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オンラインにおける大規模修繕工事のコンサルティング手法

 一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が4月24日、You Tubeで公開した第57回管理組合セミナー「オンラインにおける大規模修繕工事のコンサルティング手法」の模様を紙上採録します。なお、これまでのセミナーは、You Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。

一般社団法人 全国建物調査診断センター 筆頭理事 佐藤 成幸 ・マンション管理士 ・一級建築施工管理技士

 コロナウイルス感染症も3年目に入りました。現在、全国的にまん延防止等重点措置も解除され、徐々に日常の生活を取り戻しつつあるものと思われますが、一方で第7波の懸念もあると言われています。
 明るい兆しが見えながら、今も感染症対策をやめることはできない状態です。「備えあれば憂いなし」と言いますが、何かことが大きくなってから、あるいは閉塞された時間等になってから、管理組合における、さまざまな大規模修繕工事の検討が滞ってはいけません。
 そこで、その解決策としての「オンライン化」というものがあります。今回は、こうした「オンラインにおける大規模修繕工事のコンサルティング手法」について、説明いたします。
理事会/修繕委員会でのオンライン化の実際
物件概要
 ○○県○○市
 29階、31階建てタワー2棟、13階建て高層2棟、計4棟
 総戸数900戸弱、別に商業棟あり
 ※2回目の大規模修繕工事
 大規模修繕工事の検討については、内容が多岐で、長期間にわたります。短くても1年程度の時間がかかる。その後、工事を行うことになるので、大規模な戸数、あるいは複雑な形状の棟などになると、検討期間が2年になるということも少なくありません。
 その打ち合わせの過程を非接触・非対面、つまりオンラインの環境の中で実施をしていくのが全建センターのオンライン大規模修繕方式ということになります。
 事例マンションでは、2021年2月以降の理事会、修繕委員会はすべてオンラインで実施をしました。その間、緊急事態宣言等も出されましたが、決めたスケジュールで、着実に打ち合わせを重ね、大規模修繕工事の検討を進めました。
○通信環境の整備
 各住戸にはインターネット回線が入っていますが、共用部分である集会室にはインターネット環境がありませんでした。このため、同集会室や、その他3棟のエントランスホールへの光ファイバーの導入を行いました。
 多棟型である、戸数が大きいマンションでは、どのように住民に対してきちっと情報を提供できる環境を整えるのか―さまざまな場所でインターネット通信が可能となる環境を整える必要がありました。
 集会室はもともと理事会や委員会等で30名ほどの人が集まっていました。コンサルティング側、施工会社側はそれぞれ拠点となる場所からオンラインで結んで対応することになりますが、マンション側では各人、ご自宅からオンラインで参加された方もいましたが、少なからず集会室に集まる人数もありましたので、大人数会議用の集音マイク、スピーカーを購入しました。さらに複数台のカメラの購入ならびに付属備品(三脚な
ど)を買っています。
 カメラが定点だけだと、意見をいう人が、カメラに入らず声だけ聞こえてくるケースがあります。カメラの角度を変えることができ、しかも複数台あり、切り替えがうまくいくと、発言される人の声だけでなく、映像も映し出すことができます。そうすると会議にリアリティーが出てくるんですね。
 パソコンの小さい画面では人数が増えると、参加者のコマが小さくなり一人ひとりの顔が見づらくなります。集会室では、プロジェクターから大きなスクリーンに映しながら会議を進めるよう機器の購入も行っております。
 こうした一連のオンライン化の流れは、組合員の理解がどうしても必要です。それはなぜかというと、事例マンションでは従来、共用部分でのインターネットの設備環境をまったく整えていなかったために、新たな予算が必要ということになるからです。
 実際に事例マンションは大所帯であったため、設備等の導入や購入に関しても大がかりとなり、この度のイニシャルコストでは数百万円の支出が発生したのです。これは社会的な流れからも、中長期的な視野からも必要な投資と考えられ、いつやるかの問題だけとして、管理組合内では理解を得、合意形成を進められたようでした。
 オンラインにおける総会や理事会は、国やマンション管理センターからの情報提供やマンション標準管理規約の改正もあり、事例マンションでも議決の有効性の担保のために管理規約や委員会細則等を見直しております。
○管理組合内部の合意
 オンライン化のメリットは、参加者が場所を選ばないということです。どこからでも参加できるということを逆手にとり、今回、修繕委員会は委員だけでなく、自宅でWi-Fi環境があれば一般の組合員も自由に視聴だけはできることにしました。
 それによって大規模修繕工事の内容について積極的に知ってくださいと、参加の呼びかけを行いました。
 この効果は大きく、自由参加者は多くはありませんでしたが、①修繕委員会の姿勢がオープンであることが証明された、②コロナ禍でみんなが閉塞感を抱いているところ、工事をやったらきれいになるんだという希望が持てるようになったのです。
 理事会・修繕委員会では「閉塞感の雰囲気打破のために全員参加によるムードの盛り上げが図れた」と話しています。先に控えていた工事説明会や総会でも、「非公開的な密室ではないか」「やっていることがわからない」などといったクレームがひとつも上がらず、ある意味大きな効果があったと言えると思います。
 オンラインを活用した大規模修繕工事の効果としては、まず、コロナ禍でも大規模修繕工事の協議が滞りなく進行できます。
これは事例マンションでも実証済みです。
 次に理事会や総会などの出席率が向上しました。この理由として、ひとつは「安心感」があげられます。理事会、委員会では非接触、非対面の機会が得れられるということで参加のハードルが下がりました。さらに自宅や会社などからでも、接続できれば参加できるので、場所が限定されません。
 同様に住民としても、総会や説明会への参加がしやすくなりました。自宅にいても服装でそのまま出られない、子どもがいて手が離せないから総会に出なかったなど、ほんのちょっとした理由で総会等に足が向けられないという住民が実は結構いたようです。そうした人たちも自宅にインターネット環境があれば、事例マンションでは大規模修繕工事に関する説明会や総会を全部オンラインでやったのですが、相対的な数として出席率が上がり、潜在的なニーズにマッチしていたことがわかりました。
 もちろん、事例マンション900所帯の中にあっても、理事会や委員会を起点としたコロナ感染の発生はゼロです。
 後々に気づいたことでは、「議事内容のデジタル記録化」で、録画モードがあることから、漏れなく記録ができることがわか
りました。ペーパーレス化で資料印刷の手間やコストが省け、副次的な効果も出ています。
 高齢者からコンピューターについていけないというクレームもありませんでした。むしろ、コロナの拡大を未然に防ぐ対策をしてくれていることで、賛同される高齢者が多くいらっしゃったのが印象的でした。
 オンライン化のソフトやアプリは、どれがそれぞれの管理組合にマッチするのか、前例がないためによくわからないところが当初ありました。事例マンションでは1回使用して、2回目から違うものに変えた経緯があります。
 他の管理組合においても今後のオンライン化にあたり、戸数や参加人数、会議の所要時間等、また予算的なものであっても、
のソフトやアプリが最適なのかよく調べた上で対応したほうがよいのではないかと思います。
 施工会社のオンライン化のノウハウも課題です。事例マンションでは、施工会社のプレゼンテーション(金額だけでなく、工事の提案や取り組み姿勢などを総合的に評価する)について、これまでのように集会室に来てプレゼンするのと同じものをオンラインで行った会社は全く見栄えがしませんでした。
 資料の表現も、会社の会議室でプロジェクターに映したものをオンラインで流すことになると、見ている方は小さくてなんだかわからなくなってしまいます。アプリによっては画面に資料を取り込むことは可能なのですが、オンラインでのノウハウが不足していたとしか言えません。
 リアルのプレゼンと、オンラインのプレゼンは資料作りから別物であることがわかりました。施工会社のオンラインについてもノウハウもこれからの課題と言えます。
 また、事例マンションでは初期投資で数百万円の支出がありました。光ファイバー導入の後のランニングコストも管理組合内部の合意形成が必要といえます。
 しかし、デジタル社会に背を向けて暮らすということはもはやできない時代です。いつかどこかの時点で管理組合がデジタル化、オンライン化に取り組まざるを得ないことは事実と言えます。俯瞰的あるいは中長期的視野としてのデジタル化への投資であると理解してもらうことが大変必要な事項ではないかと考え、課題とさせていただきました。

大規模修繕工事新聞 2022-06