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第60回管理組合オンラインセミナー採録/「給排水管改修工事 高騰の現状」

般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は10月23日にYou Tubeで公開した第60回記念セミナー「給排水管改修工事 高騰の現状」の中から、「マンションの給排水管改修工事とは」「見積書の高い安いと実際の現場が見えにくいもの」「コストダウンの工夫」について採録します。
 なお、これまでのセミナーはYou Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。全建センターのホームページから検索してください。

マンションの給排水管改修工事とは

写真①

 

 まずは共用部給水管の老朽化と劣化状況の実例を見ていただきます。
 写真①は共用部分の排水管にできた穴です。
 一般的に、排水管高圧洗浄を毎年実施していると思いますが、その際、洗浄用のワイヤーが排水の枝管から立管に入る角の部分で、30年~ 40年間の毎年の摩擦によって配管の継手に穴が空いてしまう、という事例が増えてきます。
 築年が30年から40年経ってくると、腐食とは別の、このような原因で漏水が起こることがあるのです。

 

 

 

 


写真②

 写真②は、建物の床下の共用部排水管です。
 建物調査でお伺いしたときに、普段居住者の方が目に触れないような建物の床下まで調査をする場合があります。そのときに居住者のみなさんがお使いになったトイレや台所の排水が1階住戸の床下のピットで知らない間に漏れていることがあります。
 目に触れないところで配管から漏水が起きている例は少なくありません。
 

 

 

 

 


写真③

写真③は、敷地内に埋まった共用部給水管の更新工事をしている模様です。工事中はマンションの敷地の中が道路工事の現場のようになり、その中で作業が進みます。
 マンションでは建物内の給排水管を想定することが多いですが、建物回りの外構にも共用部配管が埋まっています。

 

 

 

 

 


写真④

 写真④は、1階の開放廊下の床下に設置された排水管の改修工事です。
居住者が日常生活の中で普通に歩く共用廊下であっても、配管を取り換える際にはこのような大掛かりな作業をやっているという事例です。

 

 

 

 

 


写真⑤
写真⑥

 写真⑤は、1階住戸の床下の配管工事をしている様子です。昭和40年代に建設されたマンションで、配管を1階住戸下の土の中に全部埋めてしまっているケースがあります。
 そうした場合には1階住戸の床下に人が入れるくらいの穴を開け(写真⑥)、そこから土をかき出し、作業員が入り込み、土を掘り起こして工事をすることが必要になります。
 1階住戸の床下にピットがない場合は、このような業が1住戸あたり約2週間必要になり、当該住戸の生活に支障を来たすことになります。
 日常生活しながらでも床を開口して配管を取り換えていく作業を行わなければなりません。

私たちが建物調査でお伺いしているときに水が噴き出し、緊急的に補修を行ったことがありました。一般の居住者の方がこのような場面に遭遇したらパニックになってしまうのではないかと思います。
 以上のように、マンション設備改修は普段見えないところに配管されていることが多く、劣化や腐食の進行状況がわかりにくいというのが給排水管老朽化の特徴です。


見積書の高い安いと実際の現場が見えにくいもの

 見積書の中では「室内養生費」という項目を立てますが、簡単な養生で済ませる会社、きちっとやる会社とさまざまです。「室内養生費」とあるだけなので、管理組合がヒアリングなどで施工会社と面談する際に、どれくらいのレベルで室内養生してくれるのかということを聞いてみると、その会社の取り組みがわかっていいのではないかと思います。
 専有部分内の工事では、一時的に取り外した室内の機器類を開放廊下に仮置きする作業が伴います。
 室内機器類にもプライバシーがあります。「この住戸はずいぶん古い洗濯機を使っているなあ」と思われるのも嫌なので、あて布団で包むなどの最低限の配慮をします。この辺も見積金額には表れない部分といえます。
 古いマンションだと、写真のように開放廊下に面した手すりが、アルミで囲むようにずっとできているところがあります。
 専有部分の給排水管改修工事では、何かと細かい部材を使用することがあります。また、開放廊下での段取り作業も多いため、手元が滑り、誤って開放廊下のアルミ手すりの隙間から部材等を落下しないような配慮を行います。
 事故の原因にもなるため、「絶対に下に落とさない」くらいの養生を行う会社もありますが、開放廊下手すり養生費などという項目はありませんから、見積書ではわからない内容になります。
 下の階で共用部配管を切断して、上の階は生活しているという作業環境もあります。切断中の排水立て管で上階から排水されても受け止める仕組みを作ることもあります。この辺も工事会社によって大きく異なりますが、見積もりに反映されないので、評価しにくい項目となります。
 その他、トイレの汚水管、台所の雑排水管を配管する際にも配慮は欠かせません。
 新築の場合は、きれいなコンクリートの床に新しい壁、新しい管材で職人は工事を行います。まったく汚いというものがありませんが、改修工事の場合は、排水が漏れている状態で施工しなければいけないという難しさがあります。
 使ったばかりの、漏れている管材を切断して運んだりしますけれど、配管の中に汚れ・スケールがこびりついているわけですから、運ぶ際も汚泥が漏れないようにガムテープできちっと養生してから運ばないと、職人が歩く通路すべてに汚水がついてしまうことになりかねません。
 そんなことにならないよう、配慮をすることが改修工事の難しさです。このような古い配管を扱うスキルは見積書の中に入っていません。

 

 

 


コストダウンの工夫

工事もやり方によっては工事費を下げることが可能になります。

■分流から合流方式へ
 室内にあるパイプスペースに、雑排水管と汚水管2本
あった汚水・雑排水分流方式を、排水用特殊継手を使って2本を1本にまとめる雑排水合流方式に変更します。
 こうすると2本分の材料費、2本分の工事費をまとめて1本分に合理化するようなコストダウンの工夫があります。
 専有部分の工事では床をはつる工事で、コンクリートを砕く音など、どうしても騒音が発生します。
 そうした騒音をなくしていこうと、近年、油圧ジャッキの活用による室内での既存配管撤去方法『油圧ジャッキによる引き抜き工法』が確立されました。
 配管を抜いた後にはきれいな穴が残ります。ここに新しい配管を入れていくことで、室内養生時間や既存管撤去時間、入室作業時間が短縮され、居住者の負担も軽減できるようになりました。
 壁点検口方式により内装工事費用を削減することもできます。
 給排水管は、壁の中に配管されています。このため、工事の都度壊して復旧するとコストがかかってしまうので、多少見た目は劣りますが、点検口を作って、作業することによって作業量を減らすことができます。
 内装仕上げ材の変更により、施工性が良くなり、労務費の削減されることにつながります。
 これまで壁と同じクロスが張ってあったものを元通りに復旧するとその分の費用がかかります。そこで、配管されているパイプスペースの柱の部分だけクロスを貼るのをやめる(内装仕上げ材を変更する)ことで、材料費と作業費を削りました。
 見た目が変わりますが、室内の入室工事費を下げるにはいい方法ではないかと思います。
 工事費のコストダウンには、管理組合の要望などを聞いてアイデアを出せる会社の技量が必要といえます。工事会社との面談で話を聞くことで、望む工事に近づいていくと考えられます。

 

 見積金額だけで決めるのではく、コミュニケーションを元に工事会社の選定を行うことをおすすめします。

大規模修繕工事新聞 22-12-1566号