「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を上の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。

こんなコンサルタントに要注意

 「内訳書の提出は2週間後まで」
 地方の設計コンサルタント団体の理事長の言葉にびっくりしました。あるマンションの現場説明会で、見積依頼会社に言ったセリフです。首都圏では通常、1カ月程度を見込んでいるものです。しかも見積記載項目一覧などは一切ないということでした。
 さらに他の工事会社の営業マンに聞いたところ、現場説明会は「3日前に言われた」「呼んだ工事会社みんな一緒にさせられた」「2時間と決められていた」など、とても仕事ができる環境でない話ばかりが次々と出てきました。
 私は、住宅環境研究者として参加していたのですが、そばにいた工事会社に思わず尋ねてしまいました。「できるの?」。聞いた工事会社は、黙っていてほしいとばかりに渋顔で退散していきました。

 大規模修繕工事を行う際、建物調査診断の結果をもとに基本設計(必要な工事項目、修繕仕様、費用概算)を決めます。基本設計は設計コンサルタントが作成するもので、図面から部位・仕様・数量を記し、金額抜きの見積内訳書を見積依頼する工事会社に渡すのです。
 工事会社はその金額抜きの見積内訳書に、現地調査で拾った数量と、工事項目ごとの単価・金額を記載し、工事概算費用の見積書として提出します。統一した書式で見積もりが提出されれば、工事会社選定の際の比較が行いやすくなります。
 設計から出される見積記載項目がなければ、比較のしようがありません。
 どうやら設計コンサルタント団体の理事長さんはこの地方のマンション改修業界ではものすごくえらい方のようです。「嫌なら見積参加しなければいい」というスタンスで、工事会社は逆らえない世界が出来上がっているのだろうなと、とても重い気持ちになりました。

 この設計コンサルタント団体のホームページをみると、メディアなどで取り上げられている昨今の不適切コンサルタント問題について、「悪質コンサルの横行」などと管理組合への注意喚起として大きく記載されています。
 不適切コンサルタント問題とは、設計コンサルが工事会社にリベートを要求することで、その分を工事費に上乗せしたり、不必要な工事を行ったりして、管理組合から搾取しているものです。
 こうした問題を前面に押し出すことで、自分たちの団体は「管理組合ファーストである」と言いたいのだと思いますが、工事会社に無理な仕事環境を与えることも、実態は管理組合に損害を与える同様の問題だと、私には思えてなりません。

 まず、見積記載項目を工事会社各社に作成させると、当然項目はバラバラのため、全体工事費の比較ができません。
 見積記載項目がなければ、まじめに細部まで全部拾おうとすれば、全体工事費が大きくなります。工事金額が他社より高くなれば、それだけで外される要因になりますので、まじめに積算する会社ほどバカをみることになります。
 そもそも基本設計も作らないのであれば、設計コンサルとして何の仕事するの?と言いたくなります。バラバラの見積書で何を比べるの?自分の設計もなくどうやって工事監理やるの?と。

 工事会社を見下す、こうした設計コンサルタントも、やはり管理組合にとって不適切コンサルタントなのだと思います。
 では、こうした設計コンサルタントの見分けはどうすればよいのでしょうか。
 工事会社への現場説明会を企画段階から参加してみてください。現場説明会の打診について、3日前の呼びかけで複数の工事会社の担当者がその都合に合わせられると思いますか?私なら通常は1カ月くらいみます。
 工事会社に渡す図面、その他資料も事前に見てみましょう。基本設計は調査診断結果や住民アンケートなども反映されるため、見積記載項目は管理組合もある程度把握することもできます。項目がないなんてことはありません。
 工事会社に良い工事をしてもらうためには事前準備が大切です。仕事がしやすい環境も必要です。そうした観点でみると、今回のような力のバランスが極端なケースは“不自然”だと思えるでしょう。

大規模修繕工事新聞150号