海外に住む外国人所有者の滞納、どうやって督促すればよい?
うちは1DKの多い投資型マンションで、外国人の所有者が増えています。所有者が住んでいる場合もありますが、ほぼ賃貸に出しています。
そんな中、管理費等の滞納が3カ月を過ぎた住戸があったので、登録のある中国の住所へ国際郵便で督促状を送りました。
ただし、これまでも総会招集通知について何の返信もなく、今回も督促状に対する反応はありません。
滞納額はどのように請求し、取り立てることができるでしょうか?
国外居住は領事送達・中央当局送達を利用法改正による「国内管理人」にも注目
本件では、管理費を3カ月分以上滞納した状態で、督促状を送っても反応がないということですので、法的措置を検討する必要があります。
管理費滞納に対する法的措置としては、①区分所有法7条の先取特権の実行、②滞納者の資産に対する強制執行の他、最終手段として③区分所有法59条の競売申立が考えられます。
まず、①について、管理組合は、滞納者の区分所有権(当該不動産)と建物に備え付けた動産に対して先取特権を有しています。
この先取特権に基づく不動産競売申立てにより、滞納管理費について区分所有権から優先して弁済を受けることができます。
この先取特権は、訴訟手続きを経なくても申し立てることができますが、当該不動産を競売できるのは、先取特権の対象になる建物に備え付けた動産に対する担保権の実行では滞納額の全額を回収できない場合に限られます。
また、管理費を滞納する者の多くは住宅ローンを抱えていて、それを担保するために抵当権が設定されています。当該先取特権は抵当権に劣後する権利なので、抵当権が担保するローン残額が当該不動産の価値を上回る場合は実効的な回収措置とはなりません。
次に、②について、これは、滞納者が当該不動産の他に預金債権等の資産を有している場合、滞納者を被告として訴訟を提起して勝訴判決を得て、それを債務名義として強制執行手続きを申し立てるものです。先取特権と異なり、対象となる資産の範囲に制限がない点が特徴です。
なお、債務名義を得る手段は訴訟提起に限られず、請求金額に争いがない場合は、より簡易な手続きである支払督促手続きも利用できます。
③は、上記①②の方法によっても滞納管理費全額を回収できない場合の最終手段で、他の方法によっては区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる場合に、その他の厳格な要件を充たすことにより、訴えをもって当該不動産の競売を請求することができる手続きです。
この手続きは、滞納者がオーバーローンの状態でも競売請求が実施でき、この場合には、区分所有法8条の特定承継人である競落人に滞納管理費等の支払を求めることができます。
以上の法的手続きは、いずれも裁判所が関与する手続きであり、滞納者に訴状や差押命令が送達されることが必要です。
本件で滞納者は中国にいるということですが、海外にいる者に送達を行うことを外国送達と言います。この外国送達にはいくつか種類がありますが、相手が中国にいる場合の民事事件に関する送達は、領事送達および中央当局送達が利用できます。
領事送達は、外国にいる自国の領事官等に送達を嘱託する方法で、受訴裁判所の裁判長→受訴裁判所が所属する裁判所の長→最高裁判所民事局長等→外国に駐在する日本の外交官または領事官→受送達者という経路をたどります。
日本の機関が送達を行うので、他の送達方法による場合よりも送達が早くて確実性があり、送達の相手方が日本語を解する場合は翻訳文の添付は必要ありません。ただ、送達の相手方が受領を拒んだ場合は、別の方法でやり直さなければなりません。
中国の場合、領事送達に要する期間は4カ月程と言われています。
中央当局送達は、送達条約締約国間において、受託国の中央当局に対して文書の送達を要請するもので、受訴裁判所の裁判長→受訴裁判所が所属する裁判所の長→最高裁判所民事局長等→受託国の中央当局→送達の実施当局→受送達者という経路をたどります。
受送達者が受領を拒んでも送達の効力が認められますが、領事送達と比べて時間がかかり、受送達者が日本語を解する場合でも、原則として訳文を添付する必要があります。中国の場合、中央当局送達に要する期間は6カ月程と言われています。
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このように相手が外国にいる場合、裁判所が関与する手続きには非常に時間がかかります。
現在、区分所有法制見直しに関する要綱案が発表されていて、「区分所有者が国内に住所または居所を有しないとき」は、「国内管理人」を選任できるとしています。
国内管理人は、管理費等の支払事務、議決権の行使、立ち入りの同意などの権限が認められ、増加する海外に住む区分所有者への対策として、今後どのように活用できるか注目されています。
山村行弘(やまむら・ゆきひろ)弁護士
2016年、大空・山村法律事務所を開設。
第一東京弁護士会刑事弁護委員、
独立行政法人国民生活センター発刊『国民生活』の“暮らしの法律Q&A”( 2010年~ 2017年)、日本経済新聞「ホーム法務Q&A」(2018年1月~)の執筆担当。
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大規模修繕工事新聞 178号2024-10