大規模修繕工事に続き、マンション設備工事の分野でも談合問題が表面化した。公正取引委員会は2025年3月24日、マンションやビルに設置される機械式駐車装置の設置工事をめぐって受注調整を繰り返したとして、機械式駐車装置メーカーら計7社を独占禁止法違反(不当な取引制限)と認定した。うち5社に排除措置命令を、4社に課徴金納付命令を発し、課徴金総額は約5億2,613万円に上った。

談合は工事の種類別に二つのグループで行われていた。一つは「特定地下式PS設置工事」(水平循環方式分離式)で、日精・住友重機械搬送システム・フジパスク・IHI運搬機械の4社が関与。もう一つは「特定エレベーター方式PS設置工事」(エレベーター方式パレット型)で、新明和工業・日本コンベヤ・エヌエイチパーキングシステムズ・IHI運搬機械の4社が関与した。IHI運搬機械は両グループに参加していた。
課徴金納付命令を受けたのは日精(2億6,733万円)、住友重機械搬送システム(1億9,995万円)、新明和工業(5,587万円)、フジパスク(298万円)の4社。日本コンベヤは排除措置命令のみで課徴金は課されなかった。IHI運搬機械は調査開始前に自主申告するリーニエンシー(課徴金減免制度)を活用し、排除措置命令・課徴金ともに免除された。なおエヌエイチパーキングシステムズはすでに日本コンベヤに吸収合併されていたため、消滅法人として命令対象外とされた。
公取委の認定によれば、談合は遅くとも2017年6月末から7月にかけて開始された。各社が事前に受注業者と受注金額を調整し、競争入札を形骸化させていたとされる。受注の「順番」をあらかじめ決め、その他の社は意図的に高値の見積もりを提出するという手口で、長年にわたり適正競争が阻害されてきた。
大規模修繕談合と「同根」の構造
この問題がマンション管理組合にとって特に重要なのは、大規模修繕工事の談合問題と本質的に同じ構造を持つ点である。
公正取引委員会は2023年から2024年にかけて、大規模修繕工事を手がける施工会社60社超に対して立ち入り検査を実施。マンション管理業者と施工会社が結託し、管理組合に特定業者を推薦することで競争を排除していた実態が明らかになった。機械式駐車場の談合においても、競争を前提とした発注が徹底されなかったことが温床となった可能性は否定できない。
共通するのは「専門知識の非対称性」だ。管理組合や一般の発注者は、機械式駐車装置の適正価格を知る手段をほぼ持たない。各社の見積もりが横並びであっても、「これが市場価格だ」と信じ込まされてしまう。談合がまかり通る最大の理由は、発注者側の情報不足にある。
処分後も続く「余震」—業界再編と追加処分
公取委処分の余波は、その後も業界に広がり続けている。
国土交通省は処分を受けた各社に対し、建設業法に基づく営業停止処分を相次いで下した。住友重機械搬送システムは2025年9月から10月にかけて30日間、新明和工業も2025年8月から30日間の営業停止を命じられた。加えて日精と新明和工業はそれぞれ国交省からの指名停止処分も受けている。
業界再編の動きも加速した。住友重機械搬送システムは2026年1月、自社の駐車場事業をIHI運搬機械へ吸収分割により売却することを発表した。2024年12月期の売上高は約70.9億円で、効力発生は2026年11月1日を予定している。この結果、IHI運搬機械は業界推計で国内シェア約4割を握る最大手となる見込みだ。リーニエンシーで処分を免れた同社が業界再編の最大受益者となる構図は、皮肉と言わざるを得ない。
新明和工業は談合問題にとどまらない不祥事が相次いだ。2025年10月、同社が供給した機械式立体駐車場の屋根について、建築基準法上の大臣認定に適合しない仕様の製品が全国508棟に設置されていたことが判明した。折板屋根を固定する部品の板厚が認定仕様を下回っており、国交省が改修を指示している。フジパスクは公取委の認定に対して「事実誤認」と公式に反論し、取消訴訟の検討を表明するなど、事態は法廷闘争に発展する可能性もある。
管理組合への直撃—保守契約と修繕計画への影響
一連の問題がマンション管理組合の実務に与える影響は小さくない。
まず、既存の保守契約の見直しが急務となっている。住友重機械搬送システムの駐車場事業がIHI運搬機械に移管されれば、現在の保守契約の相手方が変わる可能性がある。また、営業停止期間中には緊急時の対応体制が手薄になるリスクもあった。自分たちのマンションに設置されている機械式駐車場がどのメーカー製か、現在の保守会社がどのような状況にあるかを確認しておくことが、今すぐ必要な対応といえる。
新明和工業製の駐車場を保有するマンションでは、屋根の大臣認定不適合の問題も確認が求められる。管理会社を通じて自社設備の適合状況を問い合わせ、必要であれば改修への対応を検討すべきだ。
修繕積立金の観点からも問題は深刻だ。談合によって不当に高い価格で設置された駐車装置は、その後のメンテナンス費用や更新費用の見積もりにも悪影響を及ぼしうる。「過去の工事費が適正だったかどうか」という問いは、管理組合として追及する価値がある。
独立系メンテナンス会社の活用も選択肢として浮上する。メーカー系の保守会社は自社製品のみに対応するが、独立系であれば複数メーカーに横断的に対応でき、競争原理が働きやすい。相見積もりを取ることで、メーカーの動向に左右されない保守体制を構築できる。
「適正価格を知る権利」を取り戻すために
大規模修繕工事の談合問題が注目を集める中、機械式駐車場という「もう一つの談合」が同時に進行していた事実は、マンション管理組合にとって重大な教訓を含む。
工事費の相場を知らないまま発注すれば、談合の温床を自ら提供することになりかねない。管理組合が自衛するためには、第三者機関による設計・監理の導入、複数業者への競争入札の徹底、そして相場データの積極的な収集が不可欠だ。公正取引委員会の処分はあくまで過去の違反を裁くものに過ぎない。次の談合を防ぐのは、発注者自身の意識と行動にほかならない。
<参考>
公正取引委員会プレスリリース・排除措置命令書(2025年3月24日)
住友重機械工業IR(2025年3月24日・2026年1月26日)
新明和工業IR(2025年3月24日・10月28日)
国土交通省プレスリリース(2025年10月28日)
大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-05-16 11号





