AIが人間の制御を超えた場合、倫理的問題や安全性の懸念が生じる可能性があると警告されています。
【Utopia(ユートピア)】
ユートピアは、架空の理想的な社会が描かれており、そこでは平等、調和、幸福が実現されています。
【Dystopia(ディストピア)】
ディストピアは、ユートピアの対義語で、暗黒的で悲惨な未来社会を指します。社会的、政治的、技術的な問題が極端に悪化した結果として描かれることが多いです。

 

(表-1)

(表-2)

(表-3)

(表-4)

写真-1

写真-2

『シンギュラリティはより近くー人類がAIと融合するとき』
著/ レイ・カーツワイル 訳/高橋 則明
発行/㈱NHK出版

判型/四六判・448ページ2024/11/25
価格/2,640円(税込)
発売日/2024年11月25日
978-4-14-081980-7

大規模修繕工事新聞 2025-9月 189号