1 事案の概要
【申立人】管理組合
【被告】区分所有者A:当該マンションの共用部分に物品を放置したり、他の居住者とトラブルを起こしたり、騒音を発するなどの行為を行っていた。
2 59条競売請求訴訟から競売開始決定が取り消されるまでの経緯
4月5日: 管理組合の理事長が共同利益に反する行為を行う区分所有者Aを被告として提起していた、区分所有法第59条に基づく競売請求訴訟の口頭弁論が終結
4月22日: 申立人(管理組合側)の請求を認容する判決が言い渡される
5月3日: 被告Aに判決書が送達される
5月17日: 2週間経過により、上記判決が確定
6月3日: 申立人は、確定判決に基づいてA所有の区分所有建物の競売申し立てを実施
7月11日〜20日の間(推定): 競売の手続きが進められる中、被告であった区分所有者Aが死亡
競売手続きの進行中: 裁判所は手続きの過程でAが死亡した事実を把握
9月5日: 裁判所は職権をもって競売手続の取り消しを決定
3 裁判所の判断
裁判所は、59条競売が特定の区分所有者による共同利益違反行為を排除することを目的としているため、その判決の効力は当該所有者固有の属性に基づくものであり、相続人(包括承継人)には承継されないと判断した。
また、区分所有者が交代すれば、競売の目的である「障害の除去」は達成されたものとみなされるとしている。
4 コメント
事案は、共同生活を著しく乱す区分所有者に対し、管理組合側が競売を申し立て、判決が確定した後に本人が死亡したというものです。
裁判所は、59条競売が特定の個人による義務違反行為を排除することを目的としている以上、その効力は本人固有の属性に帰属するものであり、相続人(包括承継人)には承継されないと判断。職権をもって競売手続きを取り消しました。本判決は、マンション管理の透明性を求めようとした区分所有者側の行動(居住実態の調査など)に一定の理解を示しつつも、双方が感情的になり、事実を誇張した文書を配布したり、総会で根拠のないレッテル貼りの発言(ストーカー、ブラックリストなど)を行ったりしたことについて、いずれも一線を越えた名誉毀損にあたると認定した事例となった。
確かに、法理上、59条競売は「特定の区分所有者の属性」を審理の対象とします。そのため、所有者が交代すれば、形式的には「障害の除去」という目的は達せられたとみなされます。
しかし、区分所有者が変われば共同利益侵害状態は解消されますが、実際の問題をみると、管理費の滞納等があったとして、区分所有者が変更したことのみをもって問題は解消されず、その後の対応によって状況が変わり得るといえます。
つまり、申し立てられた共同利益背反行為者が口頭弁論終結の後に区分所有権を譲渡してしまうと、管理組合としてはもう一回、譲受人を相手に裁判しなければならなくなるのです。
今回の決定は、現在の判例の流れを汲んだものではありますが、同時に現行法の限界を露呈させた。相続人が共同生活の障害を速やかに除去しない場合、管理組合が再びゼロからの闘いを強いられる現状は、不合理といえます。
特定の区分所有者の排除は、共同利益侵害行為の解消の「手段」に過ぎず、「目的」ではありません。実務上の立場からも、そのように解しないと、脱法的な所有権移転を認めることとなります。
平成23年11月16日東京高裁では、共同利益侵害行為を続ける区分所有者に対し、管理組合は勝訴判決を得ましたが、その訴訟の口頭弁論終結後、当該所有者が所有する物件を、弟が代表の法人へ「5分の4」だけ譲渡しました。
裁判所は、脱法的な意図が強く疑われるとしても、それをもって直ちに民事訴訟法上の「承継人」の範囲を拡大することはできないとし、結果として当該所有者は「5分の1」の持分を持ったまま居座り続けることができると判断しました。
これが不合理と問題になっています。
現在、59条競売を申し立てる際は、相手方が「持分の全部」であれ「一部」であれ、一切の処分を禁止するために、必ず訴訟前に物件全体に対する「処分禁止の仮処分」をかけて登記をロックするのが、実務上の鉄則中の鉄則となっています。
大規模修繕工事新聞 2026-7月 199号





