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第52回管理組合オンラインセミナー/大規模修繕工事18年周期のための 3つの変化と1つの継続

 一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が6月27日、オンラインで開催した第52回管理組合セミナーの模様を紙上採録します。今回は「大規模修繕工事18年周期のための3つの変化と1つの継続」と題して、全国建物調査診断センター・筆頭理事の佐藤成幸氏の講演を掲載します。講演の内容はYou Tubeにより動画配信を行っています。

◆大規模修繕工事18年周期について
 18年周期の大規模修繕工事の実現化のためには具体的に次の3つの「変化」と1つの「継続」が必要です。

①意識の変化
 変えるべき「意識」とは、そもそも、持つべき「意識」とはどういったものでしょうか。
 まず変えるべき「意識」とは何か。これは「12年周期で大規模修繕工事をやらないと大変なことになる」という恐れの意識、「やらなくて何かあったら大変だ」という根拠のない恐れ─変えるべき意識は大きく、この2つです。
 次に持つべき意識とは何か。「大規模修繕工事の実施時期は建物調査診断等の技術的根拠を基にする」「不要不急の大規模修繕工事は修繕積立金の無駄使い」という、この2つの意識です。この「意識」をしっかり覚えていただきたいと思います。
 特に私どもが相談を受ける中で、大規模修繕工事をなぜやるんですかと聞くと、「計画にあるから」「12年経ったから」と当たり前のようにお答えになる方が多い。「やらなくて何かあったら大変ですよと管理会社から言われた」とか、「管理会社の言葉をきっかけに大規模修繕工事をやることになった」ということがヒアリングをしていて非常に多いです。
 国土交通省のマンション総合調査においても同様な傾向がうかがえます。全国どこでも同じような動向があるものと考えられます。だからこそ、12年周期の大規模修繕工事が神格化して、一人歩きしてしまったんですね。
 持つべき意識は、大規模修繕工事は技術的根拠を実施時期としようというものです。年数ではありません。逆に10年でやらなければならない場合だってあるのです。技術的な根拠をしっかり持ったうえで自分のマンションの最適な実施時期を見定める、こうした事実に基づいた根拠を持ったうえで大規模修繕工事の時期を定めていくことが必要です。
 やらなくてもいいのに、「どうせやるならどんとやってしまいましょう」という方もいますが、これは修繕積立金の無駄使いだという意識を持ってください。
 1回で済むものなら早くやっても遅くやってもいいのですが、大規模修繕工事はサイクルがあります。早くやってしまえば、次のサイクルも早く来てしまいます。12年周期でやれば24年で2回、36年で3回、18年周期であれば36年で2回で済むと、この違いは非常に大きいわけです。
 12年周期にこだわる必要はないですよと国交省のマニュアルを引用して過去何度も申し上げてまいりました。国交省の
「計画修繕と改修の重要性」に、大規模修繕工事は「12年程度」と書いてあることだけを抜き出して、ここだけ一人歩きしてしまったことが原因ではなかろうかと申し上げてきました。
 同じマニュアルで、12年でやれということはひとつも書いていないという事実も話しました。10年~ 15年周期で具体的な躯体の改修工事、あるいは外壁の塗装工事をやると書いてあります。特に防水工事は、仕上げの状態によっては18年~ 25周年周期で実施することも十分可能であると、マニュアル自体に書いてあります。
 「12年周期」ありきでないことを過去何度も申し上げました。改めて皆様に理解していただきたいと思います。
②組織の変化
 新築以来、大規模修繕工事を18年周期でやろうとすれば、常設委員会による継続性のある検討、点である大規模修繕工事を線でつないでカバーしていく、途切れ目のない修繕の検討が
必要です。1回修繕したことを2回目に生かせ、3回目は1回目と2回目を踏まえた上で実施する。そして工事と工事の間も常に委員会が目を光らせておいて、大規模修繕工事を点ごとのイベントにしない、このような環境の組織が必要だと考えています。
 建物に関しての知識のシンクタンクになる、情報の集約どころになる、このような委員会が望まれると考えます。
 特に18年周期を実践しているマンションの事例では、この組織が非常に分厚い、みなさん熱心に活動なされています。
③計画の変化
 変えるべき計画とは何か。「管理組合が関与していない、管理会社あるいは売主が作成した長期修繕計画は変えるべき計画である」「技術的根拠なく機械的に12年周期で存在する大規模修繕工事の計画は変えるべきである」。
 では、管理組合にとって本当に必要な計画とは何か。
 「根拠のある大規模修繕工事時期が設定できる長期修繕計画であること」「大規模修繕工事さえやれば大丈夫、マンションは安泰だ、そして修繕に無関心とはならない計画」が必要な計画であります。
 大規模修繕工事にいきなり取りかかるのではなく、その前には必ず建物の調査診断をやります。これを含めて計画に盛り込むことが必要なんです。大規模修繕工事の2、3年前に調査診断を実施する、そして工事が計画年数どおりに必要かを見極めます。工事だけを入れた長期修繕計画ではなく、建物調査診断の予算計上を入れた長期修繕計画が必要です。
 この調査診断結果により大規模修繕工事の具体的時期を前倒しする、あるいは後ろ送りに修正することが必要です。
④変化の継続
 最後に、1つの「継続」です。では、管理組合にとって必要な「継続」とは何か。
 ・理事会が交代するたびに変えない基本方針
 ・ マンションの維持管理には短期目線のもの(日常の修繕/小修繕=管理費予算)と中長期目線のもの(大規模修繕工事=修繕積立金予算)があるという認識を持つ
 ・ 区分所有者であれば誰もが理事になる可能性がある、権利がある、義務があるという視点を忘れない
 これらを継続的に持っていることが必要だと考えます。 理事が交代するたびに使うべき予算についての比重が変わっていく。大規模修繕工事のたびに重点を置く部分が変わってい
く、なるべく安く上げたい、なるべく長期に使いたい、工事のたびごとにコンセプトがバラバラになる。
 どうしてこういうことが起こるのでしょうか。「継続」という意識が欠如しているからだと思います。
 たとえば、敷地にデッドスペースがあり、それを有効活用したいという場面があったとします。変化の継続を考えたときに目標として、子育て世代に優しいマンションにしようとした場合、そのスペースには子どもが遊べる遊具を設置するような発想になる。工事をすることになれば、子どもが遊べる遊具に対してお金をかけましょうという発想になります。
 一方で、高齢者に優しいマンションにしていく意識があれば、遊具ではなく高齢者がくつろげるベンチを設置しようということになります。これはどちらも正解で、中長期的にご自身が住んでいるマンションをどういうコンセプト、どういう方向性にもっていきたいのかを決めておくことが必要だということです。
 自分たちのマンションに、どのような付加価値をつけていくのか。その目標を設定することが大事です。その定めた目標に対しては、理事が交代していっても、その目標値に寄り添った施策に対して行動していく、維持管理をしていく。背骨を1本通し、そこに肉付けしていくものがバラバラにならないようにする。限られたお金の有効な使い方というのはこういうことではないでしょうか。
 目標が違えば、工事内容も異なります。これは何が正解かということではありません。自分たちの家として、どう住まいたいか、どう形付けをしていくのか。それはまさに住んでいる皆さん方で、話し合って決めていくのです。
 適切な維持管理のためには、この2つの目線(中長期目線、短期目線)と、3つの項目(①日常修繕、②メンテナンス、③事故・不意の損傷)の工事をミックスしながら組み立てていくことが管理組合としてはたいへん重要なものになると思います。
 こうしたことを経ることで18年周期の工事により付加価値が付けられ、工事の意義も上がり、住まいの居住価値も上がることにつながります。単なるハードの修繕にとどまらない家としての付加価値づけをしていくことによって、長く住む価値があるような家づくりに貢献できるものと考えます。

大規模修繕工事新聞 141号

全建センター・佐藤成幸筆頭理事(You Tubeより)