法制審議会区分所有法制部会は6月8日、第9回会議において「区分所有法制の改正に関する中間試案」を取りまとめました。これを受けて法務省民事局参事官室では、この中間試案を公表。7月3日から9月3日まで、パブリックコメントを募集しています。区分所有法制の改正に関する法案は令和6年の通常国会に提出する方針です。ここでは、中間試案公表前の4月23日、日本マンション学会京都大会で行われた「区分所有法制改正等に関する意見交換会」から、法務省大臣官房参事官・大谷太氏(当時)の発言を抜粋し、まとめました。なお、大谷参事官は7月14日付で異動しています。
大規模修繕工事新聞8月号(23-08)
区分所有法・被災マンション法等の改正について
マンションに関係する今の状況は、高経年区分所有建物のますます増加と、区分所有者の高齢化といった、2つの老いと言われています。
これらを背景として、相続などを契機として、区分所有者の不明化、非居住化が進行しています。
今回の区分所有法制の見直しは、区分所有建物の管理の円滑化、再生の円滑化、そして被災建物の再生の円滑化という3つの観点から見直していくことが喫緊の課題であろうと議論がされています。
集会の決議を円滑化するための仕組み
区分所有法は集会で意思決定を行い、賛成を積み上げないと決議が成立しないという仕組みになっています。
今の仕組みでは賛否が不明、関心がないという人はみんな反対と同じになってしまいます。このため、所有者の不明化、非居住化が進んでいくと、ますます決議が成立しにくくなることが見込まれます。
代理行使でも署名行使でもいいからきちんと出席して、投票する人の中の多数決で物事(変更行為や規約改正など)を決めていくことにしようかと議論しています。
所在等不明区分所有者を決議で母数から除外するとした上で、物事を決められるようにしようと議論が進んでいるのです。区分所有権の処分を伴う建替え決議も対象です。
財産管理制度
財産管理制度とは、裁判所が管理人を選任して、財産を管理する仕組みです。
現在は、専有部分の所有者が所在不明になり、区分所有建物の管理状態がどんどん悪くなっていくことに、気をこまねくしかない状態です。またその区分所有建物の専有部分を欲しい、買いたいという人がいたとしても、その専有部分の所有者が所在不明だと、ストックとしては「死蔵」されてしまいます。
現在、不在者財産管理制度というものがありますが、民法では不在者が持っている財産全部を管理しなければいけません。当該専有部分だけを管理するという仕組みになっていないのです。
管理不全の専有部分、管理不全の共用部分を管理人の方で管理する。せめて保存行為ぐらいできるようにするというのが、財産管理制度であります。
民法で所有者不明の土地とか建物に特化した財産管理制度ができたので、それを下敷きにしていくものです。
共用部分の変更決議の円滑化
共用部分の変更について、出席者の多数決議を可能とするということで、事実上の要件緩和をしてはどうかという考え方もあるし、4分の3という決議要件そのものを引き下げて3分の2にしてはどうかという意見もあります。
共用部分の玄関に車が突っ込んだなど、共用部分に損害賠償請求権が発生した場合、今は区分所有者皆さんがそれぞれ頭割りして請求権を持つという仕組みです。管理者・理事長の代表権が事実上使えない裁判例も出てまして、それでは困るということで、その行使の円滑化をさせようという案です。
だから所有者は相互にきちんと管理する義務があるという、区分所有者の責務についても議論されています。
管理事務の合理化
配管の全面更新をするときに、専有部分に入って専有部分の配管交換を行う場合、その専有部分の所有者の同意がないとできません。このため、規約で定めておくなどして、個々の区分所有者の同意がなくても法的にはできるようにしてはどうか。
事務のデジタル化も含め、専有部分の管理をもう少し円滑化できないかという観点から考えられています。
建替えの円滑化
建替えの決議要件5分の4が厳しいので、単純に5分の4を4分の3に下げるという案と、建築完了時から50年、60年、70年経過など時間的な要件がある場合、あるいは耐震性不足や老朽化により周辺に危害を生じるおそれがある場合など、多数決割合を5分の4から4分の3にする、あるいは単純に4分の3に引き下げておいて一定の客観的要件を満たしたときには3分の2まで引き下げてもいいんじゃないか、こういった議論がされています。
また、建替え決議がされても、個々の専有部分についている賃借権は消えません。賃借人が絶対出ていきたくないと言えば、事実上建替えができないということになります。 一定手続を経て賃借権を消滅させる、一定期間が経ったら出ていただくという形にするという考え方があります。
区分所有関係の解消
建替え円滑化法も被災区分所有法も、多数決によって建物と敷地を一括して売却する、建物を取り壊すという仕組みができているので、区分所有法でも決議で売却ができる、取り壊しができることにしてはどうか、と取り組んでいます。
一棟リノベーション工事
専有部分の全てを更新する、スケルトンにしてかつ共用部分の工事もする、現行法ではこれは全員同意が必要なんです。建替えではないので、専有部分の全ての工事をするので全員同意が必要となります。
建替えより負担は少ないはずなのに、より要件が厳しいというのはアンバランスということで、一棟リノベーション工事を多数決でできる仕組みはどうかと思います。
被災区分所有法の再生の円滑化
被災建物の場合、被災地の迅速な復興がどうしても必要になってくることから、再生決議はできるだけ迅速にしたほうがよいという議論が多くされています。
区分所有建物の一部が滅失(大規模滅失)した場合、災害の政令施行日から起算して1年までに集会を開くことができます。再建、敷地売却、取壊しの意思決定を5分の4の決議で取ろうとしても、被災生活の中では混乱しています。
この混乱の中で1年は厳しい。これら集会の決議を3年とすることができるかというところで議論が行われています。
そのほか、団地の建替えに関しても、区分所有法では複雑な制度なため、議決要件の緩和の検討がされているところです。
大規模修繕工事新聞8月号(23-08)