公益社団法人日本建築家協会(JIA)メンテナンス部会は2月8日、東京・神宮前の建築家会館1階大ホールで30周年記念大会を開きました。
集合住宅のメンテナンスやリニューアルにコツコツと取り組んでいた建築家が1987年、日本建築家協会の技術部会内にメンテナンス分科会を作ったのが始まりで、今年で30年を迎えました。
記念大会ではマンションの大規模修繕の歴史、長期修繕計画の成り立ちや各種修繕工事の変遷などをまとめた記念誌『マンションの大規模修繕 30年の軌跡』をもとに歴代の部会長が当時の思いなどを振り返りました。
1980年代、日本建築学会の中の集合住宅管理小委員会※1)で「マンション管理をちゃんとやらないと大変なことになるよ」ということになりました。
私自身が住んでいるマンションでも理事になり、「(集合住宅は)建てるばかりじゃどうにもならない」と気づいて、所属する建築事務所としても改修に取り組みはじめました。
日本建築学会は基本的には学者が主流なんですけれども、「学者だけではマンションに対応できない」「開けた学会にしないと学問的にも大きくなれない」と、それが「市民のためのシンポジウム」になりました。1985年、第1回のテーマは「分譲集合住宅の修繕」で、大きな大会の合間には「市民のためのミニシンポ」も行っていました。
93年でシンポジウムは1段落し、小委員会はあったのだけれど、われわれ実務家は活動の場をメンテナンス部会に移しました。
※1) 集合住宅管理小委員会:1975年設置。1985年から1993年まで毎年全9回「市民のためのシンポジウム」を開催した
「稲毛海岸三丁目」「鶴川六丁目」「桜上水団地」等、13団地管理組合で、管理組合とは何をするものか、ということで分住協※2)が作られました。
桜上水団地が首都圏の団地ではじめて行った外壁塗装に、鶴川六丁目団地管理組合の施設担当理事として見学に行き、いろいろ勉強しました。
鶴川六丁目団地でも外壁塗装をやって、次の年にわかったことはバルコニーの上げ裏の塗料が剥がれてきたこと。台風によってもあちこちの棟で漏水事故が発生しました。外壁塗装をしただけで、シーリングやひび割れ塗装も何
もやっていません。やっぱり防水を上からしないとダメだということがよくわかりました。
1984年、分住協の止水防水研究会の主任研究員として、朝日新聞の家庭欄に「修繕は下地から」という記事を書きました。
それがすごい反響になって、首都圏の団地管理組合から分住協の事務局に次々に電話が入りました。そこで止水防水研究会に建築家がどんどん加わり、これがその後のJIAメンテナンス部会の初期のメンバーとなります。
※2) 分住協:分譲住宅管理組合連絡協議会。1969年設立。日本初の管理組合組織。現・日本住宅管理組合協議会(日住協)
スクラップアンドビルドからメンテナンスへという標語がありますが、ヨーロッパをみると、古い建物が200年、300年ずっと使われています。それは同じものを寿命30年くらいで壊してしまうのと、300年使うのとでは10倍違うわけですね。
改修や補修が加わっても、そっちのほうがはるかに豊かになります。社会的資産が増えます。そんなことからマンションのメンテナンスに浸かり込んでいる次第です。
1994年、メンテナンス部会の革命期といえる『マンション百科』が出版されて、翌年に阪神淡路大震災が発生しました。
次に『集合住宅改修工事実践仕様書・同解説』が作られる流れになっていきます。それまで新築の仕様書はありましたが、改修の仕様書は見当たりませんでした。
『マンション百科』をもとに全国セミナーも実施。それから全国のJIAにメンテナンス部会を作ろうと、そういう活動が社会的に認知され、活動もどんどん活発になってきました。90年代はそうした「活動の発展と拡散」の時期でありました。
マンションに求められる建築家として、それぞれのマンションで長期修繕計画に基づく計画修繕や性能向上の提案が求められています。管理組合という独特の組織への対応、居住者の高齢化やそれに伴う管理組合の機能の低下、空き住戸の増加など、マンションに関わる建築家の取り組む課題は多いと思います。
メンテナンス部会は、基本的には毎月1回の定例部会とこのようなセミナーを中心に活動しております。その中で、個々の経験により蓄積された技術を共有し合うということで、自分たちの事例を報告し合って、切磋琢磨しながら自己研鑽に励んでいます。
業務においては、建築家の体験し体得した改修技術や知識、芸術的感受性に基づいた提案を管理組合に行い、その提案をもとに管理組合が進むべき方向性を検討する過程で、アドバイスを行っています。
今後も行政、マンション管理団体、さらに次世代を担う学生を含め、技術交流の場として、マンションに100年安全で快適に暮らすための活動を続けていきたいと思います。
(大規模修繕工事新聞 第87号)