「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を上の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。

管理業者管理者方式(前編) /第68回管理組合オンラインセミナー採録

一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は、“管理業者管理者方式”をテーマに、4月28日からVimeoで公開している第68回セミナーの【前編】として、内容を抜粋して掲載します。
詳しくはVimeoによる動画配信を視聴してください。全建センターのホームページから閲覧することができます。

 

 

 

 


佐藤成幸・筆頭理事:本日は第三者管理者方式” をテーマとして議論を行いたいと思います。 国土交通省において昨年来ワーキンググループが設置され、管理業者が管理組合の管理者になるパターンの「第三者管理者」に関する検討が行われ、去る3月26日の第5回ワーキンググループにおいて「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン(案)」が公表されました。
 今後正式なガイドラインが「新ガイドライン」として公表され、実際の運用が始まるまでは一定の時間が必要となりますが、まずは大きな方向性が示されたタイミングとなっています。
 本セミナーでは、全建センターの協力弁護士を交え、新しいガイドライン案の概要や注意すべきポイントなどを重点的に解説し、管理組合の皆様が管理業者管理者方式とどのように向き合うべきなのか、そしてそこに弁護士という専門家をどのように活用すべきなのかといったことへの提案まで発信していければと思います。

 


東妻陽一弁護士:まず、この問題の出発点として「管理者」の概念を理解していただく必要があります。「管理者」とは区分所有法や標準管理規約に定めがある言葉ですが、簡単に言うと、管理組合を代表し、業務を統括する権限を有する者であり、標準管理規約においては理事長が管理者であるとされています。
 そして、業務執行を担う「管理者」としての地位や権限を組合員ではない「第三者/外部の者」に委ねることを「第三者管理者」と表現しています。
 現在、議論の中心となっているのは、管理業者(管理会社)が「管理者」となり、管理組合の組合員による理事会を廃止するタイプです。管理業者が管理者となるタイプのことを国交省では「管理業者管理者方式」と称する予定とのことです。
 この「管理業者管理者方式」が広がりつつある実情について説明します。
 近時は新築マンションに「管理業者管理者方式」を積極的に採用するデベロッパーがありますが、既存マンションにおいても、マンション管理の複雑化・高度化、理事の担い手不足の問題に加え、「時間をお金で買う(忙しくて管理に手が回らないから他人にやってもらう)」、「責任は負いたくないけどモノは言いたい」という組合員の意識の変化も背景にしていると考えられます。
 そうしたニーズには、お金を払って全部プロにお任せすれば非常に楽ちんだし、管理の問題に時間を奪われずに済むというメリットが確かにあるわけです。
佐藤:ただ、他人に任せるということには大きな落とし穴が待っていると考えておかなければなりませんね。
東妻:イメージを持っていただくための例えとして引き合いに出させていただくのですが、最近の、大谷翔平選手が信頼していた方からの裏切りにあって巨額の財産的被害を被ったというニュースに皆さんも驚かれたと思いますが、大谷選手の身に起こったことが皆さんのマンションにも起こらないとは限らないんだ、ということを申し上げたいと思います。他人にお金の管理や重要な問題を任せきりにしていると思わぬ落とし穴があるかもしれないと問題提起させていただきます。
 近時、管理業者管理者方式が増加しつつあるということで、こうした実情に対応するために国交省にワーキンググループが設置され、管理業者管理者方式を念頭に置いた新ガイドライン案が検討されるに至ったというのが背景事情です。
佐藤:現在理事会を設置している既存マンションが管理業者管理方式を導入するというケースを前提に、新ガイドライン案について、重要ポイントの解説をお願いします。
東妻:新ガイドラインのポイントを一言でいうと、管理業者管理者の独断専横行為、利益相反等がないかを監視し、いかに歯止めをかけるかという点になります。

①管理業者管理者方式を導入するまでの手続き
現体制の理事会が主体となって区分所有者等への説明会等を行い、情報共有、組合員の意向把握に努め、メリット・デメリットについて十分検討することです。
管理者業務を担う管理業者との協議ももちろん重要です。また、従前からの管理業者に管理者を委ねる場合、従前の管理委託契約書とは別に管理者としての委託契約書は別途作成する必要があります。

②管理者の権限や業務内容
 管理業者が管理者になると、修繕等を自身と利害関係のある業者に依頼してしまうことが考えられます。とりわけ、管理業者が事業者(施工主)の系列会社の場合には、瑕疵があっても見逃される恐れがあるので注意が必要です。
 また、管理規約に管理者として個別の業者名を記載してしまうと、管理者を変更するのに、特別決議が必要となってしまいます。個社名の記載は避けるようにしましょう。
 管理者の任期は原則1年程度として、定期総会において、管理者の選任を継続するか、不再任とするか、組合員が意思決定できるようにしておきましょう。
 標準管理規約において総会決議事項と理事会決議事項を管理者が単独で決定できるとするかどうかは慎重に判断ください。
 組合員による総会招集権の定数を緩和するなどし、総会招集が困難になるような事態を避けるようにしましょう。
 その他に、組合員の意思を反映するための機関を設置する、アンケート調査、意見箱、相談窓口などを充実させましょう。

③管理者が地位を離れるプロセス
 管理者が地位を離れる場合とは、管理業者が管理者を辞任する、総会で再任決議が否決される、解任が成立する、訴訟上の解任請求が認められる場合の4つのパターンで、外部管理者/管理業者管理者方式を維持するのか、理事会方式に変更するのか、管理者を他の誰かが務めるのかを臨時総会で決定する必要があります。
 新管理者が選任されるまでは旧管理者に業務を続けてもらう必要があります。
 管理者が解任された場合は旧管理者が引き続き務めるということは不適切ですので、暫定的でも管理者業務を務める人を据え置く必要があります。監事は新体制移行のための準備でも積極的に動く必要があります。

④適正な業務遂行の確保等
 この④が新ガイドラインの中でも最も中心となるポイントと言えます。
〇管理者への議決権の非付与
 総会に出席できない場合の議決権行使は、議決権行使書によることが望ましいです。
 出席できない場合に委任状ということで議長に一任する形にしてしまうと、管理業者へ全部お任せになってしまいます。
 議決権行使書を用いて、組合員の意思を明示してください。
〇利益相反取引等の防止
 管理事務の委託や工事の発注等は、事業者の選定に係る意思決定の透明性を確保し、区分所有者から信頼されるような発注ルールを整備しましょう。
 管理業者管理者のグループ会社(管理者の親会社、子会社、関連会社、管理者を関連会社とする他社等が、例えば、修繕工事を受けようとした場合、利益相反取引となるので、慎重に進めていただきたいということです。
〇利益相反取引等の制限
 自己取引や利益相反取引は民法の定めで、本人(区分所有者)の許諾(総会決議または規約の定め)がない場合はそもそも無効になります。
 万が一にも管理業者管理者が管理組合の承諾なく自己取引や利益相反取引を行った場合には、管理組合としてはそのような取引は無効だと争うことになります。
 利益相反取引等の承諾に際して、どのような事項が開示されるべきかという点については、取引の相手方、目的物、数量、価格、取引期間、取引によって得られる利益等があげられます。
 利益相反取引の妥当性を事後的に審査する決算承認も重要です。
〇大規模修繕工事の発注先選定等の透明性
 管理者が大規模修繕工事の検討の主体となる場合には、管理者による利益誘導が可能となります。
 グループ会社に発注する恐れがあるので、原則として管理者は関与させないという方針をとります。
 このため、修繕委員会を主体として検討することが望ましいとされます。修繕委員会は複数の組合員で構成し、組合員が公平に修繕委員に立候補する機会を設けましょう。
 大規模修繕工事の実施には、総会の承認が必要となりますが、管理業者管理者は修繕委員会の検討結果に基づき、最終的な検討結果に変更を加えることなく、そのままの形で議案を提出しなければなりません。
〇リベート等の収受禁止
 管理者が管理組合から支払われる報酬以外に、管理組合の取引先業者等からリベートやマージンを収受しないことを管理者業務委託契約書の中で明記してはっきりと約束させる必要があります。約束違反の場合は、損害賠償や違約金の請求、契約解除の事由となることなども含めて、あらかじめ明確にしておきましょう。
〇管理者に対する監視・チェック体制
 管理者の業務執行状況等を監視する重要な機関として監事を設置すべきであり、監事は管理者による指名ではなく総会決議によって選任すべきです。管理業者の従業員でないなど、監事候補者が独立した立場にあるかチェックが必要です。
 監事は、管理者の職務執行状況や財産の状況を監査し、法令違反・規約違反がある場合は適切な措置を取ることが期待されています。
 理事会があれば理事のメンバーがこのような役割を担いますが、理事会がない以上は監事に職責が集中することになります。
 監事しかもその職務は難易度が高くなります。そのため、監事は複数選任し、このうちの1人を外部専門家とすることが望まれます。
〇区分所有者名簿へアクセス確保
 組合員による総会の招集権を実際に行使するためには、組合員の情報がなければ行動を起こしづらいので、組合員が区分所有者名簿へアクセスしやすいようにする、管理者がそれを妨害しないようにするといった手立てが必要となります。
〇金銭事故事件の防止
 財産の分別管理の徹底、通帳・印鑑等の保管体制の確保が重要です。管理組合財産の預金口座の印鑑等は監事が保管することが望ましいですし、修繕積立金などは現金化が困難な方式(「マンションすまい・る債」などの活用)を検討ください。
⑤管理者業務委託契約書
 先ほど、管理業務委託契約書と管理者業務委託契約書を区別して締結くださいと申し上げましたが、管理者業務委託契約書の雛形が新ガイドライン案にも掲載されています。これまで説明した「監事」、「リベート収受の禁止」など、実際の記載例がありますので、ぜひこちらを用いていただくのがよいと考えます。
 最後に、以上ご説明した内容は、あくまでも現時点で公表されている新ガイドライン案を元にしたものです。今後公表されるであろう「新ガイドライン」の内容にご留意ください。

< 次号では、代表的なパブリックコメント例の紹介、外部監査や専門家の活用法などを掲載する予定です>

 

大規模修繕工事新聞 173号2024-05