
このままじゃ建物の瑕疵は直せない!~区分所有法26条改正の行方~
◆改正26条の問題
区分所有法および区分所有法に関連する改正が5月23日に国会で成立し、同月30日に公布された。来年4月1日に施行される予定である。
この区分所有法改正につき、本国会の審議で最もおおく時間を費やしたのが26条(権限)の改正案である。
何が問題なのか。
簡単に言うと、新築でも大規模修繕工事でも、施工ミスがあって、その損害賠償を施工会社に請求する場合、その当時に区分所有者だった人(旧区分所有者)に損害賠償の請求権があり、売買で新しく区分所有者になった人(現在の区分所有者)には請求権が移転しない、ということにある。
つまり、施工会社から施工ミスで生じた損害金を裁判で勝ち取ることができたとしても、損害金100%が管理組合に入るわけでなく、旧区分所有者にも割り当てられるということになるのだ。
すでに売却して引っ越した人が請求権を移してもらわなければ、管理組合として施工ミスの補修を進めることができない。
仮に大規模修繕工事で外壁補修にミスがあり、タイルが落下するなど、それが通行人等にケガを与える危険があったとしても、改正26条のハードルにより、外壁の補修が進まず、危険マンションの状態が続くことになりかねないのだ。
◆改正26条の内容
26条2項で「管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する」と規定した。これは損害賠償請求訴訟において、管理者に原告適格がないとした東京地裁平成28年7月29日判決の不都合性を回避するためである。
ただし、請求権を有する者は「区分所有者または区分所有者であった者」とされ、「旧区分所有者」も対象とした。
さらに、この請求権を有する者は「別段の意思表示をした区分所有者であった者を除く」ともある。つまり、旧区分所有者が管理者に委任せず、「自分は自分で請求権を行使する」と別の意思表示をすれば、施工会社に対する損害賠償金の一元請求が管理組合として不可能となる。
次に5項では、「管理者が原告または被告となったとき、保険金等の請求権を有する者にその旨を通知しなければならない」と定めた。旧区分所有者の現住所を調べて、わざわざ賠償金が入る可能性があると通知しなければならないわけである。
旧区分所有者は、すでにマンションに住んでいないのだから、前述したように別の意思表示をする可能性は小さくない。ますます施工ミスの補修の実現は困難を極める。
◆改正26条の前提
なぜこのような法改正が通るのだろうか。
法律学者によると、その理由は、基本的に「共用部分等について生じた損害賠償請求権」は金銭債権(可分債権)だから、区分所有者に帰属(分属)しているという前提だ。
しかし、その理屈は、専有部分と共用部分の分離禁止の原則(15条=共用部分の持分の分離処分の禁止)に反する。
共用部分の持分は、専有部分の処分に従い、専有部分と分離処分できないとされている。そうあれば、共用部分等について生じた損害賠償請求権は専有部分の売却に追従すると考えるのが一般人の理解だろう。
また、法改正に賛成している議員ら(特に弁護士出身の自民党の国会議員)からは、「欠陥住宅に住まわされ、売却する際に安く売らざるを得なかった旧区分所有者にも損害がある」と、旧区分所有者の財産権を主張する意見も上がっていた。
共用部分等に生じた損害賠償請求について、売却して、今やマンションと無関係になった人の財産権?を優先し、危険な状態のマンションの補修は後回しということだろうか。
施工ミスが判明する前の売却であれば市場価格には反映されていなかっただろうし、判明後に市場価格が下がっていれば、不当利得による救済も可能だが、一方で新区分所有者に旧区分所有者に対する売買契約不適合責任に基づく損害賠償請求権が生じることも忘れてはならない。
◆当然承継の必要性の訴え
こうした26条の改正案に対し、欠陥住宅被害全国連絡協議会(欠陥住宅全国ネット)、全国マンション管理組合連合会(全管連)では、参議院会館で集会を開き、共用部分の100%補修の実現として、区分所有権の移転と同時に損害賠償請求権も新区分所有者に当然に移転(当然承継)する法改正を求めてきた。
区分所有法の根本的な考え方 「区分所有権」=専有部分を所有する権利(法2 条1 項) 各区分所有者の共用部分に対する共有持分は、区分所有権に含まれない。 ①共用部分の持分は、専有部分の処分に従う(法15 条1 項:随伴性) ②共用部分の持分は、専有部分と分離して処分できない(法15 条2 項:分離処分の禁止) ③区分所有者は、共有物の分割を請求することはできない(法12 条:分割請求の禁止) |
以上の点から、区分所有権を売って出ていった人が、共用部分の損害賠償請求権を持ち続けられるなどという考え方は、共用部分の共有持分を分離して持ち出すことと同じこととなり、区分所有法の根本原則に反する。
区分所有権が転売されれば、損害賠償請求権も当然に一緒に移っていくこと(当然承継)になるはずである。
欠陥住宅被害全国ネットおよび全管連では、この「当然承継」があるべきだと訴えている。
◆「共用部分損害賠償請求権」の今後
欠陥住宅被害全国ネットおよび全管連の主張は反映されず、法改正は成立した。
とはいえ、問題は残るとして、国土交通省では、共用部分の損害賠償金の使途について、あらかじめ修繕積立金に組み込むなどの条文を設けるよう標準管理規約を見直す検討会を開始した。
しかし、実際に管理組合が施工会社相手に施工ミスによる損害賠償請求訴訟を起こした場合、管理規約でどこまで一元請求を担保できるか不明である。
管理規約は個々のマンションの決まり事である。区分所有法で旧区分所有者への対応が求められている以上、管理規約改正では不合理といわざるを得ない。
100%補修の実現ができなければ、現在の区分所有者全員の財産権の侵害であり、また近隣住民などの生命、身体を侵害する恐れも解消されない。
このままでは、欠陥マンションは永久に直せないのではないだろうか。
法律家は「所有権は移転登記で主張できるが、請求権は人に付いていく」という。一般人の私たちにはよく理解ができない説明である。一方、請求権の「当然承継」はいたってわかりやすい。いったい法律とはだれのためにあるのだろうか。
<全建センター・大規模修繕工事新聞論説委員会>
大規模修繕工事新聞 187号(2025-07)