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マンションの劣化と調査・診断の基本①

マンションの経年劣化にはどのような種類があり、どのように判断されるのでしょうか。
 多くのマンションでは、大規模修繕工事を実施する前に劣化調査・診断を実施します。そして、この調査・診断の報告書によりマンションの劣化を理解し、大規模修繕工事の修繕基本計画を立て、工事内容や仕様を決めていきます。
 調査・診断報告書について、少しでも事前に情報があり、予習ができていれば、より理解が進むのではないでしょうか。
 マンションの劣化と調査・診断の基本についてシリーズ化し、掲載します。

●調査・診断の留意点
予備調査・診断
 まず予備調査・診断として設計図書、過去の調査・診断記録、修繕履歴の確認、さらに住民アンケートなどを行います。その上で調査・診断計画書を作成します。
 住民アンケートにより、室内側から外壁や屋上等の不具合や劣化を探り、バルコニー等専用使用部分の不具合個所の割合を把握することもできます。
 アンケートは区分所有者に建物や設備をみてもらうことで維持保全に関心を高める効果が期待できます。また、この段階で緊急な対応が必要になる場合もあります。
本調査・診断
 一般的には管理組合の経済性を考慮し、簡便な調査・診断(一次診断)からはじめ、それで判断がつかない場合には二次診断、三次診断へとステップアップします。
 一次診断は主に目視、指触、打診等の方法で行います。
二次診断では材質や形状、寸法に変化を与えずにその健全性を調べる非破壊試験を用います。
 三次診断で行われる局部破壊試験には、鉄筋のはつり出し、コンクリートのコア抜き試験、配管の抜管試験などがあります。
 本調査の結果は、調査・診断報告書にまとめ、長期修繕工事計画等に反映させます。そして修繕の必要性があると判断された場合は、本調査の結果をもとに修繕基本計画を作成します。
●劣化現象
その1<ひび割れ>

①鉄筋腐食
 鉄筋のサビの進行に沿って配筋の位置と思われる個所(鉄筋沿い)に発生します。梁(はり)の補強筋に沿って発生している場合は、コンクリートのかぶり厚さ不足が原因で鉄筋腐食が進行していると推測されます。

 

 

 

 

②乾燥収縮
 コンクリートの乾燥収縮は、乾燥によりコンクリート中の水分が蒸発することでコンクリートの体積が小さくなり収縮する現象です。
 一般的にセメント・水・空気を混ぜた「セメントペースト」に、砂(細骨材)を加えて「モルタル」、さらに砂利(粗骨材)を加えて「コンクリート」になります。また、必要に応じて混和材料を混ぜます。水の量が多いと乾燥収縮の度合いも大きく、強度も落ちます。
 また、セメントと骨材は水より重いため、時間が経つと水が上昇し、ひび割れが起こりやすくなります。これを「ブリージング」といいます。

 

③アルカリ骨材反応
 骨材の周囲にあるアルカリ分と骨材中の物質が反応し、膨張します。そうするとコンクリート表面に亀甲状のひび割れが生じます。
また、このアルカリ骨材反応が原因で、部分的な膨張圧によってコンクリート表面が円錐形のくぼみ状となる骨材のポップアウト現象が発生します。

●調査・診断・修繕方法
 ひび割れは鉄筋のサビの進行、コンクリートの乾燥収縮、温度変化、水分の凍結と融解の繰り返し等により、開口部の四隅、コンクリート打継部などにさまざまな形状で発生します。
 ひび割れ幅はルーペやクラックスケール等で計測し、劣化度合を判断します。
 ひび割れ幅が0.2mm未満の微細なひび割れであれば、フィラー材や可とう性エポキシ樹脂を擦り込み・塗布するシール工法等で補修。0.2mm ~ 1.0mmであればUカットシーリング材充填工法、自動式低圧樹脂(エポキシ)注入工法を採用するなど、補修工法選択に反映されます。
 可とう性エポキシ樹脂やシーリング材は、ひび割れの挙動に追従できる性質によって用いられます。また、0.3mm未満であってもコンクリート内部に雨水等が入り、漏水や鉄筋腐食の原因となることもあるため、そこで診断の精度が問われます。

大規模修繕工事新聞160号