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修繕工事の瑕疵責任は誰が負う?<ニュース速報14>

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大規模修繕工事が完了した後に雨漏りが再発した場合、施工業者と管理組合のどちらに責任があるのか—この問いに即答できるマンションは少ない。2024年の長期修繕計画ガイドライン改定で修繕周期が柔軟化され、複数工事が重複する時代に入った今、「瑕疵責任の空白地帯」は確実に広がりつつある。法的・契約上の問題点と、業界が取るべき対応策を整理する必要がある。

法的真空地帯の存在

 大規模修繕工事が完了してから数年後、思わぬ形で雨漏りが再発したとする。しかし工事後に大型台風が直撃し、記録的な降水量を記録していた場合、管理組合はどこに責任を求めればいいのか。「自然災害による被害か、施工不良による欠陥か」—この問いに明確な答えを出せないまま、泣き寝入りするケースが全国で繰り返されている。

 現行の法制度では、大規模修繕工事は「工事請負契約」として締結され、2020年の民法改正により従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと名称・内容が整理された。請負人(施工業者)は、引き渡した成果物が契約の内容に適合しない場合(民法636条)、補修・代金減額・損害賠償などの責任を負う。管理組合が不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知することが権利保全の要件であり(民法637条)、権利行使できる期間は「不適合を知った時から5年・引き渡しから10年」が原則だ(民法166条)。

 しかし問題は、契約書に記載される「不可抗力条項」の解釈にある。多くの修繕工事請負契約には「地震・台風・洪水などの不可抗力による損害については請負人は責任を負わない」という条項が盛り込まれている。一見合理的に見えるこの条項が、実務上は深刻な「責任の空白」を生む。不可抗力条項があるだけでは免責が自動的に成立するわけではなく、損害が「真に不可抗力によるものか、施工不良が原因か」の立証責任は発注者側(管理組合)に傾きがちだ。

 ところが、管理組合が「施工不良」を立証することは極めて困難だ。理由は三つある。第一に、外壁・防水層などの施工部位は仕上げ材の下に隠れており、破壊調査なしには欠陥の有無を確認できない。第二に、管理組合側に建築の専門知識を持つ人材がいないケースが大半であり、第三者の専門家に調査を依頼するコストも数十万〜百万円超に及ぶ。第三に、工事完了から数年が経過した後では、施工不良と経年劣化・自然災害の影響を科学的に分離することが技術的にも困難になる。「証明できないから泣き寝入りするしかない」という現実が、現場には広がっている。


業界慣行の破綻

 従来、大規模修繕工事の責任問題は比較的シンプルだった。工事完了後に「アフターサービス保証」として各工事種別ごとに保証期間を設け、この期間内に発生した不具合については無償補修で対応するという慣行が業界に定着していたからだ。保証期間は工事内容によって異なり、外壁塗装・シーリングで5〜7年、防水工事で5〜10年、鉄部塗装で1〜3年が一般的な目安だ。さらに「大規模修繕工事瑕疵保険」(国土交通大臣指定の住宅瑕疵担保責任保険法人が提供する保険)への加入が普及し、保険期間中(対象部位・工事内容により1〜10年)の瑕疵については保険金による補填が可能な仕組みも整えられてきた。

 しかしこの「保証期間による切り分け」モデルが、修繕周期の柔軟化によって崩壊し始めている。

 2024年6月の長期修繕計画作成ガイドライン改定(国土交通省)により、修繕周期は従来の「おおむね12年」から「概ね12〜15年」へと幅が設けられた。この政策変更の本来の意図は、劣化診断に基づく合理的な工事時期の最適化だ。しかし現実には逆の現象も起きている。建設費高騰による工事費不足を抱えるマンションが積立金温存のために延期を模索する一方、外壁・防水層の劣化が想定より進行し、12年を待たずに第2回工事に入らざるを得ないケースも増えている。

 修繕周期が短縮されると、第1回工事のアフターサービス保証期間と第2回工事の施工期間が重複する事態が発生する。外壁の一部が第1回工事の保証期間内であるにもかかわらず、第2回工事で同じ外壁部分に足場を組んで上塗りするケースがその典型だ。工事後に不具合が生じた際、「第1回工事の施工不良か、第2回工事によるものか、それとも両者が複合的に影響しているのか」を特定することは、技術的にほぼ不可能に近い。

 さらに修繕の内容も複雑化している。築40〜50年超のマンションでは、外装修繕と並行して給排水管更新・電気設備更新・エレベーター改修が同時期に重なる「多重修繕」が多発している。それぞれ別の施工業者・別の契約・別の保証期間が存在するなかで、例えばパイプスペース付近の外壁に漏水が発生した場合、「給排水管更新業者の施工不良か、外壁修繕業者の施工不良か、それとも設計上の問題か」という責任の帰属が追跡不能になる。「誰も悪くない、でも誰も直さない」という状態が現場を覆う。


立法・契約の急務

 この問題を放置し続けることの代償は、管理組合の財政と住民の安全に直結する。修繕済みの外壁から雨漏りが再発し、補修費用の出所を巡って管理組合と施工業者が法的紛争に陥るケースは今後ますます増加するとみられる。以下の三つの対応が急務だ。

第一は、瑕疵責任の「明確な分担ルール」の契約上の整備だ。 現状では、工事請負契約の内容が業者側に有利な雛形で作成されるケースが多く、不可抗力条項の解釈や複数工事間の責任分担が曖昧なまま締結されている。管理組合が自らの利益を守るためには、第三者の専門家(マンション管理士・建築士・弁護士)が関与した契約書レビューが不可欠だ。特に「複数工事が重複する期間における責任分担の明示」と「施工不良と不可抗力の判定プロセスの明記」を契約条項として確立することが求められる。

第二は、「工事後イベント」に対応した責任帰属基準の整備だ。 工事後に自然災害が発生した場合の損害について、「どの規模・頻度の自然現象であれば不可抗力と認め、それ以下であれば施工耐力の不足として施工業者が責任を負うか」という基準が、現行の法令・ガイドラインには存在しない。建築基準法の設計荷重・風速基準・地震係数などを参照した「合理的な工事後イベント耐力基準」の策定と、それに基づく責任帰属の判定基準を法令・標準約款レベルで整備することが必要だ。

第三は、修繕積立金と瑕疵保険の統合的な制度設計だ。 現在、大規模修繕工事瑕疵保険への加入は施工業者の任意であり、加入率には大きなばらつきがある。複数修繕時代においては、第2回・第3回工事にまたがる「重複保証の空白」が構造的に生まれるため、修繕積立金の長期修繕計画と瑕疵保険の保証期間を連動させる仕組みが求められる。例えば、工事周期ごとに更新される瑕疵保険を修繕計画に組み込み、保険料を修繕積立金から拠出する「修繕・瑕疵保険統合制度」の創設が、実効性ある解決策として浮上している。

「誰の責任か」が問われ続ける前に、その問いが必要にならない制度を設計する。複数修繕時代の到来は、業界・管理組合・立法府に対し、その問い直しを迫っている。


参考情報

  • 民法第636条(請負人の担保責任の制限)・第637条(通知期間1年)・第166条(消滅時効5年・10年)
  • 国土交通省「大規模修繕工事瑕疵保険」概要(住宅瑕疵担保責任保険法人5社が提供、保険期間1〜10年)
  • 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定)」
  • 民間(七会)連合協定工事請負約款(2020年改正対応版)

 

 

大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-05-16 11号