マンション管理組合が修繕積立金を「個人向け国債」で運用できる道が、2026年12月に開かれる見通しだ。財務省が「個人向け国債プラス」として販売対象を非営利法人等に広げる方針を固め、マンション管理組合もその対象に含まれる予定だ。工事費の高騰と物価上昇が続く中、従来の「定期預金」や「すまい・る債」に限られていた運用の選択肢が広がることで、管理組合の財政強化に向けた新たな議論が全国で始まっている。
買いたくても買えなかった」制度の壁が崩れる
現行制度では、個人向け国債の保有者は「自然人(個人)」に限られており、マンション管理組合のような人格なき社団等は購入できない。そのため多くの管理組合は、修繕積立金の運用先として定期預金か住宅金融支援機構(住宅金融支援機構)の「マンションすまい・る債」を選ばざるを得なかった。
これが変わる。財務省は2026年12月募集分(2027年1月発行予定)から、販売対象を一部の非営利法人等に広げた「個人向け国債プラス」*を開始する予定で、管理組合*がその対象例に含まれている。YouTubeやマンション管理士のブログを中心に、この動きへの関心が急上昇しており、解説動画には数万回の再生が集まるケースも出てきた。
なぜ今、この改革なのか。背景には、修繕積立金をめぐる構造的な危機がある。
*「個人向け国債プラス」という名称:財務省が正式に「個人向け国債プラス」への改名を公表。商品性(変動10年・固定5年・固定3年、金利下限0.05%等)は現行と変わらず。
*「管理組合がその対象例に含まれている」 :管理組合法人、マンション管理組合(人格なき社団含む)」が対象例として明記されている。学校法人・医療法人・社会福祉法人・NPO法人・宗教法人なども対象。
「物価上昇に負ける」積立金という矛盾
大規模修繕の工事費は2023〜2025年の間だけで約16%上昇した。同時期、定期預金の平均金利は長らく0.01〜0.1%台にとどまっていた。修繕積立金を銀行に預け続けるだけでは、実質的な価値が目減りし続けるという「インフレ負け」状態が深刻化している。
全建センターの専門家は「金利1%の運用に対してインフレが3%なら、毎年2%ずつ実質価値が失われる。10年で約18%の実質目減りだ。積立金の運用改革は急務だ」と語る。
こうした状況を受けて、財務省の「国の債務管理に関する研究会(第8回)」でも、個人向け国債の購入対象拡大が検討されてきた経緯がある。管理組合への解禁は、インフレ下で積立金を守るための制度的インフラ整備といえる。
3つの運用手段を徹底比較
では「個人向け国債プラス」は、既存の運用手段と比べてどう有利なのか。2026年4月時点の条件で整理する。
① 定期預金
最も広く使われる方法。預金保険制度により1金融機関・1名義あたり元本1,000万円まで保護される。仕組みが単純で総会でも説明しやすい。金利は近年上昇傾向にあるとはいえ、大手銀行では0.025〜0.4%程度にとどまる。修繕積立金が数千万〜数億円規模に達した管理組合では「1,000万円の壁(ペイオフ)」への対応のため、複数の金融機関に分散させる手間もある。
② マンションすまい・る債
住宅金融支援機構が管理組合専用に発行する10年満期の利付債券。2026年度募集分の年平均利率は0.475%(2026年度)。「認定すまい・る債」(管理計画認定済み組合向け)は年2.1%(税引後約1.78%)と高く設定されている。最大の特徴は実務への親和性だ。初回発行から1年以上経過すれば修繕工事費用のために1口50万円単位で手数料なしの中途換金が可能で、「いつ使うかわからない」修繕資金の性質に合った設計になっている。
③ 個人向け国債プラス(2026年12月〜)
2026年1月募集の個人向け国債の金利は、変動10年が年1.39%、固定5年が年1.59%、固定3年が年1.30%。管理組合向けの「プラス」版でも同等の金利が適用される見通しだ。最低金利0.05%の保証があり、元本は国が保証する。変動10年型なら金利上昇局面では利率が上がるため、インフレ対策の観点で注目される。
「何を買うか」より「いつ使うか」が先決
ただし専門家たちは、「国債解禁=すぐに乗り換え」という短絡的な判断に警鐘を鳴らす。
重要な点は、修繕積立金は「投資資金」ではなく「将来の工事のための資金」だということだ。大規模修繕の時期が近い資金を10年満期の国債で運用すれば、満期前に現金が必要になったとき中途解約で損失が生じるリスクがある(個人向け国債の場合、直近2回分の利子相当額が差し引かれる)。
全建センターのマンション管理士はこう整理する。「1〜3年以内に使う資金は定期預金や決済用預金で確保。5〜10年先を見据えて積み立てる部分はすまい・る債や個人向け国債を組み合わせる。この時間軸の仕分けが先で、商品選びはその後だ」
また、管理組合が国債を購入するには管理規約上の根拠が必要なケースもあり、総会での決議や規約改正が先行して必要になる組合もある。「解禁になった翌月から即購入できる」と思い込まず、準備の余裕を持つことが求められる。
「認定」取得が今後のカギに
修繕積立金の運用改革は、「管理計画認定制度」とも深く結びついている。国土交通省は2026年、適正な積立金設定をした新築マンションへの固定資産税優遇(減税期間5年→7年)を盛り込んだ新制度を2027年春に向けて整備中だ。認定を受けた管理組合は「認定すまい・る債」でより高い金利が適用されるなど、認定の有無が運用条件にも影響する。
「管理計画認定を取得している組合ほど、より有利な条件で資金を守れる仕組みが出来上がりつつある」(マンション管理士)。管理の質が資産価値と財政力の両方に直結する時代が到来している。
まとめ
2026年12月の「個人向け国債プラス」解禁は、長らく定期預金頼みだった管理組合の修繕積立金運用に、実質的な第三の柱をもたらす。しかし、すまい・る債・定期預金・国債のいずれが「最善」かは修繕計画の時間軸と組合の運用体制によって異なる。「何を買うかより、いつ使うかを先に決める」という原則を忘れずに、各組合がそれぞれの実情に合った資金管理を構築することが今、求められている。
大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-05-03 07号







