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「通帳と印鑑を同時に渡すな」—修繕積立金を守る管理組合の基本<ニュース速報16>

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被害に遭いやすいマンションの共通点と、国交省ルールの正しい理解

管理費や修繕積立金の不正流用は、突然やってくる。理事長が通帳と印鑑の両方を管理会社に預けていたことに気づいた時には、すでに数百万円から数千万円が消えていた——こうした事件が、全国のマンションで後を絶たない。

「まさか、うちの管理会社が」という驚きとともに報告される被害事例に共通するのは、ほぼ例外なく一点だ。管理組合名義の口座の「通帳」と「印鑑」を、管理会社に同時に預けていた。

これは防ぐことができた被害だ。なぜなら、この「同時預かりの禁止」は、平成13年(2001年)のマンション管理適正化法施行以来、25年にわたって法律と業界ルールで明確に定められているからである。

法律は明確に「禁じている」—マンション管理適正化法の規定

マンションの管理会社が守るべきルールを定めた「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(マンション管理適正化法)は、管理組合財産の保全について具体的な規定を設けている。

同法施行規則第87条第4項は、管理会社は管理組合の修繕積立金などを保管する「保管口座」について、その印鑑等を管理することを禁じている。保管口座の印鑑は管理組合が自ら管理しなければならない。

さらに一般社団法人マンション管理業協会(マンション管理業協会)は、会員である管理会社向けに管理費等の保証制度を設けているが、その免責事項として「管理組合が管理すべき保管口座の印鑑等と、同口座通帳の双方を管理会社に管理させるなど、管理組合の印鑑等の管理責任を怠ったとき」を明記している。つまり、通帳と印鑑の両方を管理会社に渡した場合、被害が生じても保証を受けられないことが明確に定められているのだ。

この原則は「通帳と印鑑の分離管理」と呼ばれ、マンション管理業界における最低限の財産保全ルールとして長年にわたって周知されてきた。

なぜ被害が繰り返されるのか—「便利さ」が生む死角

原則は明確だ。それでも被害が後を絶たない背景には、管理組合側の「善意の依存」がある。

多くの被害事例では、管理組合の理事長や役員が「管理のプロである管理会社に全部任せたほうが効率的」と考え、事実上すべての財務管理を丸投げしてきた経緯が見られる。管理会社のフロント担当者との良好な人間関係が、かえってチェック機能を失わせてしまうケースも多い。

「長年お付き合いのある会社だから」「毎月報告書も送ってきているから問題ない」——こうした安心感こそが、不正を見えにくくする温床になる。

加えて、輪番制で選ばれた理事は一般に専門知識を持たない。通帳と印鑑の「分離管理」というルールを知らないまま役員に就き、引き継ぎ資料にもその記載がない、というケースは珍しくない。無知につけ込まれた被害とも言える。

被害に遭いやすいマンションの5つの共通点

現場の相談事例や報道された被害事例を分析すると、不正流用の被害に遭いやすいマンションにはいくつかの共通パターンが浮かぶ。

① 理事会が形骸化し、役員のチェック機能が働いていない 毎月の管理報告書に誰も目を通さない。総会でも決算書類をほぼ審議なく承認している。こうした管理組合では、数年にわたって不正が続いていても誰も気づかない。

② 通帳と印鑑の両方を管理会社に預けている 最大のリスク要因だ。管理会社が通帳と印鑑を同時に保有することは、チェックなしに自由に引き出せる状態を意味する。「慣習的にそうなっていた」という理由だけで継続しているケースが多い。

③ 修繕積立金の残高を理事長自身が把握していない 「管理会社に任せているからわかる」という感覚で、残高を自分で確認したことがない理事長は多い。被害が発覚するのは、多くの場合、大規模修繕工事の見積もりに際して「残高が足りない」と気づいた時だ。

④ 管理委託契約書を読んでいない 契約書に「通帳・印鑑の管理方法」が明記されているにもかかわらず、内容を把握していない管理組合は少なくない。契約書を読めば気づける問題を、漫然と見過ごしている。

⑤ フロント担当者が長期間変わらず、関係が馴れ合いになっている 同じ担当者が5年・10年と続いていると、その人物への個人的な信頼がチェック機能を代替してしまう。管理会社が担当者を頻繁に交代させることには一定の内部牽制の意味があるが、逆に長期担当者への過度な信頼は危険信号でもある。

国交省ガイドラインが定める「通帳・印鑑の保管体制」

令和7年(2025年)に改正・令和8年(2026年)4月1日に施行されたマンション管理適正化法の施行にあわせて、国土交通省は「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を改訂した。改訂の主要項目には「通帳・印鑑等の保管体制」が明示されており、管理組合財産の保全についての規律が一層明確化された。

通常の理事会方式(管理組合が理事長を置く方式)における原則は以下の通りだ。

  • 保管口座(修繕積立金等を保管する口座)の印鑑:管理組合が保管。管理会社への預けは原則禁止。
  • 収納口座(管理費等を一時的に収納する口座)の印鑑:管理委託契約によって管理組合が保管する場合、管理会社に渡してはならない。
  • 通帳と印鑑の同時預かり:いずれの口座においても、通帳と印鑑の双方を管理会社が保有することは認められない。

なお、令和7年(2025年)改正法により、管理業者が管理者(理事長)を兼ねる「管理業者管理者方式」の場合に限り、施行規則第87条第4項第2号(イ〜ホ)に定める以下の5要件をすべて満たした場合にのみ、例外的に管理業者が印鑑等を保管することが認められるようになった。

**① イ:**管理業者およびその関連会社以外に、印鑑等の保管を承諾する者がいないこと **② ロ:**不正利用・滅失・盗難等のおそれがない適切な保管体制を整備していること(別部署での保管・金庫施錠・使用時の複数立会い記録等) **③ ハ:**保管口座または収納・保管口座に預貯金として管理されている金額以上の、有効な保証契約を締結していること **④ ニ:**口座名義が管理組合に帰属することが一見して明らかであること **⑤ ホ:**上記①〜④を区分所有者等に説明・書面交付した上で、管理業者が印鑑等を保管する旨の集会決議がなされていること

ただしこれはあくまで例外規定であり、通常の理事会方式のマンションには適用されない。国土交通省通達(国不動第141号)も「長期間保管することを推奨するものではない」と明示している。理事会方式を維持している管理組合は、この例外を拡大解釈して「管理会社に任せていい」と誤解しないよう注意が必要だ。

今すぐできる5つのチェック

管理組合が今日から実行できる具体的な確認事項を整理する。

① 通帳と印鑑の所在を確認する 管理組合名義のすべての口座について、通帳の保管場所と印鑑の保管場所を今すぐ確認する。両方が管理会社にある場合は、少なくとも印鑑を管理組合側に取り戻す必要がある。

② 修繕積立金の残高を自分で確認する 通帳の写しまたはインターネットバンキングで、残高と直近6か月の入出金明細を自分の目で確認する。説明のつかない出金がないかをチェックする。

③ 管理委託契約書の「印鑑・通帳の管理」条項を読む 契約書に通帳・印鑑の管理について何と書かれているかを確認し、実態と一致しているかを照合する。不一致がある場合は、管理会社に書面で問い合わせる。

④ 毎月の管理報告書を精査する 管理会社から届く月次報告書の「収支報告」欄に目を通す習慣をつける。「見た」という署名・押印の記録を残しておくことも重要だ。

⑤ マンション管理士など第三者のチェックを活用する 自分たちだけでの確認に限界を感じる場合は、マンション管理士などの外部専門家によるセカンドオピニオンを活用することを検討する。利害関係のない第三者の目を入れることが、最も確実な抑止力になる。

「任せる」と「チェックしない」は別物だ

管理会社への業務委託は合理的な選択だ。しかし「委託する」ことと「チェックしない」ことは、まったく別の話だ。

修繕積立金は区分所有者が何十年もかけて積み上げてきた共有財産であり、その総額が数千万円から1億円を超えるマンションも多い。この財産を守る最後の砦は、役員一人ひとりの「確認する習慣」だ。

通帳と印鑑を同時に渡さない。これは法律と業界ルールが定める最低限のルールであると同時に、管理組合が自らの財産を守るための、最もシンプルで確実な第一歩である。


参考:マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則第87条第4項/国土交通省通達(国不動第141号)/一般社団法人マンション管理業協会「管理組合の皆様へ(管理費等保証事業)」/国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」(令和8年4月1日改訂)

大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-07-18 16号