Point
① 管理費の滞納は、最も多いトラブルであるが、滞納管理費等の請求は、民事訴訟上の複雑な論点を多く含む訴訟分野である。
② 管理費等請求訴訟は、提起後に訴訟方針を変更しようとしても、管理組合の総会決議や理事会決議を経る必要があるため、容易にはできない。十分な検討を重ねた上での初動対応が求められる。
③ そのほか、個別の論点としては、原告選択の問題、個別の区分所有者についての問題、長期間滞納の問題、費用請求に関する問題が挙げられる。
新型コロナウイルスによる社会的な財政悪化が管理組合会計にも影響を与えることが考えらえます。管理費等請求訴訟における固有の論点や、特に留意すべき点等にはどのようなものがあるでしょうか。
管理費等請求訴訟は、その件数の多さなどから、民事訴訟の中では、対応法の確立した簡易な訴訟であると思われることが多いようです。しかしながら、実は管理費等滞納訴訟は民事訴訟の中でも難しい論点を数多く含む訴訟分野です。
特に難しいのは、訴訟提起後に当初想定しなかった問題が明らかになった場合です。滞納管理費等を訴訟提起する際や訴訟途中に方針を変更する際には、管理組合の総会決議や理事会決議を経る必要があるため、弁護士の一存で方針を変更するというわけにはいかず、場合によっては管理組合総会や理事会での説明が必要となります。
よって、弁護士としては、訴訟提起前の時点で、今後発生しうるすべての論点をあらかじめ想定・理解した上で、そのための正しい見通しを管理組合に示すことが必要になります。
管理費等請求訴訟に特徴的な論点
①だれを原告にするかの問題
②区分所有者の問題
・区分所有者が所在不明の場合
・区分所有者が死亡していた場合
・区分所有者が破産していた場合
③滞納が特に長期間続いている場合の問題
・消滅時効
・ 滞納が長期間続き、特にオーバーローン状態である場合
・特定承継人に対する請求
④どのような費用までを請求できるかという問題
・自治会費(町内会費)
・弁護士費用
・遅延損害金
・将来にわたる管理費等の請求
(大規模修繕工事新聞 127号)
<参考>
『トラブル事例でわかるマンション管理の法律実務』
著者/香川希理
発行/学陽書房
A5判・216ページ
定価/ 2,700円(税別)
2019年5月24日発行
ISBN:978-4-313-51167-5