「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を上の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。

規約で親睦図る「コミュニティ費用」を規定 「強制徴収は違法」の訴えも、支払義務認める/山 村 行 弘弁護士

【事案の概要】

原告:区分所有者X 被告:管理組合
 本件マンション管理組合の管理規約には管理組合の親睦を図ることを目的として「コミュニティ費用」の規定があり、管理費とは別に100円/戸を納入するよう定められている。
 コミュニティ費用の使途は、主に本件マンションの区分所有者・居住者(家族を含む)のみが参加できるハロウィンパーティーに充当。ただしパーティーは会費制とし、飲み物等は別途集める会費の中から支出している。
 区分所有者Xは平成30年1月、管理組合に「コミュニティ脱退届」を提出したが、管理組合はこれを受理できないと通知。
また、令和元年6月、弁護士に依頼して脱退届の見解や法的根拠が不明な主張に対して毅然とした対応をとる旨記載した「見解書」を作成、区分所有者等へ配布した。
 これに対し、Xは「コミュニティは区分所有者・居住者は管理組合の構成員と一致しておらず、区分所有法の範囲外」とし、このコミュニティへの「加入・離脱は住民の意思に委ねられるべき」と主張。「有志で行うのは構わないが、望まない者に対してまでコミュニティへの加入を強制し、コミュニティ費用の強制徴収をすることは違法である」と訴えた。
 また、管理組合が依頼した弁護士による「見解書」で、「コミュニティから脱退したいなら専有部分の所有権を手放すほかない」等の不当な内容を摘示していることから、Xに対する名誉毀損等による不法行為に基づく損害賠償50万円を求めた。
 東京地裁はXの請求をいずれも棄却。Xにはコミュニティ費用の支払義務があると認めた。

【区分所有者Xの請求】

1. 本件マンション管理規約に基づくコミュニティ費用1,400円分(平成30年2月から31年3月の不払い分)および平成31年4月分以降の将来にわたるコミュニティ費用の不存在を確認せよ。
2. 管理組合による区分所有者Xへの名誉毀損等の不法行為に基づく損害賠償として50万円を支払え。
3. 令和2年の通常総会第1号議案決議(本件訴訟を含む事業報告、監査報告書)の無効を確認する。

【コメント】

本件の主要な争点は、コミュニティ費支払義務の有無です。
 これについて、裁判所は、まず、本件マンションにおいて区分所有者および賃貸居住者で構成されている団体があるとは認められず、原告が本件マンションの区分所有者となったことで委任契約が成立したとも認められないから、脱退届を提出することによってコミュニティから脱退している旨の原告の主張は採用できないと判断しました。
 つまり、管理組合とは別にコミュニティという団体があり、その団体から脱退するという原告の主張は認められないと判断したのです。__
 次に、裁判所は、コミュニティ費の徴収および支出は、管理組合ができる業務の範囲と管理費を超えており、区分所有法3条に反しており無効であるという原告の主張に対し、コミュニティ費については本件マンションの管理規約に規定されている上、コミュニティ費は主に本件パーティーに支出されているところ、本件パーティーは、居住者間のコミュニティ形成に寄与し、マンションの治安を維持、ひいてはマンションの資産価値低下を防ぐ効果を持つものとして実施されていることをから、コミュニティ費用の徴収は区分所有法3条に反しないと判断しました。
 また、原告は、マンション標準管理規約には、マンション内コミュニティについての規定がない旨を主張しましたが、裁判所は、マンションの標準管理規約は、区分所有者による規約の設定等に当たって参照されるべきモデルないし指針ではあるが、標準管理規約のとおりに規約をつくらなければならないものではなく、標準管理規約の記載から管理組合の目的の範囲の内外が判別されるとはいえないと判断しました。
 ところで、本件と関連する事案として、県営団地の入居者によって構成され、権利能力のない社団である「自治会」の会員による当該自治会を退会する旨の申し入れの有効性が問題となった事案で、当該自治会が、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持管理および共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立されたものであり、いわゆる強制加入団体でもなく、その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないという事情の下においては、いつでも当該自治会に対する一方的意思表示により
退会することができると判断したものがあります(最判平成17.4.26)。
 もっとも、この判例は、あくまで賃貸住宅団地内に設立された「自治会」の自治会費が問題とされたものであり、区分所有建物の管理規約のコミュニティ条項の効力や管理組合がコミュニティ活動をすることについて判示されたものではありません。

大規模修繕工事新聞 153号

◆山村弁護士への相談は…
 〒100−0012
 東京都千代田区日比谷公園1−3 市政会館4階
 ☎03−5510−2121 FAX. 03-5510-2131
 E-mail:yamamura@oylaw.jp

大規模修繕ラジオ(YouTube)