一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)は10月25日、第48回管理組合オンライン・セミナーを開催し、約800人が参加しました。第1部は全建センター筆頭理事の佐藤成幸氏が講師となり、「12年周期を18年周期にする方法を徹底追及」と題して講演しました。この講演で佐藤氏は、新長期修繕計画の一年ごとの詳細内容や「オンライン・セカンドオピニオン制度」の具体化の手順を公開しました。
1.18年周期の大規模修繕工事の実例について検証
大規模修繕工事を18年周期化に成功させたマンション管理組合について、どのように取り組んできたのかを実例検証してみたい。
(1) 建物概要
① 所在地 K県○○市
② 構造・規模
4棟・住戸数合計878戸
【1】地上18階建・住戸142戸
【2】地上32階建・住戸249戸
【3】地上32階建・住戸249戸
【4】地上24階建・住戸238戸
③ 建物竣工
2003年~ 2004年にかけて竣工、順次入居開始
(2)経過
入居後、5年程度時から長期修繕計画を見直すために、管理組合にて理事会の諮問機関として修繕委員会を発足しました。
長期修繕計画検討の過程で、修繕積立金の改定や大規模修繕工事の実施時期等を多角的に検討し、当初より設定されていた12年を超えて実施する方向性を打ち出しました。
次にその12年を経過しても大きな問題が発生しないようにするためには、どのような措置が必要なのかを具体的に考えて順次実行していきました。
その結果、現在では新築時よりも最低でも17年経過時点で大規模修繕工事を実施し、完了時は築後19年時点とする計画です。
(3) 修繕委員会が実施してきた事項
・ 2011年=入居者全員にアンケート調査をしました。主に、バルコニー等専用使用部分の瑕疵にあたる部位の抽出と劣化個所の調査です。
・ 2011年~ 2012年=震災対応をしました。具体的には、破損部位ごとに補修をしました。
・ 2014年~ 2015年=瑕疵部分の補修工事プラス中規模修繕工事
(4)そもそも気づかない場合もある
管理組合の理事や修繕委員に選任されても、ほとんどの人が大規模修繕に関しては、素人同然の場合がほとんどです。そのため、工事の品質については知識がないために失敗品と気がつかないことが往々にしてあります。
そもそも同様の大規模修繕工事を行うのは10数年後のため、工事個所が高所だったり、隠ぺい部は普段目にしないため、気づかない場合があります。
(5)次も同様になりやすい
構成される組織や人員が同様なので、取り組みのどこに問題があったのか正確に把握できていないため、次の大規模修繕に際しても、同様の対応になりやすいという傾向があります。
そのため、何かある都度に「揉めるマンションとして有名になっていくという結果に陥る恐れがあります。
2.大規模修繕工事検討のフローと失敗発生のタイミング
(1)管理組合の組織の構成:修繕委員会等の設置
大規模修繕のスタートは管理組合の組織の構成として修繕委員会等の設置が必要ですが、なり手がいない、専門知識が不足している、利害関係者が立候補してしまったなどが失敗発生の要因となります。
(2) パートナーの選定:設計・監理方式によるコンサルタントの選定採用
大規模修繕に際しては少なからずの専門知識がどうしても必要となります。全くの素人の集まりだけで進められるほど簡単ではありません。そのため、一般的には次の段階として、コンサルタントの選定。採用になりますが、昨今、マスコミ等で騒がれているように、適切なパート ナー(=コンサルタント)を選定するのが難しいのが実情です。
コンサルタントの選定の仕方がわからない場合、どうしたらよいか?コンサルタント採用に際して、適正な価格はどのくらいか?コンサルタントの実績で判断する場合のポイントは何か?イメージだけで判断していないかなど色々な課題があります。
(3)調査診断による現状把握
大規模修繕の第一歩は、調査診断により現状把握を十分に行うことが大切です。人間の健康診断と同じで、この調査診断が的確でないと無駄・無理・失敗の原因となります。
現状把握の不足、不具合が生じている場合の原因追跡の不足、居住者意見の公聴が十分でないなど、最初の調査診断の段階でミスをすると、大規模修繕の失敗につながります。
(4)設計検討、設計図書の作成
次の段階は設計検討、設計図書の作成となりますが、この段階を安易に考えると大規模修繕失敗の原因になりかねません。設計図書内容の把握が不十分だと、工事内容の誤解も起こりやすくなり、トラブル発生の要因になります。特に、工事内容やマンション規模に合致しない施工会社を選定してしまうことが心配のタネです。慎重・公正なる判断が大切ですが、そのためには必要十分で正確な情報の収集と選別が大切になります。
(5)総会開催:大規模修繕工事に関わる承認
施工会社が決まり、大規模修繕の概要が固まった段階で、総会を開いて、大規模修繕工事に関わるマンション居住者の承認を得る必要があります。
総会では、もっぱら工事内容の説明に終始する議案説明と手落ちのある回答が目立ちます。この段階でマンション居住者のみなさんの合意形成が十分になされていないと大規模修繕工事の失敗につながります。
(6)工事説明会開催:居住者に対する説明
居住者に対して工事説明会を開催するわけですが、往々にして、工事範囲をち密に伝えられない説明会が少なくありません。素人の居住者にも理解してもらえるよう丁寧な工事説明会開催に留意する必要があります。
(7)工事着工:契約書
次の段階として、工事契約書を交わして、工事着工を
するわけですが、この際、契約書内容の把握不足のため、後々大きなトラブルにつながることも少なくありません。コンサルタントなど、第三者のチェックを経て、十分に了解した上で契約することが大切なことは言うまでもありません。
(8)工事進捗の報告会議と問題点の協議
工事途中においては工事進捗の報告会議を定期的に行い、そのつど問題点がないか協議する必要があります。
その際、発生する問題をすべて施工会社に解決を押し付けるだけでは、適切な問題解決の手法とは言えません。
相互の信頼上で、問題を解決するのが失敗しない大規模修繕の秘訣です。
(9)工事竣工:引き渡し
工事が竣工し、引き渡しとなるわけですが、この際、引き渡し書類の内容を十分に確認する必要があります。
この確認がいい加減であったり、不足していると、後々トラブルの原因となります。第三者の専門家にもチェックしてもらうことをおすすめします。
(10)瑕疵対応:アフターサービス点検
大規模修繕が終了したらすべておしまいというわけではありません。アフターサービス点検や瑕疵対応にも十分な配慮が不可欠です。
とかく理事交代による情報伝達の不足やアフターサービス点検の煩雑さから逃れたいとう役員の姿勢や傾向も失敗のタネになります。
(大規模工事工事新聞 139号)