1.マンション大規模修繕工事の実情とは
■平成30年度全国マンション総合調査結果/国土交通省
・長期修繕計画の作成
「作成している管理組合」90.9%
・長期修繕計画の期間
「30年以上」60.0% 「25 ~ 29年」12.7%
・長期修繕計画作成の委託先
「管理会社」43.4% 「設計事務所」30.3%
・大規模な計画修繕の検討のきっかけ
「長期修繕計画に基づく」54.7%
・大規模な計画修繕の工事内容
「 外壁塗装工事」88.0% 「鉄部塗装工事」77.5% 「屋上防水工事」73.2% 「床防水工事」61.1%
・大規模な計画修繕の検討方法
「 理事会とは別に専門委員会等を設け、そこが中心となって検討した」48.6%
「 専門委員会等の組織は作らずに理事会が中心となって検討した」43.7%
「建築士等の専門家に依頼した」17.9%
・大規模な計画修繕工事の工事内容の決定方法
「建物の各部の劣化状況の調査・診断を実施した」49.1%
・建物・設備の調査・診断の依頼先
「マンション管理業者に依頼した」53.7%
「建築士事務所に依頼した」17.6%
「調査・診断専門業者に依頼した」12.9%
・修繕積立金残高の充当割合
「修繕積立金残高全部を充当した管理組合」18.8%
「残高の一部を充当した管理組合」63.2%
・残高の一部の充当割合
「80%超90%以下」12.8% 「70%超80%以下」11.4%
・大規模な計画修繕工事の発注方法
「責任施工方式」44.7% 「設計・監理方式」34.8%
・施工会社の関係性
「このマンションの管理会社」28.3%
「このマンション以外の専門工事業者」27.7%
「このマンション以外の総合工事業者」25.1%
・発注・業者選定の方法
「相見積もりをとっている」85.5%
「区分所有者向け説明会を開催している」64.7%
「アンケート等で住民の意向を反映している」39.0%
大規模修繕工事新聞(137号)
■調査結果から言えること
調査結果をまとめて、大規模修繕工事の平均像を想定すると…
管理会社が作成した長期修繕計画に基づき、管理会社が大規模修繕工事の時期が来たから検討した方がよいと提案したので、検討をはじめた。そこで理事会の諮問機関として修繕委員会を結成。その修繕委員会が中心となって管理会社に調査診断を委託し、住民アンケートや説明会を開催した。施工会社は、相見積もりをとった上で、貯めていた修繕積立金のうち約90%を予算化し、外壁、屋上防水、鉄部塗装、床防水を含む大規模修繕工事を管理会社に発注した。
調査結果の回答の一番多い数字のところを組み立てて、大規模修繕工事の平均像を想定すると、このような実情が浮き出てきました。
これはいったい誰のための工事と言えるのでしょうか。
本日の副題である「管理組合の自主・自立・主体性」はどこにあるのか。大規模修繕工事の主人公がいったいどこにかといった疑問をぜひ持っていただきたいと思います。
2.自主・自立・主体性のある管理組合を目指すために
■情報弱者という立場を克服する
調査結果から裏付けられるひとつの事実として、「情報」に関してのさまざまな弊害があるゆえに、さきほどの内容になっていると、我々はずっと提言してきました。
必要とする情報の入手先が限られる、入手した情報が果たして真実なのか、それは全部か一部か―。すなわち管理組合は「情報弱者」であると常々申し上げています。その上で、管理組合の自主・自立・主体性が発揮されるためには、管理会社以外からの客観性のある情報が必要不可欠です。
では、その「情報」とは、どういった情報である必要性があるのか。つまり住民目線の理事や委員、住民目線の工事、住民目線の管理に必要とされる客観性のある情報が不可欠であると考えられるのです。
こうした積み重ねが情報弱者という立場を克服し、自主・自立・主体性のある管理組合につながるものとなります。
自主・自立・主体性のある管理組合を目指すには、次に客観的な情報を生かすための組織が必要となります。
そして理事会・委員会の皆様が、その自覚と役割の重要性に気付くべきです。せっかくの客観性のある情報があっても、それらを生かすためには「動く」という役割の方の重要性が欠かせないのです。
① 月1回だけの理事会の時間だけの理事ではダメだという認識を持つ!
多くのマンションは、月に1回程度は管理会社からの報告を聞き、管理の諸案件についての議事進行を図るということで、理事会を開催していますが、なぜかこの理事会の時間、その1~2時間だけ理事だと思っている方がいます。理事の任期は1年が多いですが、その間ずっと理事なんです。管理組合のために働いてくださいというわけではありませんが、せめて意識を持ってもらうことからはじめてもらいたいと思います。
管理会社にペースを握られないためには初回から3回目くらいまでの理事会が重要です。「前期からの引き継ぎです」「総会決定したので問題ありません」「以前からの慣習です」といったキーワードに注意してください。疑問に思うことは口にすることが大切です。言わないことは承認したものとみなされます。
いずれにしても理事会の時間だけでの理事ではダメです。
② 自分のマンションの屋上から1階まで共用部分を歩いて隅々まで見て回ろう!
マンションとは不思議なもので自分の住んでいる階以外は行ったことがなく、滅多に行かないという人が多いんですね。ましてや屋上、あるいは車を借りていない人は駐車場の回りなんかも歩いたことがない、自転車を借りていない人では自転車置き場回りも歩いたことがないという人が多いのではないでしょうか。
理事というのは管理組合の業務を司る執行役、つまり代表です。自分たちが所有し、管理し、守るものがどこからどこまでで、どのようなものがあるのか、そうしたものに対して知っておくことが重要です。
ひょっとすると危険な個所があるかもわかりません。(逗子マンションの崖崩落事故のように)事故が起きてから後手後手で対応することがあってはなりません。
③管理組合に保管されている資料をしっかり見よう!
決算上に関する帳票とか管理上に必要とされる契約書等、実務の手配は管理会社が行うこととなりますが、主体は管理組合です。管理事務所には管理に必要な情報資料が保管されていなければなりません。
そこには図面や管理規約、総会議事録など、これまでの管理組合の記録が整理されています。築年数が経ってから理事になられた方、過去のことを管理会社からだけ聞き、情報を整理するという方が大変多いのですが、情報資産は管理会社ではなく、管理組合、そして管理事務所に保管されているという事実があるのです。
自分たちの管理組合の歴史を自らが把握することが重要で、情報弱者にならないためにも自分たちの資料を自分たちの目で見るということが非常に大事な理事の主体性のある役割と考えられます。
④お金に関わることをキッチリ確認する!
管理組合の場合はみなさんから集めたお金ですので、無駄にしてはいけないし、その管理もきちっとする必要があります。管理組合名義の口座がどうなっているのか、分別管理しているのか管理会社に確認しましょう。
金融資産と同様に、損害保険、火災保険の証券や書類がどこにどのように保管されているのか確認したことのある方はいらっしゃるでしょうか。そういう方は結構少ないんです。
保険加入を認識していても、どのくらい適用範囲があるのかよくわからないという方が多い。せっかく保険が使えるのに無駄な出費をし、実費で直していたなんていう例もあるくらいです。
小口現金が現場(管理事務所など)にある場合も出納長の確認は必要です。お金のことをキッチリ把握することも主体性のある理事の役割ではないでしょうか。
⑤ 水害等の災害や火災など緊急時の対応はどうなっているか確認する!
不動産の仲介あるいは賃貸等の住まいの重要事項説明等において、昨今は地域の水害等のハザードマップや避難場所について一定の説明が必要と言われているくらい、さまざまな災害への関心が高まっています。
当然、災害が起きてからでは遅いわけで、あらかじめ自分のマンションがどういう風になっているのか、どういう地域にあるのか、設備はどういう状況にあるのか把握しておくことが大切です。それから災害対応範囲はどこからどこまでが管理会社への委託範囲で、どこからが管理組合の自己責任なのか、区分けをしておくことも必要です。
関東地方で大雪があったとき、雪かきはだれの仕事かという話が話題になり、雪かきをしないと駐車場から車が出せないから仕事に遅れたなど、トラブルやクレームにつながった例があります。降雪地帯ではないマンションでの委託契約の中に雪かきが常識的に業務範囲に入っている例はありません。そうしたこともあらかじめ知っているか知っていないかによって自主的な対策が変わってくる。こうした災害トラブルにおいてどのような対応が必要なのかということは理事としてあらかじめ認識しておく必要があるということを申し上げます。
3.情報ツウの管理組合になるために
■行政の発信する情報を利用する
行政の発信する情報・資料は、ホームページから簡単にダウンロードできます。例えば国土交通省は「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」「長期修繕計画作成ガイドライン」等、多数あり、こうしたものが費用をかけることなく、管理組合の方だれでもが入手できるようになっています。
自分のマンションの修繕積立金は高いのか安いのか、世間相場はいったいどのくらいなのか知りたいなと思ったときに、これをみれば一目瞭然という情報が入手できるのです。同じことを管理会社に聞いても、いつまでたっても答えは返ってきません。「他のマンションについては守秘義務があるから言えません」などという話が返ってくるとよく聞きます。
契約上の限界もありますが、パブリシティとして発信している資料があるわけですから、行政の発信する情報を上手に利用した上で、情報弱者から脱却していただきたいと考えます。
自治体による管理組合向けの支援制度としても、アドバイザー派遣、改良工事費の助成などがあり、各自治体のホームページで簡単に検索ができます。知らずに進めるのと、知って進めるのと大違いです。
■全建センターの各サポートを利用する
1)大規模修繕工事時のサポート
TM方式・セカンドオピニオン制度・理事長マスターコース・小修繕プラン・事前瑕疵調査・駐車場平置き工事会社紹介サービス・建物診断・完成保証制度・18年周期パック
2)マンション管理の業界情報の提供
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