大規模修繕工事における材料価格について、昨秋より各種メーカーからの価格改定が相次いでいます。主な原因は、昨今の原油需要の急拡大、物流(運送)価格の上昇、円安等による原材料の高騰です。新型コロナウイルスのまん延による世界経済の停滞もそのひとつに上げられます。その他にも、人件費の最低賃金の上昇など、さまざまな要因が工事費に反映される結果となっているのです。
ところが、工事会社は発注者(管理組合)との力関係、コスト競争などから、見積額を極限に落として受注に結び付けようとしているのが現状です。
この影響が工事の品質に跳ね返ってくることは容易に考えられます。必要経費が値上がりしている実状があるにもかかわらず、全体工事費のコスト競争により、工事会社を選択するのであれば、その穴埋めは施工性に求めるしかなくなるからです。
では管理組合として、どのような対応をすればよいでしょうか?
まずは、材料価格の現状からみてみましょう。
(大規模修繕工事新聞 147号)
◆塗料の主要原料
・ 顔料(チタン白・カーボ
ンブラック・亜鉛末・炭酸カルシウム…)
・ 樹脂(アクリル・ウレタン・シリコン・エポキシ…)
・ 溶剤(ミネラルスピリット・トルオール・キシロール・メタノール…)
◆価格改定例
①シンナー:15 ~ 20%
◆防水材の原材料
・塩ビ樹脂
・ウレタン系製品
・アスファルト系製品
◆価格改定例
各種:10 ~ 15%
◆シーリング材の原材料
・シリコーン(金属ケイ素)
・ メタノール(メチルアルコール)
◆価格改定例
①ボンド製品:10 ~ 15%
② シリコーン関連製品:40 ~ 50%
◆スチール材・アルミ製・ステンレス製の原材料
※ 玄関扉、サッシなどのカバー工法による建具更新、面格子など金物関連の更新が対象
◆価格改定例
各種:10 ~ 15%
☞原産国である、①アメリカの寒波による供給制限、②中国経済の復調に伴う需給ひっ迫、その他国の物流制限などによって、需要と供給のバランスが崩れています。
特に、液状エポキシ樹脂が世界的な需要逼迫により、大幅なコストアップが避けられない状況にあるとされています。
さらに物流(運送)価格も10 ~ 30%の値上げが材料費の中に見込まれています。
※ 価格改定例については、メーカー・販売会社のホームページでご確認ください。
【工事会社の対応】
工事会社としては、原材料が高騰しようがコスト競争をくぐり抜けて工事を受注しなければなりません。
とはいえ、落としどころを人件費の削減とすると、工事の品質が低下し、工期通りに工事は終わらなくなるなどの弊害が出てきます。
加えて東京オリンピックの前は工事が集中すること、その中で発生したコロナ禍で、2年程度工事の実施を延期した管理組合も多く、現在は現場代理人や作業員が不足しています。
ある工事会社の積算担当者は「原材料の高騰、人材不足、コロナ対策等を管理組合に理解してもらい、10 ~ 15%を見込んで工事費を設定することが妥当だと考えてほしい」と、全体工事費の値上げへの必要性を説いています。
あるメーカーのみが価格改定をしているのではく、世界で起こっている問題が起因しているため、材料費の高騰を否定することはできません。できることは、「発注者、メーカー、工事会社(元請け、下請け)みんなが協力して乗り越えていく」ことだと話していました。
【発注者側の留意点】
発注者(管理組合)側とすると、安易な価格による比較は避けることが望まれます。
別の工事会社の営業担当者は「マンションに適切な対象工事はどこか、どのような工法がよいか。さまざまな選択肢の中から結論を出すことが賢明です」と提案します。
安い見積もり金額でどのように工事をするのか、このような理由があるからコストダウンができる、またはできないなど、工事会社にしっかり話を聞いて学んでいくことも必要です。
安易な価格競争、コストダウンは、どこかでつじつまを合わせなければならなりません。見積比較だけでなく、ヒアリングで突き詰めれば、できる工事とできない工事がわかってくるでしょう。
そうすると工事計画の見直し、対象部位の優先順位、工法の比較など、次のステップを進んで、さらに工事の理解が深めることが必要になります。「値下げ交渉では、良い工事はできない」理解もさらに深まるでしょう。
大規模修繕工事と同じく、原油価格の高騰で石油化学製品が値上がりし、塩ビ管やポリエチレン管なども価格改定を行っています。
原油価格の度重なる値上がりに管工事の資材を取り扱う販売会社も「合理的な会社努力では対応しきれない」として、価格改定に踏み切ったと話していました。
◆価格改定例
①樹脂管・継手:10 ~ 20%
②ポリエチレン管:10%以上
③特殊継手:30%以上