管理会社では、管理組合財産に対する金銭事故が起きても速やかに対応する内部監査体制制度の強化に努めています。既存の事故を想定した例と、取り組んでいる再発防止策について紹介します。
ケース❹ 組合、会社から信頼の管理員が着服
【経緯】
住み込み管理員が理事長印を預かり、個人用備品購入代金や飲食代金、慰労金等の領収書と請求書に確認印を押印して、フロント社員経由でマンション会計部に提出し、備品を流用、飲
食代金については現場小口現金から支払う現金を流用、慰労金についてはマンション会計部から受領した現金を着服しました。
当該管理員は、約18年同じマンションに勤務していたため、管理組合ならびに会社から信頼を得て、理事会から折衝業務を任され、担当フロント社員が関与できない状況となっていまし
た。
【再発防止策】
① マンション会計部は支払いの際、請求書、領収書、工事完了確認書原本を確認する。
② フロント社員ならびにその上司の理事会への関与を強めるため、理事会にフロント社員が毎回出席し、議事録を作成後、上司に提出する業務手順に変更する。
③ 理事会議事録にない支払いについては、上司が支払いの可否について理事長に直接確認する。
④定期的な人事ローテーションを行う。
⑤備品リストを作成し、棚卸しを記録する。
ケース❺ 消えるボールペンで数字書き換え
【経緯】
住み込み管理員が支払い申請時に消えるボールペンで記載した支払い申請書と払出票を提出。理事長が押印した後で、数字を書き換えました。
また、名義変更時に数時間、理事長より一時的に銀行印を預かり、白紙の払出票に押印したものを保管しておき、後日出金し着服。発覚を防ぐため、理事やフロント社員が通帳原本を確
認できないように誘導するとともに、監査時や総会対応時には通帳コピーを偽造したものを提出していました。
また、銀行残高証明書についても偽造し、原本に見せかけています。なお、通帳を管理事務室に保管しているため、当該管理員は理事長から出金に必要な帳票に押印してもらうことで不
正な出金が可能です、当該管理員は約7年同じマンションに勤務していました。
【再発防止策】
① 管理組合サイドに理事長印等の取り扱いの留意事項を周知する。
② 管理員による理事長印の保管、押印代行、予備の払戻請求書への押印を禁止とする内容を業務記述書等に記載する。
③ マンション会計部ならびに内部監査部門は通帳原本および預金残高証明書原本を確認する。
④ 通帳の保管を従来の管理事務室保管から本社会計センターに変更する。
⑤通帳レス・ファームバンキングを導入する。
⑥定期的な人事ローテーションを行う。
⑦ 内部監査部門が適切に機能するために、熟達した専門的能力を持った人材を配置する。
ケース❻ フロントが会計業務を兼務、報告書を改ざん
【経緯】
フロント社員が銀行預金口座の払出請求書に不正に銀行届出印を取得して現金を引き出し、着服しました。
また、当該フロント社員が出納会計業務を兼務している状況を利用し、会計報告書を改ざん。銀行残高証明書を偽造して報告し、発覚を免れました。
なお、承認者は通帳残高と会計報告書の残高チェック、銀行残高証明書原本の確認を怠っていました。当該フロント社員は約10年同じマンションを担当していました。
【再発防止策】
① 管理組合サイドに理事長印等の取り扱いの留意事項を周知する。
② フロント社員による理事長印の保管、押印代行、予備の払戻請求書への押印を禁止とする内容を業務記述書等に記載する。
③ フロント社員担当による出納業務を禁止し、出納会計担当が行う体制とする。
④ 出納会計マネジャー、フロントマネジャー、内部監査部門は通帳原本および預金残高証明書原本を確認する。
⑤ 改ざんが困難な会計ソフトに切り替えた上、出納会計担当者が月次決算報告書を作成する。
⑥ 通帳レス・ファームバンキングを導入する。
⑦定期的な人事ローテーションを行う。
⑧ 内部監査部門が適切に機能するために、熟達した専門的能力を持った人材を配置する。
(大規模修繕工事新聞 第78号)