
熊本地震から得られた多くの教訓の中で、私たちが特に目を向けるべきテーマの一つに「マンションの被災」があります。
今回は、実際の被災事例から見えてきた、マンション特有の弱点と備えのポイントについて考えてみましょう。
まず、発災直後の住戸内で身を守るための教訓です。激しい揺れにより、室内には割れた陶器やガラスの破片が散乱し、足の踏み場もなくなる危険があります。室内であっても安全に歩行できるよう、平時から寝室に靴を用意しておくという、命を守るための第一歩が不可欠です。
さらに深刻な事態を招くのが、玄関ドアの被害です。
強い揺れでドア枠が歪んで開かなくなり、避難のために無理にこじ開けると、今度は閉まらなくなってしまいます。
壁に穴を開け、チェーンやナンバーキーで仮施錠をして凌いでいるケースも多々ありました。
ここで高いハードルとなるのが、分譲マンション特有の事情です。共用部分であるドアの補修には、管理組合での合意形成と資金調達が必要となります。
これが滞れば、各住戸は施錠できない状態のまま放置されてしまいます。悲しいことですが、被災地の混乱に乗じて人の不幸を喜ぶ泥棒はどこにでもおり、空き巣犯罪が頻発したという事実は、個人の力だけではどうにもならない防犯の壁があることを物語っています。
次に、インフラやライフラインの被害も見過ごせません。
地震時管制運転装置や戸開走行保護装置などの最新機能を持つエレベーターであっても、閉じ込め事故が多発しました。熊本地震では、救出までに3時間から3時間半もの時間を要した事例があります。
万が一に備え、エレベーターのかご内には飲み物、簡易トイレ、照明器具を備えた防災ボックスを設置することが推奨されます。
また、マンションにおいて排水設備の破損は致命的です。
下階への甚大な漏水被害を防ぐため、水洗トイレの使用は「厳禁」となります。この使用制限が解消されるまでには1カ月以上を要することもあり、管理組合による共用簡易トイレの設置と、各家庭でのトイレパックの多めの備蓄が、文字通り生活の命綱となります。
そして、盲点となりやすいのが「ゴミの管理」です。自治体のゴミ収集がストップしている中、ルールを決めずに各人がゴミ置き場に出し続ければ、あっという間に未分別のゴミの山ができあがります。
被災時のゴミ収集再開には1カ月かかることもあり、悪臭や衛生面での問題を引き起こします。自力で整理や廃棄ができず、最終的に業者に依頼した結果、100万円以上の想定外の費用負担を強いられた管理組合もありました。
非常時こそ、管理組合の指示があるまでは「各戸で分別して保管する」という強い自律が求められます。
マンションの防災は、個人の備えだけでは完結しません。防犯対策からトイレの運用、ゴミの管理に至るまで、管理組合という「共同体」としてのルールづくりと協力体制があって初めて機能するのです。
熊本地震が残したこれらのリアルな教訓を対岸の火事とせず、今一度、ご自身の住むマンションの防災力を見直してみてはいかがでしょうか。
<全建センター・大規模修繕工事新聞論説委員会2026-10-02>
大規模修繕工事新聞 2026年10月 202号




