一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が4月25日、オンラインで開催した第51回管理組合セミナーの模様を紙上採録します。今回は大規模修繕工事新聞に連載コーナーを持つ山村行弘弁護士と全建センター・佐藤成幸筆頭理事が「管理組合が自主・自立・主体性を持ち、判断、運営する秘訣について考える」をテーマにした対談内容を掲載します。
発注者という立場の管理組合、「主体性を持って」
工事完成後の瑕疵問題の考え方
佐藤成幸筆頭理事:ここからは弁護士の山村先生を迎えて、管理組合の自主・自立・主体性といった観点から、「管理組合が判断、運営する秘訣について考える」をテーマに法律あるいは弁護士としての役割等について、対談という形で進めていきます。
早速一点目ですが、常にトラブル事例の上位に位置するもので、建物の不具合があります。私どもセンターにもさまざまな相談がありますが、この建物の不具合の件が最も多く、具体的には漏水、雨漏り、これらを含めたアフターサービス、瑕疵問題というものが5割程度あると、このような実情です。原因はいろいろあると思っておりますけれど、管理組合はどのように対処すべきかということを助言してほしいと思いますが、いかがでしょうか。
山村行弘弁護士:まず前提として、大半のマンションが令和2年4月に施行された改正民法前に購入されたものだと思いますので、ここでは改正前の民法が適用されることを前提としてお話します。
法律上、売買の目的物に瑕疵があった場合、その瑕疵について、買主が売主の責任を追及する制度があります。これを瑕疵担保責任といいます。
瑕疵担保責任は売買の目的物に、注意していても見つけられない瑕疵があった場合に損害賠償や契約の解約が認められる制度です。さらにマンションなどの新築住宅の売買の場合には、住宅品質確保促進法が適用されます。住宅品質確保促進法では、建物の構造耐力上、主要な部分または雨水の浸入を防止する部分について、買主の売主に対する瑕疵修補請求を認めています。
建物の瑕疵が専有部分の場合は、基本的に当該専有部分の区分所有者が販売会社に責任追及をすることになります。責任追及の方法は、その欠陥が修繕可能なものであれば修繕を求め、修繕が困難な場合にはその点についての損害賠償の請求が可能です。
共用部分に瑕疵があった場合には、管理組合が専有部分に欠陥があった場合と同様の対応をとります。また専有部分でも多くの区分所有建物に共通の場合や共用部分と関係がある場合には、各区分所有者の対応に任せず、窓口を一本化して管理組合で交渉を進めたほうが有利な結果が得られる場合もあります。
佐藤:令和2年4月以前に、例えば管理組合が大規模修繕工事を発注し、工事完成後に漏水があったというケースはどのような考え方になりますか。
山村:改正前の民法を前提に話しますが、大規模修繕工事において瑕疵があったということは、請負人である施工会社が瑕疵担保責任を負うことになります。この場合、注文者(管理組合)は瑕疵修補(修理をするなどして欠陥を補うこと)あるいは損害賠償請求を行うことができます。
これらの請求ができる期間は、民法上の原則では石造りやコンクリート造りなどの堅固な建物では10年間です。ただ実際の契約では特約や約款などで2年間というようにかなり短い期間に瑕疵担保責任を短縮されてしまっていることが多いのが実情です。
引渡しから数年経過してしまうとその後に欠陥や瑕疵が発覚しても損害賠償請求などができなくなってしまうことになり、これでは注文者や買主の保護が十分とは言えません。
そこで住宅品質確保推進法は住宅の新築工事に関して、住宅の構造耐力上、主要な部分または雨水の浸入を防止する部分の瑕疵については、瑕疵担保期間を引渡しから10年間として、住宅取得者の保護を図っています。
佐藤:私ども全建センターに寄せられる相談には施工会社とのトラブル、補修が必要な漏水が起こったにもかかわらずず速やかにそれをやらない、のらりくらりと話をされていつまでたっても改善する兆しがないという話が少なくありません。
管理組合が発注者という立場なのだから、「主体性を持って」ということは理解できるものの、実際は素人集団です。それが施工会社に対して何かを要望するということは非常に難しいという声も多々寄せられます。
このような場合、先生のような立場の弁護士が売主あるいは施工会社の折衝について、管理組合の代理人という形で仕事をしていただくということは可能なのでしょうか?
山村:はい。可能です。売主や施工会社は瑕疵担保責任を追及された場合、瑕疵の存在について争ってくることが多々あります。また売主や施工会社が弁護士を立てて瑕疵の存在を争うこともあるので、管理組合としても弁護士を立ててこれに対抗すべき場合もあるでしょう。加えて最終的に売主や施工会社と和解する局面においても、和解書は売主や施工会社が素案を作る場合が一般的ですので、その素案が管理組合側に不利になっていないかどうかを確認するためにも弁護士に依頼して入ってもらう必要があると思います。
佐藤:最後の最後は管理組合が書面を交わす形で相手方との合意し、履行というものになるわけですから、きちんとした書面をお互いに締結するうえでも弁護士の目線があれば安心ですね。管理組合という立場で弁護士に代理人を委任できるということもよくわかりました。
管理組合内部のトラブル
佐藤:管理組合内部、役員関係に関するトラブルで、相談を受けた、あるいは助言した経験で気づいたことを教えてください。
山村: 理事会のメンバーを含むマンションの住民はどうしても人間関係であったり、利害関係というものがありますので、冷静な判断で対処することが難しい局面も多々あります。大規模修繕工事の発注において、業者選定の過程における役員の不法行為、不当な介入といったような利益誘導といったようなケースがあります。一時、不適切コンサルタントということで、建築コンサルタントあるいは管理会社が特定の施工会社に対して工事が発注されるように誘導してバックマージンもらっていたという事例がたいへん問題になったのですが、今それに代わるような勢いで役員の不法行為が問題になるようになってきています。
ところが、本来、マンションは有益なコミュニティを作ることを前提としているわけですから、あの人には意見が言いにくいなとか、こうしたことはやめてくれということが言いにくいということになります。ですので、住民ではなく、利害関係のない、弁護士などの法律の専門家が問題に対処することが望ましいと考えられます。
佐藤:私自身、マンション管理士という立場でさまざまな管理組合のお手伝いをしたときに、相談を受けた事例を申し上げます。
とある管理組合理事長からの相談で、特定の人たちから言われもなき誹謗中傷を受けているという話です。理事長個人名をあげたビラの掲示、理事長が提案したことへの反対意見の戸別配布、こうしたことを一方的にやって、他の区分所有者に披露して攻撃するというようなやり方です。
こうした人たちは「私たちには意見をいう権利がある」と、権利のことばかり言うのですが、実際何があったのか聞いてみると、理事長に非があるわけでもなんでもないんです。よくよく聞くと、管理規約上のルール違反をしていたことに対して、理事長の立場から注意喚起されたと。そのようなことが過去に一度だけあったということでした。
感情というものがこじれたと言ってしまえばそれまでなんですけれども、結局個人的に何か指摘をされた、この理事長が嫌いだ、気に入らないという、根拠のない逆恨みですね、
そうしたことから先ほどのような行為までエスカレートするようになるのです。
相談を受けた私は、これらに関しての行動解決の方法として、弁護士などの専門家を通じて客観的なものの捉え方をするよう助言を申し上げました。
山村:理事会のメンバーを含むマンションの住民はどうしても人間関係であったり、利害関係というものがありますので、冷静な判断で対処することが難しい局面も多々あります。
ですので、住民ではなく、利害関係のない、弁護士などの法律の専門家が問題に対処することが望ましいと考えられます。
理事の高齢化問題
佐藤:輪番制で理事を決めているけれど、高齢すぎて職責をまっとうできないという理由から断られるという相談を受けるようになりました。
さらに理事になってもだいたい月1回、理事会を2時間程度開催するんですが、その2時間だけの理事で、平時の共用部分の管理等については、何らの注意喚起も図らない、関心がないという実例も聞きます。
理事といったボランティアの性格から、理事会のときだけ理事の仕事をする、協議だけするとなりがちですが、管理組合の自主・自立・主体性となった場合に、本当にそれでいいのかというような思いを強くしております。
管理組合の自主・自立・主体性の要(かなめ)というのはやはり理事ですので、なり手不足も含めてトラブルなく、うまくいかないものかと考えております。社会問題の解決、法律上の改正といったようなものも必要ではないかと思うところがあります。
山村:役員の人材不足は深刻な問題です。特に若い子育て世代や共働きの夫婦世帯は常態的に忙しくて、管理組合の運営に関わることが難しいことが多いので、高齢の方だけで理事会を運営されているケースをよくみかけます。本来は世代に関係なくより多くの方が理事を経験して管理組合の運営にも興味を持っていただきたいのですが、実情としてはなかなか難しい問題といえます。
また高齢の方が理事会のメンバーの大半を占める場合において、理事の中には現役時代、社会的にとても高い地位にあった方々も多くあります。そのような場合、つい現役時代の感覚が戻ってしまうのか、理事会においてほかの理事に対してパワハラ的な言動をとられてしまい、理事会全体の進行が阻害されてしまうというケースもありました。
この場合、理事会内でこの問題を解決することがなぜか難しく私が第三者的な立場から当該理事を説得したという経験があります。
管理会社と管理組合の関係性
佐藤:トラブルについて、管理組合が第一に相談する先というのは管理会社です。専門性の高い担い手・相手役として管理会社が身近にいるからという理由が多いんですけれども、管理会社は、売主の系列会社が多いんですね。独立した法人とはいいながら、何かドメスティックな論理が働くのではないかと疑う余地がないわけではありません。
こうした問題については弁護士が代理人になれるんだという情報をいただきましたが、中には弁護士に相談すること自体がすぐに裁判だ、あるいは相手方を怒らしちゃうんじゃないかとか、険しい道を選択するものだと頭から思い込む方が非常に多いかと思います。
どうか安心した上で管理組合においては自主自立主体性をもったセッションには弁護士が強い味方、代理人になれるんだということも観点においていただければと思います。
山村:弁護士に依頼することについて、ハードルが高いと思われる方も多いと思いますが、まずは法律相談だけでも行ってみることをおすすめいたします。
佐藤:先生自体、マンションに住まわれ、理事を経験なされそうですが、その経験を踏まえてどのようなことがありましたか?
山村:弁護士になりたての頃、自分の住んでいるマンションの理事になったことがあります。
管理組合の運営や委託契約の内容についてはまったく知識がありませんでしたので、当時管理会社から言われるがまま、フロントマンの方から管理業務の報告を受けていました。
ある程度知識を持ったうえで理事になれば管理委託契約に基づいた適切な報告がなされているかどうかをチェックすることができたのに、と今やっと反省しています。
佐藤:先にも申し上げましたように、管理組合のトラブルの第一の相談相手として一番多いのが管理会社です。ただ瑕疵の問題、管理組合内部のコミュニティの問題をとってみても、その解決全般を最初から最後まで管理会社に委ねるといったことは、実際好ましくありません。
管理会社といった営利団体と、管理組合といった素人集団との距離感が微妙なだけに、トラブルの解決役として入ってもらうことは、委託契約の面からも関係性の面からも難しい。
ぜひ法律のあるいはトラブル解決の知恵袋として弁護士の活用を管理組合理事会に置かれてはご一考いただければと思います。
山村:繰り返しになりますが、あまり構えずにどうぞお気軽にご相談ください。マンションにおいて生じる問題は、利害関係のない弁護士が介入し、対処するほうがスムーズに解決することが圧倒的に多いと思います。また自分たちで問題解決しなければならないというストレスを回避できるメリットはとても大きいと思います。
弁護士費用がいくらかかるかわからないという心配もあるかもしれませんが、その点についてもぜひお気軽にお見積もりをご依頼いただければと思います。
(大規模修繕工事新聞 138号)