月刊「大規模修繕工事新聞」は、一般社団法人 全国建物調査診断センターが発行するマンションの適正な管理に役立つ管理組合向けのフリーペーパーです。コロナ過を契機に発行形態を紙媒体から全面的に電子版に移行いたしました。それにともない、これまで首都圏、関西圏のみの発行でしたが、ネット配信の強みを生かし、全国規模に拡大しました。当HPでは、「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を右の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。今後とも、マンション管理組合さまのお悩みに寄り添い適切な情報をお届けしてまいります。

大規模修繕工事はコスト競争が墓穴を掘る!!

メーカーの材料費値上げは昨夏に続き、4月5月も続々と
 「前回の価格改定以降も値上げに歯止めがかからない」「企業の自助努力の限界を遥かに超える状況」―新型コロナウイルスまん延による世界経済の停滞と回復に伴う需要拡大、ロシアによるウクライナ侵攻による原油の高騰などで、原材料の高騰が続いています。
 日銀は5月の国内企業物価指数が前年同月比で9.1%上昇(15カ月連続上昇)したと発表しました。石油・石炭製品のほか化学製品などが上昇し、円安による輸入コストにも影響され、企業間の物価上昇は「消費者にとってもさらなる物価高が懸念される」といわれています。
 マンションの大規模修繕工事では、外壁や内壁の塗料、ベランダや屋上の防水材、部材と部材のつなぎ目を埋めるシーリング材、建具や支持金物などの材料も次々と価格改定が行われています。業界では昨年夏に続き、今年の4月、5月にも各メーカーが続々と原材料費や物流価格の値上げを発表しています。
 大手塗料メーカーの例では、昨年8月から8カ月後の今年4月に価格改定第2弾を発表しました。
 価格改定率はおよそ10%~ 30%です。1万円の塗料(15kg/缶)について20%と30%の2回の価格改定を行ったとすると、わずか8カ月の間に単純計算で約1.5倍…1缶当たり5,600円の値上げが行われることになるのです。
 外壁塗料はもちろん、共用廊下、ベランダ・バルコニー、屋上、庇等に使用する防水材、コンクリートのつなぎ目やタイルの目地、窓枠の隙間などに充填するシーリング材など、使用範囲の広い材料は全体工事費に大きく影響することになるでしょう。
 とはいえ、価格改定によってメーカーが安定供給できるかというと、そういうわけでもないようです。
 「100円のコストアップも売価への反映は44円にとどまる」―帝国データバンクが6月に行った「企業の価格転嫁の動向アンケート」(インターネット調査/アンケート期間:2022年6月3日~6日、有効回答企業数:1,635社)によると、仕入れコストが100円上昇した場合に44.3円しか販売価格に反映できていないという結果になりました。
 経済産業省では、コロナやウクライナ侵攻等を背景とする原材料費の高騰、円安の進行などで仕入れコストが上昇している現状を踏まえ、価格転嫁促進策を積極的に
推進させようとしています。
 しかし、一般社会の現場では、取引先との関係や価格競争から「企業ががまんできない状況」が生じ、値上げが繰り返される要因となっていると言われています。

賃金改善による人材確保も業績低迷の懸念材料に
 アベノミクスなども含め、日本ではこれまで数々の経済政策が実施されたが、結果として過去30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベルと言われています。実際は、初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費でみて「安い日本」となっているようです。
 昨年10月の最低賃金改定(約3%引き上げ)は過去最高の引き上げ額となりました。政府が6月7日に閣議決定した骨太方針2022では、全国加重平均1,000円の早期実現を目指しています。
 帝国データバンクに行った2022年度の賃金動向に関する企業の意識調査(調査期間:2022年1月18日~ 31日、有効回答企業数:11,981社)によると、賃金改善が「ある」と答えた企業(6,547社:54.6%)の主な理由は「労働力の定着・確保」が最も多くありました(2022年度見込み)。
 賃金を改善する理由で最も多かった回答は、「労働力の定着・確保」が76.6%でした。建築業界において、人手不足―特に下請け会社、職人は高齢化が進み、若い労働力の確保は深刻です。
 このため、賃金改善で人材確保に対応したいと答える会社は多くあると言えますが、賃金改善を「ない」と回答した企業(2,339社:19.5%)の主な理由は「自社の業績低迷」が64.7%で圧倒していました。
 賃金改善による人手不足解消を検討するよりも、人件費を上げることが業績低迷の懸念材料と判断する会社があるということです。
 一方、期待される外国人労働者の雇用にも受け入れ体制等に大きな経費がかかるといいます。「生活支援、労働災害防止のための日本語教育なども必要」「それでも管理組合からは外国人労働者を安く雇っているという目でみられる」と嘆く経営者は少なくありません。

工事費への反映は来春以降?コスト競争は工事の品質に影響する
 以上のように必要経費が値上がりしている現実は当然、大規模修繕工事等の全体工事費に影響を及ぼします。
 すでに工事契約をしている今秋、または来春の大規模修繕工事については、契約にある通りの工事請負金額で実行されます。
 ただし、これから工事契約を行おうとする来春以降の物件に対しては、原材料の値上げや人件費の高騰は全体工事費に跳ね返ってくることは否めません。
 これに対し、管理組合側があくまでコスト競争で施工会社選定を行うことは、結果的に工事の品質に影響することを承知しておく必要があるといえるでしょう。つまり、管理組合として墓穴を掘ることにつながりかねないのです。
 「今までのような値下げ交渉ではよい工事はできない」という理解を、管理組合側がもっと深める必要があるといえるのではないでしょうか。

大規模修繕工事新聞151号

材料の値上げはホームセンターの陳列棚でも明らか