水谷文彦氏
ヨコハマアイランドガーデン管理組合の顧問を務める水谷文彦氏。マンション管理士として、さまざまなマンションのコンサルタント業務に携わった豊富な実績があります。そこで、マンション管理士の立場から、大規模修繕工事を計画する前の管理組合に対し、どんな点に気を付ければよいのか、訊きました。
―まず、マンション管理士と大規模修繕工事との関わりについて聞きたいのですが
管理会社や施工会社はもちろん、設計コンサルタントに相談に行くと、大規模修繕工事を行う前提で相談に乗ってくれます。
私たちマンション管理士は、「今やるべきですか?大規模修繕工事ありきではありませんよ」と、そこから入ります。
工事の前に修繕委員会の立ち上げを助言し、修繕委員の集め方、勉強会の開催、委員会細則の立案、委員会の総会資料作成など、マンション管理士ならではの工事に対するアプローチができると思います。
また、設計コンサルタントに依頼すれば、設計・監理方式による工事の形が決まってしまいますが、やり方によっては責任施工方式で管理会社や施工会社に任せる選択肢もアドバイスすることができます。
―はじめての大規模修繕工事の場合、わからないことが多いのですが、最初の注意点は?
築10年目を前に、多少お金をかけてでも、専門家を入れて調査診断をしたほうがよいと進めていますすることを勧めています。
平成12年施行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」では新築住宅の瑕疵担保期間の「10年義務化」を定めています。これは引き渡された住宅に瑕疵があった場合、その瑕疵を修理したり、賠償金の支払いなどをしなければならないことを意味しています。また、この品確法に合わせ、一般社団法人不動産協会でも中高層住宅アフターサービス規準を改定している。
今のマンション大規模修繕工事は築12年で行うことが多いようですが、施工による不具合はつきものです。こうした不具合が施工者の責任になるかは10年が境目なのです。
だからこそ、計画の起案だけを早めて10年目以内に不具合を確かめることが賢明です。新築時の施工不良等により、不具合が見つかれば、1回目の大規模修繕工事の着工が築12年から15年に延びるかもしれません。それを分譲主の負担で直してもらうことができるのです。
―1回目の大規模修繕工事後、気を付けるポイントは?
長期修繕計画の見直しをしっかりやることです。
今回の工事によって次は何年目にやるのか?12年周期を15年周期にできれば、建物の寿命が60年、80年となったときにその間の工事の回数が変わり、その費用は莫大に違ってきます。
そして築60年目までの長期修繕計画を作り、マンションのライフサイクルコスト(LCC=購入してから廃棄するまでかかる費用)を実感することです。
マンションの修繕で一番お金がかかるのは築30年~40年頃。給排水設備、窓サッシ・玄関ドア、機械式駐車場等の設備の更新があるからです。
しかし設備関係は技術が進み、1回更新すれば、その後は自分が死ぬ建替えまで持つということが考えられます。
そのためにも大規模修繕工事の周期を延ばし、将来にわたっての回数を減らすよう、工事のやり方も考えなければならないと思います。
(大規模修繕工事新聞97号)