一般社団法人日本マンション学会は4月16日17日、オンライン方式で第30回千葉大会を開催しました。
今大会は学会創立30周年記念行事の一環であり、メインシンポジウムは「学の原点」に立ち返り、これまでの歴史を振り返りつつ今後目指すべきマンション像、その実現に向けて「マンション新時代を展望する」をテーマにしました。
さらに「現状分析から捉える持続可能なマンション居住の展望と課題」「認知症高齢者等の事例と対応マニュアルの指針」「マンションにおける給排水設備改修工事費の傾向」など9つの分科会報告を行いました。ここでは第2分科会「マンションの長寿命化と管理計画認定制度のあり方」の一部を抜粋して紙上採録します。
【趣旨説明】
鈴木克彦氏(日本マンション学会会長)
京都橘大学工学部教授
マンション管理適正化推進計画制度において、認定基準は①管理組合の運営、②管理規約、③管理組合の経理、④長期修繕計画の作成と見直し、⑤その他の5つのカテゴリーにわたっている。基準に満たないマンションは必要に応じて専門家の派遣などを通じて指導・助言の措置をすることになる。
マンションストック活用研究委員会では、特に、持続可能なコミュニティ形成によるマンションの長寿命化に向け、マンションストックのリノベーション手法や震災復興下でのマンション再生、管理運営に関わる図書類の保管問題、専有部分のリフォーム、外国人居住問題と多岐の問題に取り組んできた。
マンション管理の認定制度運用がスタートするのを機に、これまでの研究成果を踏まえて、マンションの長寿命化と管理計画の適正化について幅広く議論する。
過去の管理組合運営の適正化評価方法の提案事例とRC造系マンションの寿命を踏まえての管理計画認定制度への所感
中嶋康夫氏(マンション管理士、建築士、宅地建物取引士)
管理計画認定制度は、「他人任せの管理ではなくて自分たちの財産は自分たちで守る」という、当たり前の管理組合運営の適正化指向につながる良き機会であるため、今回の管理適正化法等の改正の趣旨を正しく区分所有者に告知する使命が専門家らに課せられたともいえる。
すでにマンション学で発表されている管理組合運営の適正度評価チェックリストは、管理の良いマンションには不動産売買時にインセンティブを付与する制度の導入提案である。
今回の法改正を機会に、管理組合運営の適正化の推進策である管理計画認定制度の運用関係のガイドラインが作成され、認定基準等に基づき「自分たちの財産は自分たちで守る」自主的運営に期待しているが、区分所有者らに評価項目等のわかりやすい説明が必要である。
RC造は必ずしも半永久的構造物ではなくて、維持管理の必要性が認識されるようになった。物理的劣化の抑制策が大規模修繕工事であり、極論ではあるが鉄筋をサビさせなければ(適正な維持管理・保全がなされれば)、RC造の寿命は100年・200年以上のオーダーであるがゆえ、孫やひ孫の代以上に引き継げる制度の構築が必要である。
そのためにも「適正な管理組合運営上の知見」「維持保全に必要な資金・財源の確保」が最低限必要な事項である。
管理計画認定制度の執行主体である地方自治体を軸にマンション管理士・建築士・弁護士等の果たす役割は大きく、関連専門団体らと連携した協働活動体制ができてこそ、管理不全マンションの適正化に向けての長期継続が可能になると考えている。
マンション管理の適正化は管理組合・区分所有者だけの努力で実現できるか
折田泰宏氏<弁護士(京都弁護士会)>
管理計画の認定の目的は、マンションの修繕、そのための資金計画、管理組合の運営状況等の適正さについて、認定基準に照らして判定することである。
しかし、認定基準はどうしても客観的指標を求めることになるので、実際の管理が適正かではなく、その基準に該当するか否かが問題となる。例えば、集会の毎年1回以上開催という基準について、白紙の委任状出席で理事長一任でも開催さえすればクリアする。
一方、管理規約や長期修繕計画、修繕積立金については厳しく、管理規約は標準管理規約の最新のものに合わせて改正することが求められる。特別多数決議の大変さを立法者は知っているのだろうか。
まともな長期修繕計画であれば一級建築士に依頼して建物・設備の傷み具合を診断してもらい、そこから中長期の修繕計画を作成する。それなりに費用がかかる作業である。この事業に積極的に費用をかける管理組合がどれだけいるだろうか。
修繕積立金の額については、適正額にあわせるにはかなりの増額が求められる。区分所有者の合意形成が難しいことが目に見える。
マンション管理の適正化を目指す今回の制度により、管理組合の動きだけでなく、業界全体がどのように変わっていくか注目したい。
マンションを持続可能な住まいにするために
大槻博司氏(NPO法人集合住宅維持管理機構・主任専門委員)
20年以上にわたるマンションコンサルタントとしての経験から、適正な管理が困難になる要因は建物の高経年化よりも区分所有者の固定化と高齢化であると考えている。
それまで維持修繕等を繰り返して適正管理を続けてきたが、いわゆる陳腐化によって区分所有者の新陳代謝、すなわち若年世代の入居が見込めない。その結果、高齢者の施設入所、長期入院、あるいは死亡によって空き家が増加し、適正管理が困難になりはじめる。
築20年程度のマンションで、上記の陳腐化によって適正管理の継続を阻害する要因は、すでに顕在化している機械駐車設備や重厚な共用設備が管理費、修繕積立金を圧迫する問題である。
ここでいく流動化とは高齢区分所有者の固定化を回避するために若年世代の入居促進を図ろうということである。建物、設備の適正な維持管理が継続されれば、経年に比例して物理的に老朽化し、建替えに至るということにはならない。
重要なのは管理の担い手であり、区分所有者の新陳代謝を促進するための方策である。 現在の築40年超のマンションにおいては住宅性能を向上させる余地が数多く残されており、それらを向上させることによって空き家と高齢化の抑制につながる可能性がある。今回の管理計画認定基準において、これらの取り組みを評価する仕組みを盛り込むべきだろう。
認定マンションの市場評価が向上するという期待は、このような取り組みによって実現すると考えられる。
大規模修繕工事新聞 149号