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滞納管理費の消滅時効責任は時効完成時の在任中理事長 総会承認ない不正支出含め、約640万円の支払い命じる

【事案の概要】

原告:管理組合法人
 被告:元理事長
 管理組合法人が原告となり、元理事長であった被告に対し、①管理組合経費の不正支出、②滞納住戸に対する管理費等の請求の怠慢と請求権の時効消滅により発生した損害額、それらの合計約640万円を求めた事案。

 

【前提事実】

ア)区分所有者数は15人
イ) 第20期(平成18年4月)の臨時総会で被告が理事長に就任(理事5人・監事1人)。
ウ)臨時総会後の初回の役員会合での確認事項
 ・ 従来の管理規約を全面棄却し、新規約の制定・公表までは新理事会に全面委任する。
 ・ 管理組合の管理・運営上の問題が生じた場合、理事会開催までの期間や緊急事態への対処は理事長に一任する。
 ・ 理事長報酬を月額10万円程度で検討する(従前報酬は7万円)。
エ) 被告はマンション内に事務所を賃借し、管理組合経費の管理、帳簿の作成等を単独で行い、管理組合の預金口座の通帳・届出印を単独で管理していた。
オ) 第21期以降通常総会は開催されず、第22期~第25期まで7回開催された臨時総会では収支予算案の提出および承認、決算書の報告および承認は行われなかった。
カ) 平成25年9月、第27期通常総会を開催し、新理事長が選任された。
キ) 管理組合は平成26年6月、滞納者に対して催告を実施。これに対し滞納者は消滅時効を主張した。

【裁判所の判断】

①管理組合経費の不正支出605万7,123円
 ・ 総会による承認を経ずに権限なく行われた理事長報酬、トランクルーム費用、タクシー運賃、コンサルタント費用、外部との会議費および手土産代、飲食店利用の会議費の各支出は、管理組合の経費の支出として相当なものであったと認められない。被告による債務不履行と相当の因果関係がある損害であるというべきである。
② 滞納住戸に対する管理費等の請求の怠慢と請求権の時効消滅により発生した損害額30万4,500円
 ・ A所有者からの消滅時効の主張により、平成19年3月から平成20年9月(19カ月分)の管理費の合計14万2,500円の請求を断念した。
 ・ B所有者からの消滅時効の主張により、平成19年4月から平成20年9月(18カ月分)の管理費と修繕積立金の合計16万2,000円の請求を断念した。
 ・ 被告は管理費や修繕積立金を滞納していた所有者に対する時効中断の措置を適切に講じなかったことにより、これらの請求権の一部を事項により消滅させるに至った。被告が理事長に在任していた時期に時効期間が経過した分に対し、被告による債務不履行と相当の因果関係がある損害であるというべきである。

【コメント】

 区分所有法28条は、「この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う」としています。
そして、委任について民法644条は、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義
務を負う」と規定しています。
 このように、管理者である理事長は、法律上、その職務を行うについて、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負っています。
 本件では、
①理事長が管理組合の経費を不正に支出したこと、
②理事長が区分所有者に対する管理費等の請求を怠り、請求権を時効消滅させたことについて善管注意義務ないし職務を誠実に行う義務に違反したかといえるかどうかが問題となりました。

 この点、裁判所は
①理事長の在任期間中、総会において収支予算案の提出及び承認、収支決算案の報告及び承認を経ないまま、権限なく各支出(理事長報酬やトランクルーム費用、タクシー運賃、コンサルタント費用等)を行ったところ、当該各支出は本件管理組合の経費の支出として相当なものであったと認めることはできない、
②本件理事長の在任期間中、管理費や修繕積立金を滞納していた所有者に対する時効中断の措置を適切に講じなかったことにより、請求権の一部を時効により消滅させるに至ったと認定して、被告に対し、本件管理組合の理事長として負っていた善管注意義務ないし誠実義務に違反した債務不履行があると判断しました。

 専制的な組合運営について、経費の不正支出のみならず、滞納金の消滅時効を徒過させた点についても債務不履行が認められ、賠償責任を負わせた事例といえます。過去には会計理事が着服横領した金銭について当時の理事長と監査役員に賠償責任を命じた判決例(平成27年10月1日東京高裁)もあります。

 債務不履行は遡って追及されることがあるようです。輪番制であっても管理組合役員になられたからには、善管注意義務を心しながら、任期を務めていただきたいと思います。

大規模修繕工事新聞 149号

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