【本判例の関係者】
本件マンション: 複合用途型マンションであり、1~3階が事務所用、4階以上が居住用。
上告人:本件マンションの区分所有者の一人であるX
被上告人: 本件マンションの区分所有者の一人であり、事務所の区分所有者Y
【事案の概要】
Yは、平成9年5月25日、携帯電話会社との間で、携帯電話基地局を設置する目的で、Yの専有部分と本件マンションの共用部分である塔屋および外壁等を賃貸する契約を締結。アンテナを制御するための機器等はYの専有部分に、アンテナの支柱・ケーブルの配管部分等は共用部分にそれぞれ設置された。本件賃貸借契約の賃料は月額28万2000円であるところ、共用部分の使用の対価に相当する部分は月額12万2000円であった。
本件マンションの管理規約には、「共用部分であるバルコニーについては、各バルコニーに接する建物部分の区分所有者に無償で専用させることができる」「塔屋、外壁及びパイプシャフトの一部については、事務所所有の区分所有者に対し、事務所用冷却塔および店舗・事務所用袖看板等の設置のため、区分所有者に無償で使用させることができる」旨の定めがある。
Xが、本件賃貸借契約により賃料収入を得たYに対し、平成9年6月から平成21年12月までの自己の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得(56万8,042円)の返還を求めた事案。
【最高裁の判断】
結論: Xの上告を棄却(Xの不当利得返還請求は認められなかった)
理由:
・ 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権について、原則として各区分所有者が自己に帰属する請求権を個別に行使することができる。
・ 区分所有建物については区分所有者の団体が存在し、共用部分の管理が団体的規制に服していること、本件請求が共用部分の管理と密接に関連することなどから、区分所有者の団体のみが本件請求権を行使することができる旨を集会で決議し、または規約で定めることができ、この場合には、区分所有者は、自己に帰属する本件請求権を行使することができない。
・ 管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の本件マンションの管理規約中の定めは、区分保有者の団体のみが本件請求権を行使することができる旨を含むものと解して、Xは本件請求権を行使することができない。
【コメント】
今回取り上げました最高裁判例は、非常に難解な内容を含みますが、マンション関連の判例では比較的著名で、多数の判例評釈や文献でも取り上げられています。そのため、ここでは判例評釈ではあまり言及されていない基本的な点について述べたいと思います。
そもそも、「権利」というものは、①「帰属」「保持」の問題と、②「行使」の問題の2段構えで考える必要があります。 マンション判例からは離れますが、例えば、憲法9条との関係で、「戦力(自衛力)」を「保持」できるのか、「保持」できるとして「行使」できるのかという議論があります。
また、民法を学んだ人であれば誰しもが耳にしたことがある「宇奈月温泉事件」も参考となります。この判例(大審院)では、「所有権」を有する者による「所有権に基づく妨害排除請求権」の「行使」が権利濫用にあたり許されないとされました。
この理解を前提としつつ、本判例では、法的には不当利得返還請求権が区分所有者個人に帰属すると考えられるとしても、個別行使を規制する集会決議や規約が存在する場合には、個々の区分所有者による個別行使は認められず、区分所有者の団体(管理組合または管理者)のみが本件債権を行使できると判示されました。
当判例の理由付けや結論に対しては、「なぜ本件請求権の行使が管理組合ないし管理者に限定されるのかについては、不可解であり筆者の理解を超える」(鎌野邦樹他/マンション法の判例解説63頁)との辛辣な評釈もあるところですが、いずれにしても、「管理組合としては、共用部分等の使用ないし占有のあり方に関して規約に明確に定めておき、また、現実に問題が生じた場合には直ちにその具体的な措置につき集会決議を通じて団体的に対応する」(同上)ことが好ましいとの教訓を導くことができるものと思われます。
大規模修繕工事新聞179月号(24-11)