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マンション管理組合総会決議無効確認等請求事件

浴槽やトイレも修繕積立金で更新!?専有部設備の一体改修を決議

 給排水管等設備改修に、専有部分の浴室、トイレ、給湯器、洗濯パン、洗面化粧台なども加えた工事を行った管理組合があり、これに対して「それはあまりにやりすぎだ」として、区分所有者2人が工事を決定した総会決議の無効を訴えました。
裁判は最高裁まで行き、結果的に上告不受理という形で、平成29年9月14日に決着。管理組合側の主張、つまり浴槽やトイレも修繕積立金で更新した工事が認められました。
近年、管理組合主導で、共用・専有部分の給排水管等の改修工事を行うケースは増えていますが、内装に関与するものまで実施するケースはほとんどありません。
共用部分と専有部分の区分けはどう考えればよいのでしょうか。<監修/佐々木好一弁護士(田中・石原・佐々木法律事務所)>

●事案の概要
神奈川県藤沢市所在のマンション(昭和42年竣工・RC造・5棟・175戸)の区分所有者である原告2人が、被告である管理組合に対し、管理規約の改正(共用部分等の管理、修繕積立金の取り崩し)、給排水管等設備改修工事の請負契約の締結、借り入れおよび修繕積立金の使用に関する総会決議の無効を求めた事案。
工事対象には共用、専有部分に属する給排水管・ガス管だけでなく、浴室、トイレ、給湯器、洗濯パン、洗面化粧台などが含まれていたことから、専有部分の先行工事をした者との不均衡、浴室やトイレなどの所有権は管理組合にない点などが争われた。
工事は原告の住戸がある棟の4戸を除く171戸で完了し、管理組合は工事代金を支払っている。
【ポイント①】
主な争点は、「修繕積立金の目的外使用ではないか」「管理組合の決議で専有部分の工事までしてしまってよいのか」という点にあります。
そもそも修繕積立金は、共用部分の修繕等のために徴収されています。これを「共用部分と構造上一体となった部分」だけではなく、「共用部分の管理上影響を及ぼす部分」にまで広げることが、この修繕積立金の目的の範囲外になるわけで、そのような対応をすることは無効ではないかということが争われているわけです。
法的には様々な視点から主張されていますが、原告側が一番主張したかったことは「修繕積立金」という共用部分の修繕のために徴収されているものが、どの範囲まで使うことができるのか(浴室、トイレ等、どこまで専有部分に関与することができるのか)という点にあります。

●原告(反対した区分所有者)の主な主張
・専有部分は区分所有者の所有に属するもので、使用や管理は区分所有者が行うべきものである。
・管理組合は共用部分の管理を行うための団体であり、修繕積立金も共用部分の修繕のために徴収されている。
・管理組合が管理する修繕積立金は区分所有者全員のもの(総有)であり、全員の同意なく、個別の区分所有者に対して分けることになるような専有部分の工事に使うことができない。
【ポイント②】
専有部分に修繕積立金を使うことは修繕積立金の目的の範囲外であり、専有部分を管理組合の決議において工事をすること自体、違法ではないのか―そうしたことを原告は区分所有法の各条項やその原則などから主張しています。
ただし、近年、専有部分の配管については管理組合の主導によって行われることが多くみられます。浴室、トイレ等の設備更新を配管と同様に工事範囲とした点について、重点とされるような主張があまり見受けられなかったように思えました。

●被告(管理組合)の主な主張
・ 専有部分に属する給排水管、浴室、トイレ等の設備は一体的かつ効率的な管理のために必要なものであり、区分所有者の共同の利益に資するものである。
・ 配管類の交換で、浴室の床をはつり、既存の浴室を再設置するには、①多額な費用のかかる防水工事が必要となる、②配管類のみ交換すると旧設備から漏水する危険がある、③撤去したバランス釜・浴槽を再接続する部品の調達ができないおそれがある。このため共用部分の工事とともにユニットバス化に更新する必要があった。
・ トイレ設備は共用部分の給排水管と物理的に接続されていて、共用部分と物理的一体性を有する部分であり、配管類のみ更新しても旧設備から漏水する可能性がある。
・ 既存設備を続けて使うことを希望した区分所有者に対しては、標準品の価格相当額をオプション工事代金から値引きすることによって実質的な補償をしている。
【ポイント③】
被告側の主張の前提は、集会の決議や管理規約の管理の対象は共用部分のみに限られず、必要に応じて専有部分であっても工事の対象にできるというものです。区分所有者の所有に属する専有部分についても、集会の決議や管理規約によって、必要に応じて管理をすることができると主張しています。
また、原告側は、先行工事をしている区分所有者への不都合という点を主張しているのに対し、被告側は、決議が全体に効力を及ぼすものであり、先行工事を行っている者に対しても適切な対応を行っています。
以上の通り、被告側の主張は、管理実務上の必要性ということを強調しているように思えました。

【総括】
佐々木好一弁護士(田中・石原・佐々木法律事務所)
●裁判所の判断
修繕積立金に関しては、使途を共用部分に限定する法令の定めがなく、本件マンションにおいても、共用部分のみならず、共用部分の管理上影響を及ぼす部分についても使用できると、裁判所は判断しました。
その上で、本件マンションのこれまでの経緯や構造等を踏まえ、ユニットバス化や洗濯パンの新設等をすることは、共用部分の管理上影響を及ぼす部分の修繕に当たるとして、被告側の主張を認めました。
原告側が、自分で費用をかけて浴室やトイレ等の工事をした者との不公平さを指摘していますが、これに対しては、先行工事をした区分所有者について一定の減額措置を講じていることなどを考慮して、「不公平ではない」と言及しています。
裁判所の判断は、管理組合の管理実務上の必要性を重視したものと考えられるといえます。
●他の管理組合への影響
本判決は、あくまで共用部分の修繕に関して必要な工事であるということを前提にして、ユニットバス化等ができるとしているもので、決して管理組合で規約を変更し、決議をすれば専有部分のどこまでも工事してよいと判示しているものではありません。
このため、他のマンションの管理組合の皆さんが給排水管等を修繕する際、給排水管等を適切に修繕し、漏水等を防止するため、どこまでの工事を行う必要があるのか、有益なのか、他方で区分所有者がどの程度の先行工事をしているのかを確認することが大事です。その上で先行工事をしている住戸がある場合には、その区分所有者との公平のためにどの程度の措置を講じるべきかを慎重に検討するべきです。
そして、検討した結果を踏まえ、適切に規約を変更して(本件のように「共用部分の管理上影響を及ぼす部分」に修繕積立金を使えるようにするなど)工事を進めなければなりません。
また、今回の判決は、反対者が2人に留まっていることを重視しています。つまり、他の170戸以上が賛成していることから、区分所有者に丁寧に説明し、賛同を得ることがいかに重要かを説いているといえます。(大規模修繕工事新聞102号)